新年度に向けて、最終結果と照らした指導の成果検証

早いもので今年も師走を迎えました。3月まで本年度の指導が続きますが、ゼロ学期からは次年度に向けた計画作りも本格化します。
年明け早々には、大学入学共通テストの結果も出ますし、最終的な出願校も決まっていきます。3ヵ年/6ヵ年に亘って行ってきた学習指導と進路指導の成果を測るのに必要な指標がすべて揃うことになります。
一般選抜の合否結果はまだ先ですが、それを待っていては来年度の指導計画にこれまでの指導を振り返っての「成果と課題」を反映できなくなりますので、総括にはこのタイミングを逃すわけにはいきません。
データをきちんと揃えて指導の効果測定/成果検証を行い、来年度に引き継ぐものと手を引くものを切り分け、新年度の指導計画作りを進めていくには、その工程を今から想定しておくのが好適です。

2020/01/31 公開の記事をアップデートしました。

❏ 模擬試験と大学入学共通テストの結果などから

入学時から計画的に実施してきた模擬試験の成績はすべて記録に残っているはずです。これらを用いて、学年全体での成績分布の推移を確かめるのは指導の成果検証に向けて外せない作業のひとつです。
後退や停滞が目立った時期については、当該時期の指導のあり方だけでなく、そこに至るまでの期間での指導にも何らかの問題点や改善課題があったはずです。
当該時期の指導では、生徒に与えた課題と授業内外の学習活動が、その時期に獲得を目指した能力・資質に合っていたかを確かめましょう。
覚えさせることに終始したり、宿題を増やすばかりで仕上げ切らないことを習慣化させていたりといった問題も抱えていたかもしれません。
また、その時期を迎えるまでの指導で「学びが次のステージに進んだときに必要になるものを獲得させていたか」も点検の大切な視点です。
こうした課題抽出・特定には、指導に当たった先生方の見立てや指導と所感の記録を持ち寄った検討が必要ですが、データを用いて「どの時期のどの観点で」を絞り込んでおかないと、効率が悪すぎます。
校務が立て込み、ただでさえ忙しい年度末に「思い出話」で無駄にする時間はないはずです。全員で集まる会議の前には、電子会議室の利用などで、気づきの交換と論点の整理まで済ませておくのが好適です。

❏ 進路希望調査の記録と最終出願校の一覧から

定期的に行ってきた進路希望調査の記録を辿ってみると、指導の改善に繋がる様々な示唆が得られるかと思います。
当初の希望と違った進路を最終的に選んだ生徒の中には、手が届きそうにないからという理由だけで第一志望を諦めてしまった生徒もいれば、対照的に、体験的な学習機会や日々の授業の中で見出した興味を起点に探究活動にしっかり取り組み、学問研究や学部・学科研究を経て、地に足の着いた志望理由を作り上げた生徒もいるはずです。
目標を持った状態で巣立たせることは大きな指導目標です。最終的な出願先に明確な志望理由を持つことができた生徒を抽出すれば、どの時期に何を経験させ、どんなことを考えさせるべきなのか、進路指導計画を練り直すときのヒントも得られそうです。
また、如上の生徒の割合には、学年/年度間での違いに加え、クラス間でも差異があるはず。より多くの生徒が明確な志望理由を持てたことの背景には、担任の先生や学年団の好適な指導があろうかと思います。
データを用いて優れた実践の所在に当たりをつければ、好適な指導手法は何か、どんな指導(内容と配列)、どんな働きかけが進路意識形成に好適な影響を及ぼすのかを探るにも効率がぐんと良くなります。
ポートフォリオの導入が進んだら、体験的な学びの場や進路イベントを経験して生徒が残したリフレクション・ログもデータに加えましょう。

体験的な学びに臨ませたのに準備学習が不足して、認知の網が働かないままに手順だけを踏ませてしまったこともあるかもしれません。体験学習をただの体験で終わらせないためには前後の指導も重要です。

❏ 定期考査の結果や評定と最終結果の照らし合わせ

定期考査の点数や評定と、模試やセンターの結果との間に有意な相関が得られているかどうかも点検しておくべきだと思います。
新しい学力観への転換が進むと、従来のままの定期考査や学習評価の仕組みでは、生徒のパフォーマンスを正しく評価・予測できません。
入学から卒業までを通して、正しい評価を重ねることは、学力形成の道を正しく歩ませることに通じます。
各時期における評価は、その先をどう歩ませるかを決めるために行うものです。定期考査や評定の付け方が新しい学力観に添わなくなっていると、生徒に誤ったルートを示してしまうリスクを増やすばかりです。

個々の生徒について入学以来の考査や模試、評定などはレコードに残っているはず。これらを最終結果(出願先大学群と合否結果、最後の模試や共通テストの成績など)と関連付けをして、相関を数値にして妥当性を検証してみるのはそれほど面倒な仕事ではないと思います。

❏ 個々の指導を改めるときは、指導計画全体を見渡して

新たな学びの場を組み込み、教育活動のアップデートを図っても、周辺の指導を調整もなしにそのままにしては、全体のバランスが崩れます。
新しい評価の方法で得られたデータを用い、指導の効果をひとつひとつ確かめつつ、全体を見渡した指導計画の練り直しが求められています。
計画に沿って学びを重ねさせる中で涵養を図る様々な能力・資質(学力の各要素)をきちんと測定・評価し、指導の成果を正しく確かめられるだけのデータを揃えていくことが、これまで以上に重要な局面です。
きちんと(=正しい指標で)集めたデータを活用しないことには、大きく成長した/伸びた生徒の行動から「好ましい学習者像」「生徒に期待する行動」を特定することもできず、指導観の更新もままなりません。

新しい学力観への転換は、先生方の経験則が適用できる範囲にも変化をもたらします。令和に時代が移り、平成まで通用していた指導手法が今もなお、変わらぬ価値と効果を持つ保証はありません。
データに照らして指導観の更新を図りさえすれば、先生方がこれまでのに培ってきた技術や知見に、より良く活かす方法が見つかるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一