学びの初期値を計測(後編)

先生方による「学ばせ方」を、生徒が備えている既得知識や問題意識、学習方策などにマッチしたものにアレンジすること。さらに、指導がどれだけの効果を得たのか、効果測定を着実に行い、改善を重ねていくこと。この2つはより良い授業を実現するには欠かせません。
双方(授業デザインの最適化と効果の正確な測定)を成立させるには、前提要件として「学びの初期値」を測定しておくことが不可欠、というのが、本稿(前編・後編)でお伝えしようとしていることの中核です。
学びの初期値として測定すべきことに以下の5つを挙げ、前編では最初の2つについて、考えるところをお伝えしました。後編では引き続き、残りの「3つめ以降」について考えを進めていきます。

❏ 準備に課したタスクを生徒はどこまでこなせているか

予習に課したタスクの履行状態も確かめずに授業を進めては、足元がどんどん崩れていくような状態にもなりかねません。
やってきたかどうかを点検するだけでなく、誤解や不明の分布などもきちんと捉えた上で、その日の授業づくりに活かしていきましょう。
前述のような「本時のターゲット設問」への仮の答えなどであれば、クラウド上の投稿フォームなどを利用して、そのままAIに「答えの類型化」「誤答分布」などを任せるのも好適です。(AIは、往々にして知ったかぶりをしますので、先生ご自身の目での確認は不可欠ですが。)
また、取り組みが不十分な生徒、同じ間違いをしている生徒が集まっていては、学び(対話による気づきの交換)もうまくいきません。「似た答案の生徒を分けるようにグループを作る」ようにプロンプトを作っておき、手間をあまりかけずに生徒のグループ分けを行いましょう。
ちなみにプロンプト(3つのフェイズに分けるのが好適)の例は、以下の通りです。場面に応じたプロンプト作りも、AIにやらせてみると、ある程度のものができますので、それを修正しながら使いましょう。

ここで行うのは、単なる課題の採点ではありません。課題への取り組み方まで掘り下げて、生徒のレディネスを捉えることが目的です。

  • 設問要件をどれだけ正しく理解していたか。
  • どこまで必要な情報を集められていたか。
  • 問いを重ねながら思考を深めた痕跡はあるか。
  • 情報の整理や思考のまとめ方は適切か。

などの観点で予め用意しておいたルーブリックをAIに読み込ませ、生徒が提出したもの(答案)から如上の状況を個々について推定させた上で、その結果を、グループ分けに反映させていきたいところです。
予習状況の観察は、本時の学びのスタートにちゃんと立っているかを調べることが第一義ですが、その結果を記録に残しておけば、一定期間の指導を経てクラスごとに生じた「観察(評価)結果の分布」の変化によって、そこまでの指導の効果も確かめられます。

❏ これから学ぶことへの認識/問題意識を把握

これから学ぼうとしていることに、学習を始める時点でどんな認識を持っているかを確かめておくと、学び終えたときにそれがどう変化したかで、一連の学習がもたらした「成果」を推定できます。
また、学ばせる側(先生方)が想定している「生徒が対象に持つイメージ」が大きく外れていると、言葉の一つひとつが生徒の琴線を捉えず、意図通りの効果を得なくなるリスクも抱えます。
〇〇(本時に学ぶこと)に対して、どんなイメージを持っているか、事前のアンケートなどで調べておくことは重要です。

  • 〇〇についてどんなことを知っているか/知りたいか(これまでに勉強したこと、疑問に思っていること)
  • 〇〇にどんなイメージを持っているか(典型的な数項目を挙げ、当てはまる度合いを5択などで訊く)
  • 〇〇が、自分や自分の身の回りにどんな影響を及ぼしているか調べて、考えをまとめなさい(調査型レポート)

といった質問(アンケート)や、簡単な調べ学習を課してみると、生徒のアタマの中にあったことを外在化させ、捉えることができます。
授業を終えた後、生徒には自分が答えたこと(回答)に立ち戻らせて、学びを経て「それがどう変わったか」を書かせてみましょう。生徒一人ひとりの「変化」と、それを類型化したときの分布の変化には、授業がもたらした生徒/クラスの成長が読み取れるはずです。
訊き方のパターンは、科目の特性で幾つかの汎用的なものと、単元固有のものが必要になりますが、教科内での経年的な協働で、それらが確立していくにつれて、準備の作業の軽量化は徐々に進むはずです。

❏ 過去の学習体験とそこで得た学び~何を土台にできるか

生徒が入学前(進級前)に何をどう学んできたかによって、ここからの学びが土台にできるもの(土台)が大きく変わります。
各教科で「何を」学んだかについては、前校種でも、学習指導要領の規定や教科書に記述に沿って指導が行われてきたはずなので、ある程度の見込みが立ちますが、「どう学んだか」は違いが小さくありません。
生徒に直接「どういう学び方をしてきたか」と尋ねても、自分の学びを相対化できている生徒はレアでしょう。整った/まともな答えは返ってきません。課題や活動に取り組ませて、そこでどのような行動や姿勢を見せているかを観察するしかありません。

日々の授業の中で観察を重ねながら、どんなことをどこまで要求できるか見定め、次の授業/単元での授業デザインに生かしていきましょう。
この「どんなことをどこまで」をルーブリックに仕立てて、継続的に評価を行い、その結果を記録に残していけば、成長の軌跡を定量化すること、何をきっかけに大きな変化が生じるかの推定もできるはずです。
また、教科学習以外にも、校内外の体験学習や、総合的な学習の時間での取り組みでは、「何を」経験したかも、出身校などでまちまち。どんなことを経験し、その中で何を考えたかを、入学の後の早いうちに、学年で足並みを揃えて調べておくのが好適(省力化にも有利)です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一