理解度の確認~場面と方法(その2)~発問による確認

理解度を確認する方法には、発問、小テスト、課題等の提出物の点検、生徒同士のやり取りなどの観察といった様々なものがあります。
それぞれの方法に長所・短所があり、用いるべき場面や上手に行うために押さえておくべき「勘所」も違います。まずは、発問/問い掛けによる理解度の確認から、場面を分けて効果的なやり方について考えます。

2014/05/23 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 新しい概念等を学ばせるときの前提理解を確かめるとき

授業の冒頭に限らず、新しい内容やテーマに進むとき、生徒がその時点で備えている知識や理解、発想や経験、問題意識などを「指導の計画を起こしたときの想定」に一致させて/近づけておく必要があります。
以前に教えたのだからわかっているはず、という乱暴な思い込みはないと思いますが、「きっとわかっているだろう」という希望的観測には陥りがち。予断を持ちこまぬよう、しっかりと確認を重ねましょう。
別稿「正答率の予測ができれば授業設計も最適化」でも触れましたが、現時点での理解の度合いや知識の有無をきちんと想定できていないと、授業は的外れなものになり、学びの成果は上がらなくなります。
前日の授業で学んだことですら、教えたこと/学んだことが記憶から消えている(自在に想起できない)のは珍しくなく、ましてや、何か月も前に学んだ単元の理解を土台にするとしたら、きっちり確認しておかない限り、先に進むことはできないはずです。

❏ 確認と再記銘はできるだけコンパクトに

導入時の確認では、既習事項のうち「これから行う説明を理解したり、問いを起点に思考を進める上で不可欠なもの」に対象を絞りましょう。
目的と対象を絞らずに、漠然とした「既習内容」に確認の範囲を広げてしまうと、本時の学びと関連の薄いところが膨らんでしまい、余計な時間もかかれば、焦点もぼけたものになり、効果は薄れるばかりです。
本題に中々進まなければ、既にわかっている生徒にとっては退屈な時間でしょう。いかにコンパクトにまとめるかは、まさに腕の見せどころ。
また、ここで避けるべきは「既習内容の教え直し」です。要点に絞って先生が説明をし直しても、その効果は限定的。既にわかっている生徒には何の学びもなく、わかっていない生徒は理解できないままかも。
クラス全体に問いを投げかけて、教科書やノートから該当箇所を探させて、そこに何と書いてあるかを確認させる方が、はるかに効率的です。わかっている生徒も、周辺に理解を広げるチャンスが持てます。

ちなみに、問いかけで確認したことのうち、生徒の理解に不安があると感じたところは、黒板の片隅(しばらく消さないで済むところ)に書き出し、目線を走らせるだけで参照できる位置に固定しておきましょう。
問い掛けられてその場で思い出しても、また記憶の中に埋もれてしまうことも少なくありません。視野に固定しておけば、少なくともその後の活動に取り組む間、前提理解を欠いたままという状態は避けられます。
ちなみに、導入フェイズに限りませんが、問い掛けを行う場合、生徒を指名してからという順番はNGです。(生徒を指名して発言させるとき
指名された生徒以外が、記憶も辿らず、教材のページも捲らず、他人事のように傍観していることもあります。自分に問いが向けられていると思ってこそ、わからないときに「わからない」との表情が浮かびます。不用意な「指名の先行」で観察の機会を失わないようにしましょう。

❏ 説明を進める途中、そこまでの理解を把握するとき

説明を進める中、要所でそこまでの理解を確かめることがありますが、教えた通りのことを生徒が言えるかどうかだけでは、確認不十分です。
導入や例題で「AがBだからCになる」と教えたときに、まったく同じように「A→B→C」という流れを生徒が再現できたとしても「オウム返し」に過ぎないかも。確かめられたのは「覚えた」ことだけです。
尋ね方としては「では、A´ならどうなる?」「そう、B´だよね」「となると、導ける結論は?」といった具合に、文脈を少し変えてみるのが好適です。別の状況に同じプロセスを当てはめ、正しいアウトプットが得られてこそ、「理解している」ことになります。
最後の質問に、生徒が正しくC´と答えられたら、とりあえずOKかもしれませんが、本当に理解しているかを確かめるなら、なぜその答えになるのかを尋ね、思考をどう言語化できるか観察しましょう。

