進歩を止めさせない自己評価の在り方

生徒にこれまで取り組んできたことの成果や、グループで話し合った結果などを表現させるとき、「評価シート」を用意して、自己評価や相互評価を行わせる場面は、多くの学びの場にあろうかと思います。
自己評価は、それまでの自分の取り組みとその成果を振り返り、より良いパフォーマンスを得るのに何が必要かを考え出すための練習。言い換えれば、「メタ認知、適応的学習力」の獲得機会ということです。
正しい振り返りができるようになることは、その先の学びの中で、進歩を止めずに自律的に成長を続けるための必須要件の一つだと思います。
他方、教室で自己評価以上に広く行われている(ように見受けられる)相互評価もまた、評価される側の生徒の側からみれば、他の生徒からの評価やコメントに触れ、自己評価で見落としていたことに気づいたり、改善のヒントを得たりする場ということになるはず。
相互評価が活発に、且つ効果的に行われるクラス/学びのコミュニティを作り上げることは、生徒一人ひとりが「進歩を止めない自己評価」を行える環境を整える、重要なサポートの一つだと思います。

2018/02/14 公開の記事をアップデートしました。

❏ 先ずは、評価基準=観点×規準を理解させるところから

生徒に自己評価を行わせるには、評価の基準が不可欠です。まずは「観点」を設けて、その一つひとつに到達目標となる水準をセンテンスの形で書き出した「規準」を添えることになるのは言うまでもありません。
最初はシンプルな基準の方が、生徒も早く慣れて評価の仕方を覚えやすいはずですので、観点も最小限に絞ってあげるのが好適です。
ひとつの観点をしっかり理解して、規準に照らした正否判断がきちんとできるようになったら次の観点を加えていくという段階性も必要かと。
別稿でも書いた通り、規準を十分に満たしているものがA評価、足りないところがあればB評価、まったく満たしていないならC評価としたうえで、なぜその評価にしたのか理由を言語化させていきましょう。

❏ 評価結果のシェアで、発想の拡充を図る

自己評価を行い、反省点(より良いパフォーマンスを実現するための課題)を見つけたとしても、それはあくまでも自分が持っていた発想の範囲に限られます。
他の生徒が、自分の成果に対して行った評価やその理由を知ることで、自分が見落としていたことに気づくことが、発想を押し広げます。
先生方からの評価は、「先達からの指導」と生徒は受け止めがち。「自分で気づけたところ」と「先生の着眼点や助言」の落差は当然、埋めがたいものと考えれば、評価者としての進歩が止まってしまうことも。
これに対し、同じような立場にある周囲の友達が得た「気づき」や「発想」ならば、頑張れば自分にもと思えるのではないでしょうか。

当然ながら、生徒が互いに不必要な遠慮をすることなく、建設的な評価や意見を伝え合う雰囲気になっていなければなりませんが、そうした土壌を作るのも先生方に期待される役割です。
相互評価に臨ませるにあたり、「良さを見つけて言語化する」「問題の指摘より、改善の方策の提示」という姿勢を持たせましょう。
また、発表をする生徒が内容を練り、表現を工夫することだけでなく、聞く側の生徒にも「問いを立てながら発表に耳を傾ける」ことを求めていくことが大切です。(cf. プレゼンテーション力より質問力

❏ 生徒が自ら観点を設けられるようになるための練習も

タイトルにある「進歩を止めさせない」ためには、生徒が自ら評価の観点を設けられるようになることも必要だと思います。
教室の中でなら、先生方が観点群を示し、それぞれに規準を書き出してあげられますが、それ以外の場面では、自分の取り組みやその成果を評価するための基準を自分の中で作り出していかざるを得ません。
そのための練習の場もまた、教室でしか確保できませんので、指導の機を逃さないようにしたいものです。
先生方が用意した基準に照らして評価を行った対象について、「他に挙げるべき良さはないか」を尋ねて新たな観点を探させるのは、そうした練習の「入り口」になるのではないでしょうか。
評価活動に取り組んで、先生や同級生のコメントに触れるたびに、生徒は「新たに加えるべき観点や規準」を見出しているはずです。それらを実際に書き出してみて、認識に上らせる機会もどこかに設けましょう。
万が一、そうした「発見」の蓄積が見られなかったとしたら、それまでの評価活動への取り組ませ方には改善の余地がありそうです。

❏ 成果や発表を観察し、観点と規準を考えさせる手順例

生徒が評価活動にある程度慣れてきたら、新たな課題にクラスの生徒が取り組んだ成果を前に、その評価基準作りに挑戦させてみましょう。
幾人かの成果(答え、発表など)をピックアップし、教室でシェアした上で、まずは個人ワークでそれぞれの「良さ」と「改善の余地」を見つけられるだけ探させ、それぞれの理由を言語化させていきます。
言語化した結果に、観点名をつけさせ、評価規準(すでに先生が作成したものをある程度見てきていますのでイメージは持っているはず)を書き出させてみましょう。
その上で、グループを作ってそれぞれが書き出したものを持ち寄り、KJ法などで整理したり、規準の表現を練らせたりすれば、ある程度は評価基準の様式を備えたものが出来上がるのではないでしょうか。
さらに各グループの「成果」をクラス全体でシェアすれば、評価基準作りに必要な発想やノウハウをかなりのところまで学べるはず。足りないところは、先生方からのコメントや助言で補っていきましょう。

❏ 振り返り/自己評価を終えた後の仕上げで進歩を確実に

他の生徒からの評価に触れて気づきの不足を補ったり、与えられていること以外にも評価の観点を設けたりできるようになれば、振り返りはより効果的に行えるようになっているはずです。
しかしながら、せっかくの効果的な振り返りも、その結果を仕上げ(より良いパフォーマンスへの接近)という行動に結び付けなければ、ただの思い付きに止まってしまいます。
妙案に思えた改善策も、実際に試してみなければ、本当に狙い通りになるのか、あるいは実行できるのかを確かめることもできないはずです。
以下の別稿で書いたこととも通底しますが、振り返りの結果を踏まえて仕上げにきちんと取り組ませることこそが重要であり、これを端折ってしまえば、可能だったはずの「進歩」も形になりません。

振り返りを経て形成した「課題」は、実際に試して検証してこそ、自分のものとすべき知見として確かなものになるのではないでしょうか。



生徒が評価活動に取り組む機会を設けたときに、先生方が振り返るべきは、「自己評価/相互評価を重ねる中で、生徒がきちんと自分の取り組みとその成果を評価できるようになってきているか」です。
いつまでたっても曖昧な評価しか行えず、評価の理由や根拠を明確な言葉にできないようなら、評価の力を身につけていないということかと。
評価シートを用意し、漫然と生徒に「自己/相互評価」を行わせても、評価者スキルの向上は見込めず、ひいては学習者としての生徒の進歩はどこかで止まってしまうのではないでしょうか。

一定期間の指導を経て、生徒が評価した結果が、先生の目での評価結果に近づいてきてこそ、その指導は、生徒を評価者として成長させる(=メタ認知、適応的学習力を獲得させる)のに有効であったと言えます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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