探究型学習を通して、興味を持てる学問・研究や社会の取り組みを見つけ、そこから具体的な進路希望を作っていく生徒がいます。テーマに沿って広く調べ、考察を深めていく中で、学んでみたいこと、研究してみたいことを見つける可能性は低くないはずです。
別稿「カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ」にも書いた通り、職業をターゲットにして逆算的に作ったルートに乗せる指導に限界が見える中、キャリア教育を補完する/その一部を置き換えるものとして、探究型学習の可能性は大きく広がっているように思われます。
2015/03/12 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 職業をターゲットにするのはリスクが大きい
以前に起した拙稿「ゴールを決めて最短距離?」で書いた通り、多くの職業が数十年も待たずに新しいものに置き換わると予想されています。
そんな変化の激しい社会で、適職診断などを頼りに職種・業種を絞ってそこに至る最も効率的なルートを探すという考え方には、出口をふさいでしまう危険性すらあるのではないでしょうか。
また、職業調べ、適職診断など、キャリア教育の一環として用意されている指導機会は益々充実、というより肥大化しています。
生徒が使える時間には(当然、先生方の仕事量にも)限りがあり、従来からあるものに何かを単純に足し算するのでは無理が生じるのは明白。
様々な活動が用意され、学習機会が増えれば、与えられる情報は増えますが、整理しきれずに流れに飲み込まれてしまっては本末転倒です。
探究、進路・キャリアに関する活動をどこかで整理・体系化して、一つひとつの学びの機会にじっくりと向き合わせることが大切です。
❏ 一般選抜でも志望理由が問われる時代へ
志望理由書や学修計画書がきちんと起こせるかどうかが合否を分ける総合型選抜は言うまでもなく、一般選抜で大学進学を目指す生徒にとっても、明確な志望理由を持つことは極めて重要です。
合格をゴールにしては、入学後に目標を見失ったり、燃え尽きてしまったりするかも。目標を持った状態で巣立たせることを目指して、指導を重ねることは学校に課せられたミッションの一つです。
志望校ありきで、その理由が「後付け」では、勉強が上手くいかなかったりしたときにも頑張りが効きにくいはず。諦めない心は諦めたくないものを見つけた人に宿るものです。
明確な目的と志望理由を持たせるにも、自分事としての課題を見つけて取り組む中で、自己のあり方・生き方を考える機会としての探究型学習が果たす役割は大きく、3ヵ年の教育プログラムの柱になり得ます。
探究型学習と進路指導・キャリア教育の一本化を図ることで、重なりをうまく利用しつつ、無駄をできるだけ減らした効率的な時間の使い方を考えていく必要があるのではないでしょうか。
❏ 進路意識を作る機会としての探究型学習の可能性
実際のところ、探究型学習はどの程度までキャリア教育の機能を引き受けられるかという不安もあろうかと思いますが、これまで各地での事例を見てきた限りでは、かなり期待してよさそうです。
ある学校に在籍する生徒の一人(以下A君)は、「ゲーム理論」をテーマに研究を行い、その難しさとともに応用性の高さを知りました。
応用例のひとつとして国際紛争の解決に思い至り、そこから「○○大学の国際関係学部に進み、ゲーム理論に基づく国際問題解決手段を学んでみたい」と思ったそうです。
興味を起点に、学びたいことが生まれ、それを学べる環境に自らをおくことでさらに拓ける世界が生まれるというのは、ジョン・D・クランボルツが提唱した計画的偶発性理論とも通底します。
A君は、大学で国際関係を学び、そこでまた新しい気づきを得て、自分のキャリアを作っていくことと思います。
キャリアデザインとは、どんな職業に就くかではなく、「人生をどのように積み上げるか、その中でどんな教養を重ねていくか」であると考えれば、探究型学習こそがキャリア形成の起点にふさわしいと思います。
❏ 探究型学習と進路指導・キャリア教育の一体化
しかしながら、前述のA君も、探究活動と進路指導が十分に関連付けられていなければ、内に生まれた興味を、進路希望という形に転化できなかったかもしれません。
志望理由を自ら言葉にするとき(進路希望調査や面談指導も、その機会の一つです)に、それまでの探究活動やその前段階にある「原体験」としての調べ学習や体験学習での経験を踏まえることができるかどうかが指導の成否を分けるのではないでしょうか。
生徒一人ひとりが作り上げていくポートフォリオは、探究活動、進路指導・キャリア教育を担当する先生方が、他の領域での生徒の活動とそこで得た成長(考えや行動の変化)を互いに知る貴重な材料。
ポートフォリオを介して、互いの指導とその成果を十分に知ることが、探究と進路の指導の一体化を加速してくれるはずです。
探究型学習は教務部や探究部、進路指導は進路部がそれぞれ指導の設計と運用を担う従来型の体制をそのままにしては、一体化が十分に進まない可能性も。組織と校務のあり方にも見直しが必要と思います。
その2に続く
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一