教育内容の充実を伝えるにはエビデンスを

どの学校も、建学の精神や教育理念を時代の変化に合わせて再解釈しながら、新たなチャレンジを重ねています。何を目指して、どう取り組むかを伝え、「理解と共感」を得て学校を「選択」してもらうには、

  • 様々な教育活動を「建学の精神や校是を中心に据えたグランドデザイン」の下で統合、構造化しておくこと
  • これまで取り組んできたこと/これから採り入れていくことの効果をエビデンスを持って示すこと

という2つの要件を満たすことが不可欠です。日々の教育活動を推し進めるに当たり、ゴールの確認(見失わないこと)と、日々の進捗と改善課題を常に捉える現況把握/効果測定を怠らないようにしましょう。

❏ 意欲的な取り組みこそ、効果をデータで示すべき

意欲的な挑戦を新たに始めるときは、メッセージを受け取る側にも「馴染みがない」ことを踏まえた、意識的な広報を行っていく必要があります。とりわけしっかり伝えるべきは、以下の3つでしょうか。

  1. どんな学びの場を学校が用意しているか
  2. それが何のためなのか、なぜ必要なのか
  3. それがどんな効果をもたらしているのか

学校説明会などを見学していると、たいていの場合、1.と2.はかなり強調して伝えられていますが、3.については主観的な思いだけで語られることが多いように見受けられます。
特色ある教育活動についても、効果測定で得られたデータをきちんと検証して、その効果を実証的に伝えているケースは稀なように感じます。
課外活動(部活動や生徒会活動、学校行事など)に力を入れている学校でも、その盛り上がりや実績を伝えるだけで、それらを通して能力や資質の獲得がどれだけ進んだかを示すデータはほとんど見かけません。

❏ 様々な評価結果を蓄積して、効果検証のデータに

あらゆる教育活動は、学校/先生方のみならず、生徒や家庭の投資(時間もその一つ)の上に成り立っています。そこで得られた効果が、投じたコストに見合うことは、大げさに言えば「存続の要件」でしょう。
どれだけの効果が得られたかは、「評価」の結果に基づき、初期状態と取り組み後(ビフォー&アフター)を比べて把握するしかありません。
すべての教育活動について、目指しているものを書き出した上で、評価基準(ルーブリックなど)に整えておくのはその前提になるはずです。
取り組みに参加した生徒の意識の変化や、自らの成長に対する認識も、如上の評価と並行して、アンケートを行ったり、ポートフォリオに残ったログを解析したりすることで、きちんと把握したいところです。
学校生活に対する捉え方や自己認識を質すアンケートを行っていれば、その回答を「好適資質を代表する主成分」に換算した上で、各活動への参加状況等のパラメータと組み合わせて解析することも可能です。

❏ 目新しい取組を並べるだけでは広報にならない

学校に限らず、広報はステークホルダーの理解と共感を得て、選択してもらう/協働に参加してもらうための活動です。
学校の外(周辺)には受験生とその保護者、塾関係者がおり、学校内には教育活動を担うそれぞれの立場(分掌等)の先生方がいます。
学校の取組がどれだけの成果を得ているかをエビデンスを持って示した場合と、「これもやります、あれもやります」と列挙するだけの場合とでは、ステークホルダーの理解や共感に大差が生じるのは当然です。
夏が近づと「冷やし中華はじめました」という看板を見かけますが、その店の暖簾をくぐるより、「ああ、もうそんな季節か。今度の休みに評判のあの店に行ってみよう」と思う方が多いように感じます。
学校に当てはめれば、各校がアピールするほど、先行して実績を上げ、既に評判を得ている学校に生徒がどんどん流れるという図式でしょう。
繰り返しになりますが、日々の教育活動で得た成果を、きちんとデータで示してこそ、学校に対する理解と共感、信頼と期待が作れます。

❏ 指導スキルの開発・向上への取り組みも積極的に伝える

学校広報の充実に”校内記者”でも書きましたが、日々の教育活動を通じた「生徒の成長」を効果的に描出できている学校は多くありません。
しかしながら、それ以上に表/外に出てこないのが、授業改善や、新たな教育活動が求める資質の獲得を目指す先生方の行動と努力の姿です。
いかなる教育活動も、それを実践するのは現場の先生であり、好ましい指導のスキルをどの先生も差異なく備え、滞ることなく進化させていることは、学校が目指すものを実現するための絶対要件の一つでしょう。
新しい試みを始めるときこそ、指導スキルの開発と更新が重要。それに取り組む姿を見せることも、信頼と期待の獲得には欠かせません。
顕彰を受けた教職員をホームページで紹介したり、校内で先生方が切磋琢磨する様子を伝える学校も見かけますが、まだまだ少数派です。
なお、外に対して謳うには内の実態が伴ってこそ。授業公開に足を運んでくれた受験生や保護者が「あれ?実際に見るとホームページの話とずいぶん違うな」なんて感想は努々持たれないようにしたいものです。

❏ 学校の教育姿勢に共感する生徒が作るコミュニティ

学校広報のあり方を見直すことは、生徒募集の改善(募集倍率の向上)以外にも、学校が目指す教育やそこに込めた思いなどを十分に理解したメンバーが構成するコミュニティの創出に繋がっていくはずです。
成績がどれほど優秀でも、学校の方針をろくに理解していない/誤解している生徒が混じっては、目指す教育を実現するのに支障をきたしますし、何よりも互いにハッピーな状態だとは思えません。
お題目に終わらない(=エビデンスが示された)、確固たる学校の取り組みを知ってもらってこそ、如上のミスマッチも防げるはずです。
教育目標は、生徒の姿や地域の実情を踏まえ、「自校が担うべき責任」を果たすために各学校が設定/自らに課すもの。それらを明確にした上で、個々の教育活動の充実、内容のブラッシュアップを進めましょう。
きちんと効果測定を行い、成果を示してこそ、校内での指導改善が加速し、周囲を含めた賛同者も増えるという相乗効果が生まれます。
どんな動きでもそれを生み出す起点は、「魅力的なビジョンの描出」でしょうが、動き出したものの勢いを止めずに、大きく力強いものにするには効果の検証/エビデンスの提示が欠かせないものとお考え下さい。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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