理解度の確認~場面と方法(その3)~小テストの活用

前稿では「発問」を通じた理解度の確認方法について考えてみました。導入・展開・まとめのいずれの局面でも、発問という形態が持つ「反応の即時性」「対話への繋ぎやすさ」という強みを生かしたいところ。
確認に頻用されるもう一つの形式は「小テスト」。よくある求答式や選択式の回答方式では、理解しているかより、覚えているかどうかに測定が偏りがちという弱みもありますが、一方で、正誤の結果や誤答の分布を定量化しやすく、データを効果検証などに活用できるのは強みです。
弱みと強みの両方を知った上で、適切な使い分けをすることで、それぞれの形態を十分に生かしていきましょう。ICT/デジタルツールの進歩によって、小テストの採点のみならず、結果の解析も手軽にできるようになりました。使い方の可能性は大きく広がっています。

2014/05/26 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 発問による確認の強みは即時性と掘り下げの力

小テストによる確認にはいくつか弱点があります。理解確認の鉄則は、別稿でも詳述した通り、「その場で」と「言語化して」の2つですが、昔ながらの「紙を使った小テスト」はそのどちらも苦手です。
学びが次のフェイズに進むタイミングで小テストを行っても、回収して持ち帰り、採点や点検をしていたら、その場で(学びを進める前に)、不明や誤解の分布などを把握することはできません。
後手を踏むリスクを知りつつ、生徒が小テストに向けて復習し、必要な内容を覚えてきてくれたと信じて授業を進めるしかないのが現実です。
採点の結果、合格点に達していない生徒に再テストなどのペナルティを課したところで、本時の学びの土台が整っていなかったことに変わりはありません。固まらない土台の上に不明を重ねさせた可能性が大です。
また、鉄則の2つめである「言語化して」は、問いや解答形式を工夫すれば、ある程度は実現可能ですが、印刷で固定された設問では、生徒の発言(回答)を受けて次の問いに繋いでいくのは不可能。問いで気づきを与えて、理解や思考の不足を補ってあげることもできません。
タブレットPCやスマホから、Googleフォームなどで作った小テストに回答させる形なら、即時に回答の分布が捉えられます。誤答のパターンなどに応じて、必要な声掛けや追加説明に繋げるのも容易になります。
正誤の分布を見ながら、先生がその場で次の問いを投げ掛けることもできます。生徒に正解を導く根拠や誤答を選んだ理由を言語化させれば、思考を掘り下げられ、「理解と思考を深める対話」が実現します。
隣の生徒と相互採点をさせるには、紙も便利かもしれませんが、狙った通りの効果が出ていないなら、デジタルへの移行を図るべきでしょう。
フォームに組み込んだ自動採点で「正誤判定」だけを表示して、間違い直しに取り組ませれば、復習と再記銘の機会も確保できます。

❏ 正誤の分布をデータで記録できるのが小テストの強み

発問による理解の確認だけでは、全員の正誤の分布を網羅的に把握するのは事実上無理でしょうし、記録に残すこともできません。この弱点を補うには、小テストをしっかりと活用する必要があります。
クラス全体での平均点や得点分布といった集計の結果では、「そこまでの学ばせ方の効果」を大雑把に推定するところまでしか役には立ちません。小テストで知りたいのは、設問ごとの正答率や誤答の分布です。
たとえば、ある小テストで平均点が10点中7点だったとします。この結果から、クラス全体でみると、学習させた内容の7割程度は理解されていた(らしい)との推測はできます。
しかし、どの設問で、どのくらいの生徒が取りこぼしているかが分からなければ、その後の指導で何を補っていくべきか、判断ができません。
不正解にも、それぞれ「誤答の理由」があります。どんな誤答がどれだけ発生したかを知り、その背景にどんな不明や誤解があるのか、きちんと推定しないと、指導の修正も授業改善も「勘頼み」になります。
小テストでは「点数」だけを記録するのではなく、設問ごとの回答分布を可視化して初めて、より確かな学びに繋げられるということです。
ここでも小テストの運用にICTを積極的に活用するのは合理的。生徒一人ひとりの答えを記録し、データとして蓄積していけば、様々な角度からの解析で、指導に役立つ知見が得られる可能性があります。

❏ 小テストは「覚える力」を養うトレーニングの場

小テストは、「覚える(記銘)/思い出す(想起)力を獲得する練習」として極めて有用。テストがあるとなれば、生徒は否応なくそこまでに学んだことを見直すため、重ね塗りでの学びの深化も期待できます。
こうした機能は、タイミングを問わずに使えます。学びを次のフェイズに進める前に、しっかり内容を認識させ、記憶に刻み付けたいのであれば、授業の途中に小テストを挟み込むというのも選択肢でしょう。
特に、家庭学習の習慣が確立しておらず、小テストへの準備を「宿題」にしても履行率が十分に上がらないケースでは、授業中に「ここまでの内容を3分後に小テスト!」と宣言して頑張らせてみるのも好適です。

生徒は教科書・ノートに目を走らせ、必死に覚えようとするはずです。理解の確認が目的とすることは、「次に進むためのレディネス作り」ですから、この3分間はその目的を十分に果たしていることになります。
こうした活動を通して、短時間で集中して覚えるコツ(他の生徒のやり方も参考になります)を学び取り、覚えきれたことを快体験と認識すれば、それを機に宿題や復習への取り組みにも改善が期待できます。
また、生徒が小テストに向けた準備をしている様子を観察していると、その時点で生徒が身につけている学び方も窺い知ることができます。
太字などで強調されたところにしか視線と意識を向けていない生徒や、理解しているかどうかはそっちのけでひたすら書いて覚えるだけの生徒がいたら、やり方(学習)の改善を促す声掛けも必要でしょう。

❏ 小テストの余白で生徒とのコミュニケーション

学習内容の理解度を確認するという本来の目的とは少しずれますが、小テストの余白をミニアンケートに使うことで、生徒の学びに向かう姿勢や、本人の認識における「進捗と課題」を把握することもできます。
何らかの改善テーマを持って授業改善を進めているときは、その項目について質問を設け、生徒の認識(理解)を確かめてみたいところです。
新たに試している方法が、生徒視点でどんな評価を得ているのかを知れるため、想定違いであらぬ方向に走ってしまうリスクも避けられます。
また、学び終えた単元や前回の授業の中での気づき、その中で新たに見出した興味などを書いてもらうことで、学びがどんな成果を結んだかも推定できますし、生徒が書き起こしたこと(=リフレクション・ログ)を教室でシェアすれば、生徒間の相互啓発の材料にもなります。
前回の授業やそこで課した宿題の難易度を生徒がどう感じていたかを尋ねてみるのもお奨めです。授業評価アンケートで尋ねる「総合的な難易度」と違い、直近で課した個々のタスクについて把握ができます。
また、前回の復習や宿題、小テストの準備などにどれだけ時間がかかったかを訊けば、「学習時間調査」で把握できる「習慣化/平均化された結果」と違った、課題ごとの所要時間がわかります。宿題量などを調整するときの、貴重な判断材料(定量データ)になるはずです。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一