新課程への移行に際し、「学習べき内容は削減せず、その理解の質を高めること」が強く打ちだされていました。従来と同じ指導時間の枠に、思考・判断・表現の各要素を織り込み、主体性・多様性・協働性を身につける場を設けながらも、学習内容は減らさないということです。
新課程移行後も、学ばせることの多さが足枷となってか、新しい学力観が求める学ばせ方(=各単元の内容を学ぶ中で、様々な能力や資質の獲得を図る)への転換が遅れているケースも見受けられます。
冒頭の要求を満たすには、
「無駄を省く」(伝達などの効率を高める/重なりをうまく利用する)
「生徒が個々に取り組めることは授業の外に持ち出す」(家庭学習)
という2つのアプローチに加えて、「これまで課していたタスクの要否を改めて考え、合理的に取捨選択する」ことが必要になります。
その中では、「知識の獲得」においても「覚えさせる」か「参照手段を確保させる」かを判断し、効果的に使い分けることが求められます。
2016/05/17 に公開したシリーズを再アップデートしました。
もちろん、一定量の知識なしには、外部のデータを参照/検索することもできませんし、根本的なところの理解をしっかりと記憶に刻んでおかないと、集めた情報の信ぴょう性を評価することも難しくなります。
覚えさせるべきことをきちんと覚えさせることの重要性は今後も変わりません。(cf. 新しい学びの中で「覚える力」が持つ意義)
一方、社会の変化、科学の進歩で日々新たな知が生み出されている今、すべてのことを記憶に格納することは不可能であり、信頼できるソースに当たり、必要な知識を集める/編む能力の重要性は、以前にも増して大きなものになっています。
記憶に格納する知識と、外部参照する知識の境界を、教える側がきちんと意識しておかないと、如上の能力育成が「指導を通じて目指すもの」から零れ落ちてしまうリスクを抱えます。
問いの求めに応じて、どんな知識や情報が必要かを判断する力は、大学入学共通テストでも試されています。どの資料/データに当たれば問題を特定し、判断できたりするかを尋ねる設問がこれに当たります。
PISAでも、「質と信ぴょう性を評価する」と「矛盾を見つけて対処する」の2つが、新たに「読解力の測定要素」に加わりました。
知識をどれだけ覚えるか、覚えた知識をどう使うか、ということの他にも「新しい学力観の下での学ばせ方」に求められるものがあり、その認識がカリキュラム・マネジメントの成否も分けるということです。
目の前にある問いや課題がどんな知識や判断材料を要し、それをどうやって入手するか生徒自身が考える機会を作るにも、「知識はすべて覚えるもの」という発想を離れるところから始まるとお考えください。
効率化と「残業(授業外学習)」以外にも解決策を
知識を2つのタイプに分けて考える
外部参照を使うには「記憶に格納した知識」 が必要
外部参照のきっかけを作るのは解決すべき課題の存在
頻繁に参照する中で、再記銘が図られ、保持が進む
外部の知識を参照する力、情報を素早く集約する力
知識と情報を組み合わせて作り出す新たな「知識」
知識は記憶に格納するものという固定観念から離れる
ICTの活用力を含めた総合的なコンピテンシー
カリキュラム・マネジメントの実現に向けて
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- 単元で学んだことの体系化に挑ませる
- 資料を与えて読ませる/探させる、そしてその先に
前回のアップデート(2018/11/29)に際しての追記:
高大接続改革が目指しているのは、「高校教育」「大学教育」「高大接続」の3つをひとまとまりにした改革です。
これまで、高校教育と大学教育のそれぞれを改革しようと様々な働きかけを行ってきましたが、狙った通りの成果は得られなかったとの反省に立ち、攻め手の発想を変えたということではないでしょうか。
高校教育を変えようとしても、大学入試という「高校での出口」で求められるものが変わらなければ、「受験で必要」という圧力が改革を押し止めます。そこで、大学入試を変えてしまおうというわけですから、今度の改革に向けた本気度が伝わってきます。
新テストの試行問題にはできるだけ早めにしっかり目を通しておくべきだと思います。また、高大接続改革では検討のスタートに、国際バカロレアをイメージしていますので、各大学の帰国生入試問題も、「次世代型の出題」を学ぶ好適な教材になるはずです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一