シラバスを熟読・活用させることの効果

大学での授業評価アンケートの集計結果を分析したところ、「シラバスを熟読している学生ほど、科目の到達目標を達成できる見込みが高まると同時に、学習したことへの興味が膨らみ、発展的な内容を学ぶことへの意欲が向上する」という傾向が見て取れました。
高校でのシラバスは、”講座選びのカタログ”としての大学シラバスとは性格が異なる面がありますので、同じことがそのまま当てはまるとは限りませんが、きちんと読ませれば相応の効果は期待できそうです。
昨日の記事で触れた「授業開き/オリエンテーション」では、生徒とシラバスを読み合わせる時間をとってみるのも悪くない気がします。

2017/04/04 公開の記事をアップデートしました。

❏ シラバスの熟読が到達目標の達成を近づける

様々な大学のデータでは、「到達目標を達成できる」との見通しとの間で、「シラバスを熟読しているかどうか」が、「教材の適切さ」や「教員の教える意欲」などよりも高い相関を示すことがあります。
シラバスに書かれたことを読むだけで学習目標が達成できるわけではありませんが、

  • 履修期間を通した学びに見通しが立つこと
  • 単元ごとの到達目標への理解が高まること
  • 評価基準に照らしたメタ認知が高まること

などで、科目の到達目標の達成が容易になるのは十分に想像できます。
先行きの予定がわかれば、予めスケジュールを調整することもできますし、提出課題の準備をしておくことも容易になります。
実際、シラバスを熟読した学生と、そうでない学生とでは、授業準備や事後学習などに投じる平均時間でも有意な差が生じています。
科目を学ぶことで最終的に目指すところを伝えることが、学生に与える課題や授業内外に設けた活動に込めた指導意図をより良く理解してもらうことにも繋がっていると思います。
これから学ぼうとしていることがどんな課題に解を導こうとしているのかをシラバスを読んで想像できれば、科目への興味(=学ぶことへの自分の理由)も生まれるのではないでしょうか。
これらは大学生を対象とする授業評価アンケートのデータからの話ですが、シラバス熟読が、学習への取り組み方やその成果を左右するメカニズムは、中学生や高校生にも当てはまりそうなものばかりです。

❏ 起草よりも、「使わせること」に力を注ぎたい

シラバスを用意している学校(中学・高校)では、その起草や更新に多大なお手間を投じていることと拝察いたします。
しかしながら、出来上がったシラバスを、生徒にもしっかり使わせているかというと、多くの場合疑問が残ります。
冊子にまとめて刊行することを自己目的化させず、生徒にきちんと使わせることにこそ注力すべきではないでしょうか。
もちろん、シラバスに日々参照して使うに値するだけの内容が伴っていなければ、益なき努力を生徒に求めることになってしまいますが…。
単元が進むごとに、学習目標をシラバスに照らして確認させれば、予習の段階から目的や課題を意識した学びが期待できるはずです。
評価基準をきちんと読ませておけば、どんなところに気を付けて学習に臨めばよいか、生徒の側でも想像がつくはずです。
評価規準に照らして行わせる振り返りと課題形成は、主体的に学ぶ姿勢を育むために欠かせませんし、シラバスに記載したことの不備も、使いながらでなければ修正が効きません。
別稿で申し上げた通り、”評価規準は使いながらブラッシュアップ“という姿勢で臨むことが肝要です。

❏ 評価の観点と方法は、きちんと書き出されているか

評価基準に含むもの(テストや課題など)を列記するだけでなく、それぞれの規準を「目指すべき到達状態」として生徒が理解できる表現で書き出しておかないと、生徒に熟読させても意味はありません。
現行のシラバスは、評価規準に照らして、生徒・学生が自分の取り組み方を評価して現状での足りていないものに気づき、到達目標への接近を図るための行動を起こすきっかけとなるような書き方になっているでしょうか。
授業開きでシラバスの読み合わせをする前に、出来上がった冊子での記載が如上の要件を満たしているかどうか点検しておきましょう。
もし、要件を満たしていないようなら、思い切って別紙を用意して差し替えてしまいましょう。生徒自身の手で貼り込ませることで、そこへの注意も向きますから「災い転じて福となす」かもしれません。
ちなみに、観点別学習状況の評価ですが、現行課程では、「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識理解」の四観点で行われてきましたが、新課程の先行実施が始まった今、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の三観点への切り替えに対応しているかどうかも点検しておきたいところです。
お馴染みの「思考・判断・表現」にもそれぞれ「力」がくっついた意味にも考えを巡らしておく必要があります。
従来は、正しい思考、判断、表現ができたかという「結果」で評価すれば良かったのが、これからさきはコンピテンシーとしての「(能)力」を獲得できたかどうかが評価されるということです。
授業で教えたことをそのまま素直に覚えて、答案に再現できたかどうかを試すような考査問題では「(能)力」を試すことはできませんよね。定期考査の作問に備え、教える側での意識の切り替えも必要です。



シラバスを熟読させることは、主体的に学習に取り組ませ、学習目標を達成させるうえで大きな助けになりますが、大前提として、シラバスが学習者にとって有益な内容と構成を備えていなければなりません。
生徒がシラバスを使う場面を想像すれば、書くべきことは自ずとはっきりしてきます。詳細は”シラバスの起草・更新に際して“に譲りますが、

  • まずは、全体を見渡したグランドデザイン
  • 指導計画立案の前に検証可能な目標の設定
  • 副教材の取り扱いや学ばせ方のすり合わせ
  • 使いながら記録を残してブラッシュアップ

といったあたりは、シラバスの起草・更新に際して最小限、押さえておくべき手順上のポイントだと思います。
新学習指導要領への切り替わりを迎えれば、自ずと全面改訂が待っています。今のうちから現行シラバスにきちんと目を通し、次の改訂でより良いものが仕上がるようにしたいものです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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評価規準は使いながらブラッシュアップExcerpt: 昨日の記事では、必要な事柄をきちんと記述したシラバスであれば、学習者に熟読させることで到達目標が達成しやすくなる というデータを示しました。同じことは、英語のCAN-DO List や活動評価のための基準表、あるいは記述問題の採点ルーブリックについても言えます。
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