他教科の授業で生徒が学んでいる「探究の方策」

総合的な探究の時間が「教科横断型の学びの場」である以上、自教科以外の授業で生徒がどんな探究のスキルや姿勢を身につけているかを知ることは不可欠。それらを踏まえないことには、生徒が獲得しているものを活かした/土台にしたその先の指導にはなり得ません。
探究活動は、各教科で学んだこと(学習内容そのものに加えて、それらを学ぶことを手段として獲得した能力・資質)を、自分事としての課題の解決に使ってみることで、それらを応用する力を高めるとともに確かなものにする機会です。
何を学んでいるのか/学んできたのかを把握/想定しないと、それらを発揮させる(=鍛える、評価する)機会も持てなくなってしまいます。

❏ 探究の場面で活用すべき各教科の学習内容(例)

例えば、新課程の情報Ⅰでは、「情報デザイン」を学ぶときに、様々な関係(論理的な展開、時系列、拡散・収束、フィードバック、上昇志向や成長傾向など)を図形で表現する方法を学んでいたりします。
生徒にプレゼン資料を作らせるときには、そこで学んだことに立ち返らせて(あるいは先取りして)、それらを踏まえた工夫を求めていかないと、生徒は学んだことを活かす場(=応用する方法を学ぶ機会)も持たないことになり、「総合」の意図から外れることになります。
グラフの作成にしても、要素の並べ方や色使い、目盛の取り方などで、見た者に伝わる印象がちがうことも教科書に書かれていますが、簡単に触れているだけなので、探究活動の中で実地に考え工夫させないことには、学びに厚みが加わっていきません。
数学でも、四分位数や箱ひげ図は中学2年で既に学んでおり、数学Ⅰでは「データの分析」の中で仮説検定の考え方まで触れられています。
その他にも、家庭科ではホームプロジェクトとして探究的活動の概要を学ぶページがあり、他教科でも章末課題などで探究的な学びのテーマが提示されています。そこでも生徒は何らかの活動を経験しているはず。探究活動の作法を学ぶ機会は至る所に用意されているということです。
探究活動のご指導に当たる際、これらを概略だけでも知っておくのと全く知らないのとでは、指導のあり様にも大きな違いが生じそうです。

❏ 他教科の学習内容を知って、必要な指導を漏らさず行う

情報デザインや統計については、情報や数学の先生方がそれぞれの授業の中でしっかりと生徒に学ばせてくれていますが、すべての生徒がそれらを自分の探究活動と結びつけて、きちんと踏まえる/活用しているとは限りません。
探究活動のご指導に当たっておられる先生方が、生徒一人ひとりの取り組みをしっかり観察し、踏まえるべきもの(他教科で学んだこと)を踏まえていない様子が見られた時には機を逸することなく、声掛け/問い掛けでそれに気づかせてあげる必要があります。
実験や調査の中で、サンプルサイズが小さすぎるなどの統計としての不備を無視して(あるいは気づかずに)いたり、分析でも、相関係数や有意差などが頭から抜け落ちている様子が見られたりしたときに、指導をせずにスルーしては、それを許したことになってしまいます。
自教科以外で生徒が学習している内容をひと通り把握するのに最も手っ取り早い方法の一つは、各教科の教科書を通読することだと思います。
細かいところまで熟読して深い理解を積み上げるのは大変ですが、そこまでせずとも、各教科書を最初から最後までページをめくってみれば、どんなことを学んでいるのか、小一時間でざっくりと把握できます。
以下は、情報Ⅰ(実教出版のもの)の目次に登場している項目名の例と登場箇所です。ちなみに各項目には「練習問題」も用意されています。

  • 情報デザイン(第2章メディアとデザイン)
  • データの可視化、データ分析の手法(第5章問題解決とその方法)
  • モデル化とシミュレーション、モデル化の手法(同上)
  • 著作者の権利の概要、著作権法の概要(巻末の参考資料)

各項目の名称を見ても生徒が何を学んでいるのか、もしピンと来ないようなら、「探究活動の指導に当たる際に、改めて押さえておくべきところがまだ残っている」ということではないでしょうか。
そのページを開いてみれば、どんな流れの中で何を学んでいるか、生徒にも分かるように書かれていますし、万が一、よくわからないところがあったとしても、「先生」は職員室の中にいます。

❏ 各教科の記述と、自校の探究学習プログラムの整合

各校の探究活動のプログラムには「手引き」のようなものが用意されていることが多いかと思いますが、そこに書かれていることと、様々な科目の教科書で記述されていることは必ずしも一致しません。
たとえば、家庭総合の教科書では、前述の通り、ホームプロジェクトでの課題解決への取り組み方が説明されていますし、情報Ⅰでも、問題解決とその方法を教科書の1章を当てて説明しています。
生徒は、課題解決の工程に、「微妙」に違う3つの型を示されていることになります。当然ながら、いずれも記述に間違いはありませんが、生徒の目には「違うことが書いてある」と映るかもしれません。
探究的な活動の経験が十分であれば、「根っこの部分は共通、想定している場面による違いにすぎない」ときちんと解釈できるでしょうが、これから探究を経験していく生徒には混乱のもとになり得ます。
一方をベースに(学校固有のプログラムにおける「手引き」が優先されるはず)、それをきちんと学ばせる中で、他所(各科目の教科書や参考図書など)で書かれていることは、「他のアプローチも踏まえて、探究のプロセスをより深く学ぶため」の参考にさせるのが好適です。
ここでも、他教科の先生方は、各教科書に何がどう書かれているかを知っておく必要があるのは言うまでもありません。併せて、情報や家庭の先生方も、教科書に書かれていることの扱いは、如上の「手引き」との関連を踏まえたものとする必要があろうかと存じます。
あちらこちらに(一見すると)一致しないことと書かれていると、「どれもそれほど大切なことでなく、必ずしも準拠しなくて良い」というあらぬ誤解を生徒がいだかないとも限りません。



ゼミ形式で行われることが多い探究活動ですが、ご指導に当たられる先生方には、探究の内容(テーマ)に関する各教科の専門/周辺知識だけでなく、探究する工程についても十分な理解と知識が求められます。
また、指導をご担当する先生方が共有すべき「指導の方法と手順、指導においてこだわる点」などが明確になっていてこそ、探究活動の発表会などでそれぞれの生徒/ゼミが持ち寄った成果からの相互啓発も一つの方向に向かい、相乗効果を得て、より大きなものになると考えます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一