異校種連携で行う授業研究の必要性

異校種の授業を参観する機会はどのくらいあるでしょうか。中高一貫校なら中学と高校の先生が相互に授業を観るのに大した制約はないはずですが、頻繁に、あるいは定期的に参観しているというケースは多くないように感じます。
ましてや、設置者が異なる学校の間では、そもそも観に行くチャンスも少ないのが実情でしょう。

❏ 生徒が何を経験・学習してきたかを知らずには…

例えば小学校での授業を中学の先生が見れば、入学してくる生徒がどんな学びを経験し、何ができるようになっていてどんな習慣を身につけているかを把握したうえで、中学の授業や教育活動を設計できます。
高校の先生が中学校の授業を観に行っても同じです。総合的な学習の時間を覗けば、中学での体験的・横断的な学習の上に、高校でどんな活動を用意すれば良いか精度の高い検討ができるはずです。
先生方ご自身も、小学校や中学校の授業は生徒として経験していますが、学習指導要領も違えば環境も全く異なります。
自らの経験だけで推測しても、今の生徒・児童の状況とかけ離れたものを想像してしまうかもしれません。
生徒が小中学校ですでに経験していることを繰り返しても、そこでの成長はあまり大きく期待できないのではないでしょうか。逆に、用意が整っていないことに挑ませても、生徒は返り討ちにあうだけです。

❏ 異校種の先生の意見に触れて、教育活動の最適化

高校の先生が、小学校や中学校の先生からお話を聞きながら、「教育活動を通じてどんなことができるようになったか」、「どんな姿勢を身につけてきたか」を知ることができれば、高校の教育活動を通じて、足りないところを補ったり持ち得たものをさらに伸ばしたりといった戦略が立てられます。
逆に、小学校の先生が中学校や高校の授業を覗いてみたり、中学の先生が高校や大学の授業を参観すれば、今扱っている単元の内容を理解させ、定着させるという当座の目的を超える、次に進んだときの学びへの準備を整えることを含めての指導ができると考えます。
ここでも、訪ねた先の先生方の話を聞きながら、どんな活動を経験しておくことが、あるいはどんな資質や姿勢を獲得することが、上級学校に進んでから大きく伸びる土台になるかを知るのは、今のポジションで出来ることを見直す上で大いに参考になるはずです。

❏ 高校では、大学や企業との連携も機会に

高校の先生にとっては、大学の先生や企業で働く方(特に人事で評価や育成に関わる人)と一緒に、高校のうちに経験させたいこと、獲得させたいことを考えるのはとても意味のあることだと思います。
生徒に対して、1つ先に進んだ時の学習をイメージさせることが、今の学びに目的と意味を見出させることになるのと同じように、先生方にとっては生徒が1つ先、2つ先のステージで期待されることを把握しているかどうかが重要です。
中高連携、高大連携、あるいは職場体験などは、生徒の活動だけを見て設計するのではなく、先生方が校種などの壁を超えて相互に意見や考えを共有するべき場として企画・運営すべきものだと思います。
生徒の行事として日程を作ったら、その前後の時間を割いて、教員同士の協議・交流の場を設ければ、大きく手間と時間を増やすことなく実現が可能と考えますが、如何でしょうか。

❏ 当座の目的の達成に加えて、次のステージへの準備

学習・生活・進路の各領域で設定している達成目標が、当座に閉じたものか先につながるものかでは大違いです。
それぞれの校種で学ぶ教科・科目に固有の知識・技能を身につけさせる中で、汎用スキルや姿勢・資質を養うのは、次のステージで必要とされる準備を整えることでもあります。
次のステージがイメージできないのでは、教育活動や授業をどう設計すれば良いか方針も立てられないのではないでしょうか。
これらを知るには、上級学校の様子を覗いたり、そこで教えておられる先生方のお話を聞くのが最も手軽でリアルな方法でしょう。
忙しい毎日の中で、ホイホイ出かけるわけにもいかないでしょうが、近隣の学校と連携して、相互に行き来する機会を年間予定の中になんとかして見つけ出したいものです。



お時間が許すときに以下の記事も併せてお読みいただければ幸甚です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一