対話の前後に取り組ませる個人ワーク

授業評価アンケートの集計結果を見ていると、教室での対話的な学びはますます充実してきたように感じます。「話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られるか(対話協働)」を尋ねた項目で、回答の9割以上を積極的な肯定が占めるケースもかなり増えています。
しかしながら、対話協働の換算得点が上昇しても「授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感できるか(学習効果)」への肯定的回答が占める割合の向上に直結するケースばかりではありません。

対話の中で「気づき」があっても、「何となくわかった気がする」「特に疑問は残っていない(=自分で掘り下げていないので不明の所在に気づいていない)」という段階で学びが止まっているのかもしれません。
対話的な学びが深く確かなものになるかどうかは、対話や協働に臨む前と臨んだ後に取り組む「個人ワーク」がきちんと行われているかによって左右される部分が小さくありません。

❏ 対話や協働に臨む前の「準備」で育む能力・資質

能力や資質は、駆使してこそ鍛えられるもの。他人の調査努力や思考にただ乗りして「わかった気」になっていても得るものはありません。
話し合いに望む準備のフェイズで、きちんと調べ、しっかりと考えさせる中で、情報を集めて知に編む力や、自ら問いを重ねて思考を深める力を身につけさせていきましょう。
調べた結果を話し合いの場に持ち寄れば、個々に知り得たことの違いの中に、自らの調べ方の不足(欠けていた視点、調べる範囲の狭さ、情報の読み取り損ねなど)に気づくことも多々あろうかと思います。
そうした経験の積み重ねが、次の機会での「より良い調べ方」に繋がっていくのではないでしょうか。
調べた結果に基づいて思考を重ねて得たものにも、生徒それぞれで違いがあるはずですが、持ち寄ってみないと彼我の違いに気づけません。
集めた情報を整理し、その中に問いを立てることから「思考」は始まりますが、自分が気づかなかった/鵜呑みにしたところに、周囲の誰かが問題を見出していたことを知るのも大きな学びになるはずです。
しかしながら、メンバーそれぞれがしっかり調べ、考えて来なければ、対話の中で交換される知識や気づきは大きなものにはならず、メンバーの誰かが既に持っていたものをシェアするところに止まります。

❏ 文字を介した先人との対話や先生との問答

対話には、周囲との話し合いだけではなく、文字を介した先人との「対話」や先生との問答という形をとるのもあります。
3タイプそれぞれの相手との対話を偏りなく、充実させてこそ、対話的な学びの総量が大きくなるのは言うまでもありません。
グループでの話し合いだけでは、文字を介した「周囲の仲間より深い造詣をもつ先人との対話」が進みませんし、その方法も学べません。
言語、数量、情報の各スキル(=21世紀型能力でいうところの「基礎力」)を駆使して、文献や資料から必要な情報を集め、目の前の課題を解決するのに必要な「知」に編む力を高めるにも、問いを立てながら読み、思考を重ねて理解していく練習の場は不可欠です。
対話/話し合いに参加する前に、個々に取り組む学習活動の中で、どれだけこのフェイズを充実させることができるかが、生徒一人ひとりの能力や資質の獲得(=自分の進歩)の大きさを左右します。
先生との問答も、生徒同士で話し合いを始めさせる前に効果的に行うことで、議論に焦点をきちんと持たせることができます。個人ワークの前に行い、調べる(読んで情報を集める)活動にも方向を与えましょう。
但し、狙った結論に導く/方向付けをするような問いに偏ると、調べる/考える/話し合うことに誘導が効き過ぎてしまい、先生が期待している答えを探ることに活動が終始してしまうリスクがあります。
対象を観察(「熟読」もその一つです)して、そこに問題を見つけ出す力(問題発見力)を養うことも指導の重要な目標であることを忘れないようにしましょう。(cf. 観察をタスクに「問題発見力」を育てる

❏ 対話の後には、問いに立ち戻って答えの仕上げ

グループでの話し合いを終えた時には、様々な知識、情報、気づきの交換がなされ、学んだことへの生徒の理解は深まっているはずです。
しかしながら、ここで学びを止めては「何となくわかった」だけ。そこから先に進まなければ、浅く不確かな学びで終わりかねません。
別稿「答えを仕上げる中で学びは深まる」で書いた通り、対話で得た気づきを携えて、最初の問いに立ち戻り、その答えを仕上げていく中でこそ、学びは深く、より確かなものになります。
答えを仕上げる工程で、理解が不足している/調べたりていない箇所に気づき、調べたり尋ねたりしてその解消を図る中での学びこそが重要と考えます。cf. 学びにおけるインプット(input)とインテイク(intake)
その大前提となるのが、対話や協働の場面を作る時に、学び終えて答えを仕上げるべき問いを予め示しておくことです。
テーマだけ設けて、自由に意見を交わさせても、方向違いな議論になります。グループ発表という形でまとめさせても状況は変わらず、本時の授業で狙った理解を個々の生徒の内に形成できないこともあります。
答えの仕上げは、生徒一人ひとりに「個人ワーク」として取り組ませることは言うまでもありません。そこで出来上がった一人ひとりの答えにも、(たとえ同じグループでも)違いが生じて然るべきです。
個々に仕上げ直した答えをまたシェアしてみれば、そのまとめ方の違いなどから、生徒が互いに学べるものがさらに増えます。

ただし、再びグループに持ち寄って、というのでは時間がいくらあっても足りません。答えは「評価」のために提出させているでしょうから、その中から「満点に相当するもの」「ユニークな視点があるもの」などをピックアップし、コメントを添えて公開してみるのも好適です。
また、学んだことをきちんと教科書に落とし込むことも忘れないようにしたいところ。教室で学んだことと、教科書などに書かれていることを突き合わせ、まとめ直して体系化するのをタスクにするのも「学びの仕上げ」として効果的です。学習内容に応じて使い分けていきましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一