体験のたびに感じたことをしっかり考え、言語化&記録

日々の学校生活の中では、生徒は様々なことを感じたり気づいたりしていますが、それを漠然とした感想にとどめず、少し立ち止まって考えを深めさせるとともに、言語化し記録に残すことを習慣にさせましょう。
先生方とのやり取りや周囲との会話、あるいは授業で読んだ資料など、生徒が受ける「成長のための刺激」は学校生活を送る中のあらゆる場面に存在していますが、それらをもとに熟慮する機会がなければ、気づきや学びは深まりませんし、言語化と記録なしには忘れ去りがちです。

❏ せっかくの気づきは、揮発させずに深めさせる

学校生活を送る中で、生徒は様々な刺激を受けていますが、何もせずにいたら、せっかくの刺激も一過性のものになってしまいます。刺激を受けて感じるところがあったら、立ち止まってじっくり考えてみることを習慣とさせたいところです。
漠然と感じたことやモヤモヤと残ったものに向き合い、それらの正体が何か、なぜ自分はそう感じたのかを考えていくことで内省が進み、自分のことがより良く分かってくるのではないでしょうか。
ホームルームや授業の中で先生方から聞いた話や、周囲の頑張りなどに触れて、感銘を受けたり反省したりすることがあったら、すぐにその場でメモに残すようにさせていきましょう。
後日、改めて読み直してみれば、そこには成長のための材料がぎっしりと蓄積されているはずであり、「自分との対話」が生まれます。
単語やフレーズの羅列に止めては大した効果はないかもしれませんが、一定の思考を経て、構造化した文章に起こすところまで進めれば、実のある内省が行われるはずです。

❏ 自分が書いたものとの対話で新たな気づき

体験のたびに書き出したものを定期的に読み返してみる機会も持ちたいもの。週末に一週間分のメモを読んでまとめ直すことを習慣づけたり、学期末などに行わせる振り返りに活用させたりしてみましょう。
自分が書いたもの(=考えたこと)に改めて向かい合うことは「振り返り」そのものであり、次に向けた課題形成の好機となります。
刺激に富んだ日々の生活を送る中で、記憶はどんどん上書きされていきますので、あるときに感じたこと/考えたことも、しばらくすれば意識の中から消えて(=想起できなくなって)しまうもの。
体験と思考を言語化して記録(メモ)に残してあれば、そのときの自分と改めて対話することができ、さらに思考を深められます。
その場ではしっかり考えたつもりでも、後で読み返してみると往々にして思考の不足や論理の破綻が残っていることに気づくもの。
メモを起こした時点から積み上げてきた体験と学びが、過去の自分の物事の捉え方や考えに対し、新たな問いを立てさせてくれます。

メモを読み直して改めて考えるところがあれば、最初のメモには加筆や修正がなされますが、その繰り返しこそが内省や思考を掘り下げます。

❏ 進路選択に向かう体験と内省の記録

日々の体験をもとに内省した結果に向き合い直して実現する「自分との対話」が最も重要な意味を持つのは、進路選択に向かうプロセスにおいてではないでしょうか。
進路講演や体験学習などでは、リフレクション・ログをポートフォリオに残させる指導を行うと思いますが、進路意識を形成していく上での刺激は、そうした体系だった指導機会以外にもたくさんあります。

授業で読んだ資料や新聞やテレビの報道の中に、自分の未来との接点になり得るものが転がっていることもあるはずですが、振り返りシートを与えられ、提出を求められるときにしか「内省と言語化」を行わないのでは、進路意識形成の好機をみすみす逃すことになります。
日々の生活の中で得た貴重な刺激を、一過性の感想にとどめて記憶から揮発させてしまうのと、少しでも立ち止まり、考えたことを文字にして残していくのとでは、「刺激を消化して自らの血肉にできる度合い」にずいぶん大きな違いが生じるように思います。
ちなみに、探究活動のテーマを選ぶときにも、それまでの各教科の授業や体験学習などの中で感じたこと、気づいたことの蓄積に立ち戻れれば土台のしっかりした、より好適な選択ができるのではないでしょうか。

❏ 体験と気づきを串刺しにしてみて得られるもの

その時々に起こしたメモ(=バラバラに記録されていたその時々の思い/考え)を、どこかのタイミングで「串刺し」にして眺め直してみると互いがカチッとはまり合うことがあります。
ジグソーパズルを思い浮かべてみてください。ピースが組みあがってくるにつれて、まだ発見していないピースがどんな色合いや形をしているかも想像でき、そのピースを探しやすくなってくるものです。
様々な体験の中で得た気づきやそれをもとに考えてきたことを土台に、思考に焦点を持てば、かすかな刺激も見逃さずに拾い上げていけるようになるはず。課題意識をもった学びが大きな成果を結ぶのと同じです。
進路希望調査に答えるときや、志望理由書などを起こすときにも、これまでに蓄積してきたメモにしっかり目を通せば、まだ見つけていない/手に入れていないピースを探す(=調べてみたり、考えてみたり、誰かに相談してみたりする)ときに、どちらにサーチライトを向けて探索に臨むべきか、「焦点」がよりはっきりするはずです。
気づいたこと/考えたことを言語化してメモに残す行為は、それ自体が目的ではありません。後日に行う「メモを介した自分との対話」をより深く、充実したものにするための手段です。書き上げたメモは、くれぐれも散逸しないよう、一か所に集約して管理するようにさせましょう。
ノートを用意し、付箋に起こしたメモを整理しながら貼り込んでいくことを習慣化しておけば、新たな気づきを得たときに、付箋を貼り換えて再構成することも簡単にできます。ICTとともに普及が進んだデジタルノートを使えば、検索や再編集もさらに容易でしょう。



気づきと内省の記録は、ポートフォリオの一部を構成するリフレクション・ログそのものです。総合型選抜で必要になる出願書類と捉えるだけでは負担感が増すばかりですが、生徒が自分自身をより良く理解し、将来に向き合う上で欠かせないもの、自分を成長させて将来に向き合うのに不可欠なものと理解させ、日々の生活の中での体験を通して感じたことに思考を与えて言語化、記録することを習慣化させましょう。
授業に限らず、学校生活の中でのあらゆる体験と学びの場で、言語化された「気づき」をクラスでシェアできれば、相互啓発もさらに強く働くはずです。cf. 生徒が互いに刺激し合い、共に成長するクラス
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一