来年度の教育活動の最終設計に入る前段階で確実に行っておきたいことの一つに、「これまでの指導を通して生徒は何をできるようになっているか」の点検があります。指導とは、現状と目標の差分を解消する活動ですので、目標をしっかり定めるのと同時に、これまでに経験したことや現時点で知っていること/出来ていることをきちんと把握しないことには、ここから先の指導を正しく設計することはできません。
2019/01/18 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 新しい学ばせ方を通して獲得させたものを土台に
新課程への移行を経て、「主体的、対話的で深い学び」の実現を目指した、様々な新しい試みが重ねられ、加速してきたはずです。
その試みが所期の成果を収めていれば、新年度を迎えた教室で学ぶ生徒は、思考力・判断力・表現力も過年度生より高い水準にあるでしょうから、その先を目指して授業の到達目標を設定しなければなりません。
同時に、学びに向かう姿勢や学び方(学習方策)も以前とは異なるものを身につけているかもしれません。授業準備や学びの仕上げ(予習や復習)に課すタスクもそれに応じたものに変える必要があります。
進級後の指導計画の立案の前に、過年度生との間にどんな違いが、どのくらい生じているかをきちんと点検しておきましょう。
ちなみに、年間授業計画やシラバスの更新に際して過年度版に朱入れをするときも、如上の違いを認識しておかないと、実際の教室での学ばせ方と書面で求めていることの間にズレが拡大するばかりです。
❏ 入学してくる生徒の能力や資質にも従来との違いが
学ばせ方の転換が進むのは、自校の中に限りません。小中学校は言うまでもなく、進学塾などでも新しい学力観に沿った授業への転換が意欲的に進められています。
その結果、入学してくる生徒がこれまでの学習で経験したことや、そこで獲得している知識や能力には従来と違ったものがあるはずです。
特に、自校の入試問題を改革・改善した場合、志願者は「入試問題に表現されたアドミッション・ポリシー」を満たすべく、入試問題に合わせて受験勉強を進めてきたはずです。
当然ながら、そこで身につけた学力も従来と違ったものになっていますので、その先の指導の在り方も変わらなければなりません。
入試答案を精査して、こちらの要求をどこまで満たしているか、誤答から推察される「不足する学力」は何かを見極めておきましょう。
❏ 経験してきたこと自体にも大きな変化があるはず
生徒たちが入学前に経験したことも従来と違っているかもしれません。
これらは入試で課したテスト問題では測れませんので、出願書類を精査したり、アンケートを実施したり、場合によっては個別/集団での面接などを設定して、把握の機会を確保する必要があろうかと思います。
特に、「総合的な学習の時間」で生徒が取り組んだ課題研究については十分な注意を向けておきましょう。
探究活動のプログラムを立案するときに、入学してきた生徒が既に経験していることを繰り返すだけでは、投資に見合った教育成果は見込めませんし、生徒にも刺激になるところはないはずです。
アンケートは、新入生オリエンテーションで登校させたときが実施の好機です。入学式以降の実施では、指導計画を修正する時間がないはず。機を逃さないよう、今から準備を進めましょう。
インタビューも、入学後の早い時期に実施したいところです。こちらも年度冒頭のスケジュールに予め組み込んでおくべきです。
❏ 模試成績や授業評価アンケートの結果も判断材料に
模擬試験や定期考査などの成績分布や、授業評価アンケートの集計結果も、進級後の生徒の状況を推測するのに利用すべき重要なデータです。
学年末考査/校内実力テスト
テストの成績を一つ上の学年の1年前と比べてみたときに有意差が生じていれば、次の指導はその差に応じた設計になって然るべきです。
学年末考査は、評定を決めるだけでなく、年度間の引継ぎを的確に行うための材料獲得の機会です。2学期以前の定期考査より力を入れて、測定すべき学力の獲得状況が点数に現れるような作りにしたいものです。
総合点では差がなくても、領域別に詳しく観察してみれば、どこかに有意な差があるかもしれません。考査問題における得点集計(集計の取り方と活用法)などもご参照いただければ幸いです。
授業評価アンケート
授業評価アンケートの集計結果では、
といった質問(評価項目)での回答分布には特に注目が必要です。
アンケートの集計値の経年変化が教科別/学年別に捉えられる仕組みになっていれば、そこからは有為な示唆が得られるはずです。
もし、現状でこうしたデータが取れないような仕組みになっているようなら、アンケートのシステム自体の更新もご検討いただく必要がありそうです。cf. 授業評価アンケートを行うときの最小要件
観点を定めて行う行動評価
また、別稿「主体的・対話的で深い学び~どこまで実現したか」で挙げたようなチェックリスト(以下再掲)に照らした生徒の自己評価や先生方の目での評価結果も、データに調えれば貴重な判断材料になります。
- 自分なりの目的や課題を持っている
- 何をすれば良いか自ら考えている
- 与えられた指示の意味や目的を理解している
- 対話を経て、より良い答えに作り直せた
- チームやパートナーに何らかの貢献ができた
- 協働の場面で状況に応じた適切な行動を取れている
- 不明点を自ら調べる姿勢と方法を身につけている
過年度のデータとの比較ができるようなら、新しい指導計画のもとで得た成果量も推定ができるはずです。協働場面における個々の生徒の評価をどう行うかも、今後ますます重要な課題です。
繰り返しで恐縮ですが、年間指導計画を立案するとき、進級後に挑ませたいことに対して生徒がどのくらいレディネスを備えているか確認しておかないと、達成可能で且つチャレンジングな(=合理的な)指導計画は作れません。来年度の指導計画を確定する時期を目の前に、その確認を行うべきは「今」をおいてほかにないはずです。
お時間が許すときに、以下も併せてご高覧いただければ光栄です。
- 授業開き/オリエンテーション(その1、その2)
- 同じ教材で同じように教えても~学習者特性の違いを把握
- 前年度の指導に起因する学習指導上の課題
- 中高一貫校での中高/前後期接続
- 新課程が求める「学ばせ方」~学年間の円滑な接続
- 進級後の指導を見据えて(学年間での学びの接続)[まとめページ]
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一