探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問

教科学習指導において、各単元の内容を理解することは、「ゴール」というよりむしろ「中間地点」と捉えるべきものと考えます。単なる理解に止まらず、獲得した知識や技能が活きて働くことは必達目標ですが、さらにその先もあるはず。そこに導くのも先生方のお仕事です。
理解したことの中に新たな疑問を見つけて掘り下げていけば、知の地平が広がり、解決すべき自分事としての課題を見つけることもあると思いますが、外からの働き掛けなしに生徒がそこに行き着くのは困難です。
授業で学んだことの中に潜む「掘り下げてみるべきことがら」に気づくきっかけを、答えを導くべき問いの形で与えましょう。そうした問いに向き合う経験は、探究活動におけるテーマ選びにも寄与し、その先には学んだことを通じて持つ社会との接点(進路意識)も生まれます。
教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させるだけでなく、その興味を起点とした学習(調べる、考える)を体験させることが肝要です。

2018/10/03 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 潜在的な興味があるからこそ、高度な問いにも反応する

本時の授業/単元の学習が終わるところで(あるいは途中の適切な箇所で)、授業で学んだことをもとに、生徒が身の回りにある問題について調べたり、考えたりすることを、問いを通じて求めてみましょう。

あくまでも「プラス α」 の1問なので、考査にも出ないし提出も任意。答えができたら見せてね、という感じでサラっと与えるのがコツです。
大方の生徒は、「ふ~ん」というあいまいな/希薄な反応しか示さないかもしれませんが、中には食いつく生徒がいるかも。もともと潜在的に興味を持っていた(あるいは具体的な進路希望と既に結び付いた顕在的なものかも)からこそ、その生徒は問いに食いついてきたはずです。
そこで生徒が作った答えや考えに、適切なフィードバックを与えれば、さらなる興味を喚起できるかもしれず、進路選択の支援も行えます。
問いは、先生方がご自身で作った「オリジナル」に限らず、出題研究を通して見つけたものも好適です。大学入試問題は各々の専門領域を持つ教員が作成するため、高校で学ぶ範囲を一歩踏み越えたところにネタを取ることもあり、こうした場面での学びによくマッチします。

❏ 見つけた興味を探究で掘り下げたところに進路希望

教科書の内容から少し飛び出したり、他の教科・科目との接点に設けたりした1問は、拡張型調べ学習やミニ探究の格好の材料になります。
興味に従って調べたり考察してみたりする中で、生徒は新たな気づきを得て、興味はさらに広がっていきます。当然、そこでは情報を収集したり、集めた情報を評価するスキルなどの獲得・向上も期待できます。
こうした知的活動のきっかけを作るのは、各教科の学習指導が担う役割の一つ。身近な問題/社会が抱える課題と各教科で学習する内容の接点を「問いの形」で示すことで、生徒に学びの先を認識させましょう。
探究活動のテーマ選びで躓く(=本来の目的に沿ったものにならない)原因の一つは、日々の教科学習の中に「学びの過程で見つけた興味を、掘り下げて調べ/考える機会」が欠けていたことだと思います。
興味を掘り下げた先には、進学先で学んでみたいこととの出会いがあり、それらが「学んだことを通じた社会との接点」になっていくはず。

こうした興味を起点とする一連のプロセスを経て作られた進路希望は、従来の「ゴールを決めて最短距離」というアプローチとは異なる「自分の未来への向き合い方」を生徒にもたらすのではないでしょうか。

❏ 全教科で整える、興味の所在を探り、自分を知る機会

こうした「プラス α の一問」が持つ教育効果を、大きく且つ確かなものにするには、「特定の科目の取り組み」に閉じないことが大切です。
ある科目の担当先生しか、如上の問いを発しないのでは、他領域での興味は埋もれたまま。全教科で足並みを揃えてこそ、生徒は広い範囲の中で、自分の中の好奇心が反応する場所(=興味の所在)を探れます。
自分が何に興味を持っているかなんて、実際にそれに触れてみる機会がなければ知り得ません。計画的偶発性理論のジョン・D・クランボルツも「いろいろな活動に参加して、好きなこと・嫌いなことを発見するために、どんな活動にも積極的に取り組もう」と言っています。
問いを与えて考えさせてみることは、生徒に自分を知る機会を提供することに他なりません。これを偏りなくできるのは、生徒の選択によらず広い科目を履修させる、高校までのカリキュラムの中だけでしょう。

❏ 問いは先生方が与えるだけでなく、生徒にも作らせる

探究から進路に繋がる問いは、先生方が用意して生徒に与えるだけでなく、生徒自身に作らせていくことにも注力したいところです。
学んで理解したことの中に、解き明かすべき不明(問題)を見つけることは、とりもなおさず問題発見力(思考力を構成する要素の一つ)であり、それを鍛える機会を、不用意な先回りで奪わないことも大事です。
その日の授業を終えるとき、あるいは単元を学び終えるごとに、教科書の記載の中に問いを作るタスクを課してみるだけでも、その力を伸ばす機会が持てます。別稿で書いた通り、学びを深めるにも有効です。
教材や資料に載っていること(テクストに加え、データや図表なども)を改めて観察し、そこに解明すべきものを見つける練習にもなります。

❏ 探究のテーマを決めるまでの期間で重点的に

探究活動のテーマ探しは、生徒にとって大仕事。興味の持てるテーマや突き詰めるべき問いが見つけられずに迷う生徒も少なくありません。
これを放っておくと、適当な調べ学習でお茶を濁したり、進路と結びつきそうもない「道楽の延長」に止まったりすることもしばしばです。

そうした探究テーマ探しのきっかけを作るのも、各教科の学習指導の中で先生方が発する問いの一つひとつが担う役割ではないでしょうか。
探究テーマをゼロから探すよりも、先生からの問いに応えてあれこれ調べてみる中での方が、選ぶべきテーマを見つけるのは容易なはずです。
調べ尽くしてなお残った疑問の中にこそ、突き詰めて解明すべきことがらが存在しているはず。テーマ探しを最初のタスクにするのではなく、問いを起点に「調べ、考え尽くす機会」を設けることが先決です。
探究活動のプログラムの中でテーマを決める時期がありますので、それを見越して、入学時から継続してそうした問いを発し続けましょう。
出題研究を通して見つけた、前述の「高校で学ぶ範囲を一歩踏み出したような問題」は、教科学習指導と探究活動、進路指導を結び付け、指導効果のシナジーを得るためにも欠かせないものだと考えます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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