探究活動にしっかり取り組ませるには、所謂「探究の方策」に加えて、その土台となる様々な力を養う必要があります。「情報を集め、必要な知に編む力」「理解したことをもとに考える力」「問いを立てる力/問題を見つける力」などはいずれも探究を進める上で不可欠なもの。
こうした力は一朝一夕に獲得できるものではなく、日々の教科学習指導の中で学びを重ねさせて、時間をかけて培っていくべきものでしょう。指導機会の限られる「総合的な探究の時間」だけでの育成は困難です。
各教科の学習内容を学ぶことを手段に獲得した能力(学力要素)や、同時に学んだ「物事を明らかにするのに踏んでいく手順」などを、実際に試し/使ってみて、その深化と拡張を図っていくのが「探究活動(総合的な探究の時間での取り組み)」の中での経験だと思います。
2018/06/14 公開の記事をアップデートしました。
❏ 読んだり聞いたりして集めた情報を知に編む力
入試でも重要度が増した「テクストを読んで理解したことをもとに思考した結果を表現する力」は、探究活動でも欠かせない土台の一つです。
探究の前段階である「調べ学習/先行研究調査」においても、文献を読んで自力で理解できないことには一歩も前に進めません。
日々の教科学習指導においても、生徒に教科書や資料をきちんと読ませているでしょうか。
先生が丁寧に説明してあげれば、各単元に固有の知識は与えることができるかもしれませんが、先回りをされた生徒は「自ら情報を得て知識に編む」必要がなくなり、その力を獲得する機会を失ってしまいます。
教科書をきちんと読ませることは、日々の授業の設計において、最優先すべきことの一つだと思います。
言語、数量、情報の各スキル(=21世紀型能力における「基礎力」)は情報を集めて知に編んだり、思考の結果(意見や考え)を伝えたりする上で不可欠。各教科の学びの中で、しっかりと鍛えていきましょう。
❏ 理解したことをもとに思考する力(+結果を伝える力)
読んだり、聴いたりして自ら情報を集めて知に編んだり、先生の説明を聴いて理解したことも、そのまま覚えているだけでは、せっかく獲得した知識や理解も「活きて働く場」を持たず、思考の道具になりません。
新たに向き合う課題の解決に活用して、その使い方(=活かして働かせる方法)を学んでいく必要があるのは言うまでもありません。
各単元の学習内容を理解させたら(あるいはその過程で)、生徒が自ら解を導く/答えを作り出すべき問いを用意し、理解したことをもとに考える力を鍛えていきましょう。そうした場なしには評価もできません。
また、自ら考えたこと(思考の結果)に、他者の理解と共感を得られるような表現を与えていく練習もさせないと、表現力は高まらず、探究活動の終段において欠かせないプレゼンテーション能力も伸びません。
❏ 問いを立て、一つひとつ確かめていく姿勢とその力
自明と思い込んでいたことにも、「本当にそうなのか」「どうしてそう言えるのか」と問いを立てて考えてみる姿勢は、リサーチクエスチョンを立て、探究活動のテーマを具体化する上でも欠かせません。
問いを立てて考える姿勢と方法を学ばせることは、日々の教科学習指導に期待される大きな役割です。普段の授業で、そうした機会がどれくらい持てているか、定期的に振り返ってみたいところです。
また、各教科の学習の過程では、様々なものを観察する機会がありますが、対象となる事物/データなどから読み取るべきことを生徒は自ら見つけ出せているでしょうか。ここでも不要な先回りは避けるべきです。
探究活動は、解決すべき問題を見つけ出すことにその起点を持ち、発見した問題を解決するための方法を創造していくことで成立します。
21世紀型能力における「思考力」の一部を構成する「問題解決・発見力・創造力」もまた、日々の教科学習指導で基本を身に付け、探究活動の中で深化と拡充を図っていくものとお考え下さい。
日々の生活/社会の現状に、きちんと問題を見つけ、その解決策を創り出していく先にこそ、「より良い未来」があるのではないでしょうか。
❏ 調べて知ることができる範囲を押し広げる
別稿「認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ばせる」でも書きましたが、各教科を広く学ぶことは、物事を理解/探索できる範囲を広げ、より広く物事を見渡すのに欠かせない土台を作ります。
探究活動を進める上でも、調べてみるべきことの所在に気付くかどうかで、その後の展開は大きく変わります。
探究で行き詰っても、「どこか(=授業)でこんなことを学んだな」という記憶を手掛かりにできれば、新たな着想で先に進めるかも。
探究活動に取り組む中で、生徒が、各教科での学びの価値を再発見し、日々の授業の大切さを改めて実感してくれるようであれば、両者の重ね合わせは効果的にできていた、ということではないでしょうか。
高校での探究活動(総合的な探究の時間)に限らず、社会に出てから取り組むことになる課題も、自らの専門に閉じて解決できるものばかりではないはず。様々な専門を持つ人々との協働は不可欠でしょう。
その場に及んで「専門以外はわかりません」では歩を進められません。どんな話でも、理解の取っ掛かりは持てるし、必要とあらば、文献などに当たって新たな知を得られるだけの力は備えさせておきたいもの。
そうした素地を養うのは、言うまでもなく、各教科における日々の学習。そこで得たものに、探究活動を通して磨きを掛けさせましょう。
❏ 探究活動の成否は教科学習指導の成果を測る指標
探究活動がうまく進められるかどうかは、各教科の学習指導でどれだけ知の地平を広げたか(=認知の網を張ったか)、能力や資質(基礎力や思考力、学びに向かう姿勢)を育んだかで大きく左右されます。
探究活動の指導に当たる先生がどれだけ頑張ろうとも、各教科の授業のあり方を学校を挙げて改めて行かないと、大きな成果は得られません。
繰り返しになりますが、各教科で培った基本的な力に、探究活動を通して磨きを掛け、実際の場面で活かせる次元にまで高めていくという発想で、カリキュラム全体を考えていく必要があります。各教科で基礎を学んだ「学びの方策」を、探究活動の中で活用するという考え方です
探究活動が計画通りに進められ、所期のねらいを達成できているかどうかで、各教科の学習の成果を推し測れる部分もあるのだと思います。
探究を通じて生徒が見つける「さらに深めて学んでみたいこと」「学んだことを通して実現したいこと(社会との接点)」は、自らの進路を考えていく中のどこかで、進路希望という形を伴ってくるはずです。
進路希望が明確になるにつれて、学ぶことへの自分の理由も強化され、それがさらに学びを膨らませます。こうした好循環の中でこそ、学びに向かう姿勢(21世紀型能力の「実践力」)は育まれていきます。
教科、探究、進路は一体となって、それぞれの成果をエネルギーとする循環型加速器のように働くのだと思います。加速を繰り返して十分な勢いを得て、サイクルから飛び出していく生徒をイメージしましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一