主体的に学んでいると言えるには、生徒本人が「学ぶことへの自分の理由」を持っていることに加え、自ら学び進められるだけの学習方策を獲得している必要があります。誰かに教えてもらわなければ勉強が進められない状態はどこかで脱したいもの。自ら学び続けられる生徒を育てることは、数ある指導目標の中でも最も重要なものの一つです。
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【学習方策】
私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う。
2019/04/05 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 授業開きやオリエンテーションで伝えた学習方法
新年度が始まると授業開きや学習オリエンテーションが行われ、そこでは予習・復習の方法や、科目への取り組み方を伝えているはずです。
そこから数週間、数か月が経過したら、生徒の学習行動を改めて観察してみて、伝えた方法がきちんと身についているか確認しましょう。
入学前や進級前に身につけてしまった方法に拘泥して、正しい学び方への転換ができていない生徒もいるかもしれません。
教科固有の知識や技能を学ぶ中で、生徒が学び方を身につけているか、定期的に観察し、必要なフィードバックを行う必要があります。
授業時間を割いて、予習のシミュレーションをさせてみたり、課題を与えてどう取り組んでいるか、様子を注視してみては如何でしょうか。
もちろん、先生が提示した学習方法を踏まえた上で、生徒自身がさらに工夫しているようなケースもあるはずです。守破離の第二段階に進んだということですから、肯定的に評価してみせてあげましょう。
❏ どうするかを生徒自身に考えさせる
近年の大学入試では、「正解は何か」「その理由は何か」といった思考の結果を聞くこれまでのタイプの問題に加えて、「正解を導くにはどのようなアプローチを取れば良いか」を尋ねる設問を見かけます。
新課程への移行に伴い、学力観も新しいものに更新されていますが、今後求められることの一つが「やり方を自力で考案する力」の獲得です。
解くべき課題を目の前にして、どうやって不明を解消するか、正解を導くために何をすれば良いか(どのデータにあたり、仮説をどう検証するか)を自力で考えるように仕向けて行かないと、この力を獲得させることはできません。
普段の授業でも、「丁寧にすべてを教えきる」という発想から離れて、課題を与えて「どうするかを生徒自身に考えさせる」ことに意識を向ける必要があります。
❏ 学習方策は課題解決を通して身につく
そのためには、課題を与えて生徒自身がやり方を考案する機会を整える必要があります。
実際、課題解決に知識を活用する機会をしっかり整えている授業ほど、生徒の学習方策の確立が進むことを示すデータもあります。
詳細は、拙稿「学習方策は課題解決を通して身につく」に譲りますが、ジョージ・パットン流の「やり方は教えず、何をすべきかを伝えよ」は中高の教科学習指導においても有効と言えそうな戦略です。
予習・復習の方法や、課題への取り組み方についても、ひとつひとつ具体的な指示を与えなければ生徒は動けないと仰る先生もいらっしゃいますが、本当にそうでしょうか。
できない? やらない? やらせてない?でも申し上げた通り、やらせてみたら、あっさりできてしまうかもしれませんし、そもそも指示を的確にこなす生徒~それだけで良いのか?という疑問もあります。
❏ 教科書はきちんと読ませ、参考書は使い倒させる
新しい時代の大学入試問題では、学習型問題と呼ばれるタイプの問題が登場します。
教科書では扱われていない、つまりは生徒がそれまで馴染みのない事柄について、説明文や資料を読ませ、そこで得た理解をもとに正解を導いたり、考えや意見をまとめて論述させたりするというものです。
このタイプの問題で試されているのは、大学に進学してからの学修を自立的に進めるだけの力を備えているかどうかです。解けずに手をこまねいているようでは、合格しても進学後の学びには苦労が多いはずです。
こうした新タイプの問題への対応力を身につけさせるには、「教えてもらうことを待たず」に、「自ら不明を解消し、理解を形成していく姿勢と方法」を獲得する機会(学習活動)の整備が欠かせません。
日々の授業においても、教科書をきちんと読ませることに注力するとともに、生徒にも不明の解消や知識の獲得に、参照型教材を徹底して使い倒すことを求めていくようにしたいところです。
教科書や資料を読めば、当然ながら疑問に思うところがあるはずです。生徒に問いを立てさせることで、書かれたことを鵜呑みにせず、ひとつひとつ確かめながら、理解を深めていくことも「学習」させましょう。
❏ 対症療法よりも、振り返りを通じた行動改善
様々な学習機会で生徒に振り返りをさせ、「何が悪かったか」「より良いパフォーマンスのためにはどうすれば良いか」を考えさせることも、学び方や取り組み方を獲得・改善させるのに欠かせません。
振り返りを経てこそ次への課題形成でも書いた通り、学びの成果をたな卸ししつつ、次の機会でのより良いパフォーマンスを得るための課題形成(方略立案)に取り組ませることは重要です。
21世紀型能力の「思考力」を構成する要素のひとつである、「メタ認知、適応的学習力」を獲得させることも重要な指導目標の一つです。
定期考査や模擬試験を経て、思ったほどのパフォーマンスが得られなかったときは、当然ながらそこに至る学び方・取り組み方に何らかの問題があったはずですが、間違い直しだけでは学び方の改善は図れません。
特に新1年生は、小中学校での定位置だったポジションを失い、茫然自失となることもあるでしょうが、その時こそ学び方を改めるチャンスではないでしょうか。
じっくりと自分の学び方に向き合い、学習者としてのステージを一段上るチャンスだと考えさせましょう。
テストの間違え直しや再テストは、絆創膏を貼るようなものであり、当座の手当てにはなるかもしれませんが、学び方・取り組み方が間違っている以上、また同じ失敗を繰り返すリスクが大です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一