新しいことを学ばせるときは、「これから学ぶこと」について、生徒がこれまでの(教室に限らず生活のすべてを含む)学習を通し、何をどこまで知り、どう捉えているかを把握しておくことはとても大切です。
生徒が既に知っていること/イメージできていることと、授業を経て形成を図る「十分で正しい理解」との差分を埋めることが、本時の指導で達成すべきことである以上、学びのスタートで生徒がどこにいるのかを把握することは、指導を計画する上で、必須要件の一つです。
2020/10/13 公開の記事をアップデートしました。
❏ まずは、知っていることを自由に発言させてみる
プレースメントテストなどはせずとも、「〇〇についてこれまでにどんな勉強をした?」「今日は〇〇の歴史を勉強するけど、〇〇にどんなイメージを持ってる?」と訊いてみるだけでも効果的でしょう。
求められる正解がない問いですから、生徒は発言がしやすく、頭の中に浮かんだものを次々と言葉にしてくれるはずです。隣同士で話し合わせて、そこでの言葉を拾い上げ、教室でシェアするのも好適です。
発言を受けて問いを重ねていくとさらに発言を引き出せます。「戦国武将というと誰が浮かぶ?」と訊いてから、「何で知った?どんなことで有名?」と繋いでいけば、生徒は持てる知識で答えようとします。
他の生徒の発言に触れることでも、保持されていた記憶が想起されますので、次々と言葉になって出てくるはず。「生徒がどこまで知っているのか」は、比較的短時間で、ある程度まで把握ができそうです。
中には、教科書や資料集の本時の学習範囲を開いて参考にしている、気の利いた生徒もいるはずです。そんな姿を見つけたら、すかさず「何て書いてある?」と振ってみれば、他の生徒にも同様の行動を促せます。
思いつくことを次々に発言させていけば、効果的なウォーミングアップになり、その後の学習でも活発な発言を引き出しやすくなるはず。対話的な学びの実現に向けた「準備運動」といったところでしょうか。
❏ 発言を拾い上げながら、マインドマップなどで構造化
せっかくの発言も、聞いているだけではもったいない。文字に起こして生徒の視野に配置してこそ、発想をさらに刺激することができます。
文字に書き出さないと、本時の学びに繋がる有益な発言があったとしても、その後のワイワイ・ガヤガヤで意識から押し出されてしまいます。それでは「学びの土台」を膨らませることができません。
生徒の発言を拾い上げながら、先生方が黒板を使ってKJ法で整理したり、マインドマップに描き出してみたりすれば、個々にバラバラだった生徒の発言(持っていた知識やイメージ)を構造化できるため、本時の授業のスタート地点となる「既習内容の全体像」の整理も付きます。
同時に、こうした自由な発言をとりまとめ、議事を整理していく方法を実地に「見せる」ことで、協働場面での有用なスキル(ファシリテーション・グラフィック)も学ばせることができるのではないでしょうか。
描き上げた前提理解の全体像に、新たに学ぶものを書き足し、加えていけば、既習内容からのスムーズな展開ができますので、生徒にとっても腹落ちのしやすい学びになる可能性が高そうです。
構造化されたものを目にすれば、そこに気づきを得たり、新たな疑問を見つけ出したりする生徒もいるはず。それらを調べたり、話し合ったりする中で、学びは効果的に広がり、深まっていくはずです。
❏ ICTを利用して、より精密な言語化とより広い発言
如上の「導入アクティビティ」は、生徒が持つタブレットやスマホからGoogleフォームで作ったアンケートに回答させる形でも行えます。
口頭での発言を拾う場合より、文字に起こす分だけ「曖昧さ」を削り落とした発言になりますし、同時にいくつも発言を拾い上げることができるため、遠慮がちな生徒が発言機会を失ったり、一部の生徒が全体の発言を支配してしまうカオスのような状態も避けられます。
個々の生徒が周りのペースに煽られずにじっくり考えたり調べたりできることを優先したいときは、前時の終わりに如上のアンケートを公開しておき、次の授業までに回答させるというやり方もあり得ます。
先生方にとっても、生徒の事前理解の分布をあらかじめ知っておくことができるため、授業デザインの最適化を考えて教室に臨めます。
2クラス以上の生徒の発言を統合したり、その整理にAIを利用したりといった、工夫の幅も広くもてるのではないでしょうか。
ただし、一人の発言を起点に、他の生徒がインスピレーションを得て、発想が広がるという「ライブ(対面)」での対話ならではの強みは出てきませんし、発言を構造化しながらの整理も難しくなります。
2つの方法(対面での発言、フォームの事前投稿)は、その場の目的、クラスの特性、先生方が備えるスキルなどで使い分けるのが好適です。
❏ 生徒の知識・イメージを導入フェイズで把握(再)
本稿で申し上げてきたのは、生徒の既得知識の分布やその濃淡を把握しておくことは、授業の展開を想定する上でも、本時の学びを円滑に指導するにも欠かせず、成果(学び)を大きく左右するということです。
授業の開始から、既に知っていることを長々と話されたら、「そんなこと、知ってるよ」と退屈するばかりです。「よし学ぶぞ」と意気込んでいた生徒も、肩透かしをくらって、意欲を失ってしまいそうです。
また、知っていることを出し合い、これから学ぶことへのイメージを膨らませることは、学びの中に出てくる新しい事柄を頭に入ってきやすくするなど、学びへのレディネスを整える意味も小さくありません。
関連する既習単元を学んだときのテストの結果(実際の問題と設問別の正答率)なども「どの程度の理解を期待して良いか」を推定する上での有力な材料ですが、常にアクセスできるとは限りません。
また、テストから時間が経っていれば、その後の積み上げ/忘却が入り混じる中、正確な予想も難しいはず。毎回の授業/単元の入り口では、しっかりと生徒の頭の中を除く機会を持つようにしましょう。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一