指名して発言させる以外にも、隣同士で説明をさせ、その様子に耳を傾けてみるのでも良いし、ノートに書き出させたものを覗き込むのも好適です。タブレットから「投稿」させれば、さらに効率的かと思います。
こうした確認を経て、「正解を導けた上に、理由や根拠をしっかりと言葉にできているようなら、理解は十分と判定しても良さそうです。
こうした手順での確認を重ねるうちに、生徒の側では「理由まで立ち戻って考える」ことを習慣にするでしょうし、「理由や根拠を正しく説明できない限り、理解できたことにならない」との認識も持ててきます。

❏ 学んだことを使ってみる機会の前にもきちんと確認

ひと通りの説明や概念の導入を終えたら、そこまでに獲得した知識を、考察や課題の解決に活用する(生きて働かせる)場面に進むはずです。cf. 課題解決を伴わない知識獲得は…[検証編/考察編]
ここでも理解の確認は不可欠。もし理解の形成が不十分だったら、課題に挑ませても返り討ちに会うばかり。学びの成果を結びません。
そこまでに学んだことをきちんと振り返り、整理をさせ、不足や不備はきちんと補ってから(あるいは補いながら)、課題に挑ませましょう。
手っ取り早い方法としては、そこまでの板書を辿り直しながら、

 「ここではどんな処理をしたんだっけ?」

 「どうしてここに補助線を引いたの?」

 「これをαと置き換えたことがあとでどんな意味を持った?」

といった具合に尋ねていくやり方です。瞬間ごとに積み上げられながらもバラバラだった理解がひとつの流れに「統合」されていきます。
もう一つの方法は、これから答えを作ろうとしている問いにどうアプローチをするかを考えさせ、隣同士などで話し合わせてみることです。説明途中の理解確認(前述)でも使った、汎用性の高い方法と言えます。
自らの理解を言語化すれば、理解はより確かなものになりますし、ペアの一方が分からないところを抱えていても、教え合って補えます。

❏ まとめの段階など、学んだことを整理・深化させるとき

ひと通りの学びを終えたところでも、そこまでの理解を確かめ、更なる思考の起点となる問いが必要です。導入フェイズで示した、本時の学びを俯瞰し得る問い(=ターゲット設問)にしろ、新たに立てた問いにしろ、「学んだことを用いた思考」の中で、学びは仕上げに向かいます。
そうした問いを提示した上で、 

 「この問題のポイントは何だと思う?」

 「今日、勉強した中のどの知識・道具を使うべき?」

 「題意をどう捉えれば解法に繋がりそう?」

といった問いが、本時の学びを確かめ、答えの仕上げに向かう思考を発動させます。(次回の予習に向かわせるにも同じ手法が有効です。)
短時間でも、こうした思考を経ることで、取っ掛かり(思考の足場)を持てる分、取り組みの意欲も、課題の達成可能性も高まります。「こうやればいいんだ、なんだか解けそうだ」という展望も好適に働くはず。
答えを仕上げる過程では、不明が残っていたことに気づいたり、新たに掘り下げてみたいことに気づくこともしばしばです。そこからさらに踏み込めるかどうかは、学びがどこまで深化・拡張するかを決めます。余力を残す生徒には、そうした誘導も忘れないようにしましょう。

また、これとは別のアプローチですが、学んだ範囲をもう一度見返しながら、その中に新たな問いを立てることを生徒に求めてみるのも好適です。不明の所在を探したり、記述されていないところに思考を巡らせることで、より深いところでの「理解の確認」が行えます。

その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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