出題研究の成果を指導計画作りに活かす

大学入学共通テストも2回目を終えて、高大接続改革以降の新しい入試で求められる学力像もはっきりしてきました。新課程での「学ばせ方」にもあらかた方向性が定まったように見受けられます。
入試シーズンの開始当初から、予備校等のホームページで入試解答速報のチェックを日々重ね、出題研究の成果を4月からの授業作りに活かす準備が既に整っている先生方も多いのではないかと拝察します。

2018年2月13日公開の記事をアップデートしました。

❏ 出題研究を通して、問い方・答えさせ方を学ぶ

出題研究は、問い方・答えさせ方を研究するのに最善の方法の一つであることは言うまでもありません。今、教科書で教えていること/学ばせていることがどう問われ、どんな力が試されるのかを知らないことには授業デザインの方向性も定まらないはずです。
新課程への切り替わりで、獲得させた知識・理解に「生きて働く」ことがこれまで以上に求められ、どんな問いや課題を用いて「知識・理解を活用する場」を与えるかは、授業の成否を分けます。
カリキュラムは、各単元で学ばせる内容と、それらを学ぶ中で獲得する能力・資質をそれぞれ縦軸と横軸においたマトリクスで考えますが、出題者が受験生に求めている{能力・資質}もしっかりと把握しないと、一つひとつの授業に配列する学習活動も正しく選択できません。

カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する


獲得を図るべき{知識・理解×能力・資質}が変わる以上、定期考査の問題にも新しい学力観に沿ったものへのアップデートが必要です。
生徒は、テスト問題に合わせて学習スタイルを作りますから、授業を変えるだけでは十分な効果は得られませんし、評価に用いるモノサシに歪みが生じては一大事です。
こうした「新しい学力観に沿った学ばせ方への転換」を図る上で起点とすべきは、高大接続改革以降に大きく変貌を遂げた大学入試問題(とりわけ、生徒が志望する大学群の出題)です。

❏ 良問を見つけたら、指導カレンダー上に配列してみる

高大接続改革の以前から、新しい時代に適合した教育の実現に意欲的な大学では、新課程が求めるものを先取りした出題が見られました。
一例として、学習型問題答えが一つに決まらない問題などもあちらこちらで出題されるようになり、既に特別なものではありません。言うまでもありませんが、「正解と最適な解法」を教え込まれてきただけの受験生にとっては、対応困難なタイプの問題です。
出題研究を進めながら見つけた「良問」は、その場で指導カレンダーに組み込んでしまいましょう。生徒が挑む機会がなければせっかくの良問も活かせません。
ある単元のまとめとして挑ませるのか、別の単元の導入で使ってみるのか、同じ問題でも先生方の発想次第で様々な使い方があるはずです。
定期考査や校内実力テストに応用問題として出題してみるのもいいですよね。夏期講習会などで志望校別対策講座の教材にする手もあります。

❏ 挑ませる課題が決まれば、そこまでの指導の設計も容易

ある時期にその問題を生徒に解かせようと思えば、それまでにどんなことを学ばせておく必要があるか、どんな練習を積ませておくべきなのかイメージがはっきりと湧いてきます。
必要な知識を学ばせておくほか、資料(参照型教材も含む)を読ませて課題の解決に必要な知識や情報を生徒が自力で集めて知に編めるようにしておくことも大切です。
複数のテクストや資料を与えられ、矛盾を見つけて対処することを求める問題もあれば、自分の考えを他者の理解と共感を得るべく表現する力を求める問題もありますが、いずれも相応のトレーニング/経験を日々の授業で積んでおかないと対処困難でしょう。
論述問題などへの対応でも、受験期を迎えての添削指導だけでは、十分な指導成果は蓄積できないかもしれません。早いうちから計画的に採点ルーブリックを生徒にも使わせて、採点基準を理解した上で自分の答案を評価し、ブラッシュアップを図れるように導いていくことが表現力を高めるのに不可欠です。
ターゲットとなる問いや課題をこの先のカレンダー上に置くことで、見通しを持った指導計画を立てられます。これをきちんとできるかどうかで、3年間・6年間に積み上げられる指導の成果に大きな違いが生じるのではないでしょうか。

❏ 問いや課題なしには積み上げられないトレーニング

各単元に固有の知識・理解だけなら、先生が丁寧に説明することで生徒に獲得させることができるでしょうが、如上のトレーニングはいずれも問いや解決すべき課題を与えないことには、授業内にきちんと配列することができないはずです。
改めて、以下の拙稿で申し上げたことを強く意識して、指導計画作りと授業デザインの策定に取り組んでいただく必要があると考えます。

また、大学の出題例も玉石混交。生徒が志望する大学の入試問題だからと言って、そのまま指導カレンダーの中に落とし込んでしまっては、思わぬ副作用(学力観を歪ませる、望ましい学びから遠ざける)も懸念されます。
良問と悪問の切り分けをしっかり行うための「基準」を明確に持つためにも、できるだけ多くの問題に目を通し、選別眼を磨いていくことが先生方には求められています。

年度末でご多忙の日々をお過ごしだったと思います。もし、自校の生徒の多くが目指す大学群の今春入試にまだ目を通しきれていないとしたら、「最初の授業までに完遂すべき宿題」と考え、少しペースを上げて取り組んでみる必要があろうかと思います。
最適ルートから離れた方向に二歩三歩と進んでしまったら、そこからのリカバーにもっと多くの歩数を費やすことになりかねません。何よりも最初の方向付けが大切であり、「出題研究」はまさに命脈です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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