知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その4)

前稿では、問い掛けを重ねつつ黒板上で情報を構造化していくことで生徒に「情報整理のプロセス」を学ばせることをご提案いたしました。
これにより、知識の断片化や丸暗記に偏る学びといったリスクも、かなりのところまで解消できるはずです。
しかしながら、蛍光ペンやサブノート式プリントを使うことになった、根っこの問題がまだ解決されずに残ります。言うまでもなく、学習内容の多さに比して授業時間が足りないという問題です。
この問題の解決には、大きく分けて

  1. 単位時間当たりの扱える情報量を増やす伝達の効率化
  2. 与える情報量/学ばせることがらを精選(取捨選択)

という2つのアプローチが考えられます。

2014/12/15 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 知識の拡充範囲をやみくもに広げない

言うまでもなく、両者は互いに競合するようなものではなく、どちらか一方に拠らず2つを併用するのが好適ですが、あえて優先順位をつけるとすれば、後者の「学ばせる内容の精選」だと思います。
伝達を効率化するだけでは、生徒が覚えるものは減らず(むしろ増えていく傾向にあります)、覚えきれない/仕上げ切れないで残っていくものが増えても得るものは多くありません。
この辺りについては、以下の記事がご参考になれば幸いです。

4番目の「参照型教材を徹底して使い倒す」は、必要な情報を得るのに参考書や用語集などを活用する方法と姿勢を身につけさせることで、敢えて教室で扱わずとも、生徒個人の学習活動に任せられる部分を増やしていくことを目指すものです。
卒業などで先生方の手を離れてからも、必要に応じて信頼できるソースに当たり、自力で不明の解消、知識の拡充を図れるよう育てましょう。教室でしかできない学びを充実させるためにも不可欠です。

❏ ICT機器を使って伝達の効率化

問い掛けで考えさせて、理解を積み上げつつ情報を構造化していく過程は、ワンステップずつ端折ることなく見せていく必要があります。
テレビの料理番組みたいに「3分経ったのがこちらです」というわけにはいきません。
節約すべきは、生徒が考えたり手を動かしたりする時間ではなく、先生が板書している時間などです。

パワーポイントなどで作成しておいた「板書のベース」を黒板に映し出して、そこにチョークやホワイトボードマーカーで書き込んでいくというやり方はとても効率的です。
 ※板書のベース: 教科書の本文や表組の枠、図表の下地など
パワーポイントも結構ですが、生徒のプリントを作ったときのワードの文書などをそのまま映写するのであれば、プリントとスライドを別々に作る必要もなくなり、先生方の授業準備での時短にもなります。

❏ 効率化に走って学びを薄くしないことが肝心

ICTを利用するときに注意したいのは、効率的な伝達/効果的なプレゼンテーションに走り過ぎないことです。
あたかも編集されたテレビ番組のような流麗なプレゼンテーションを眺めていては、生徒の学びは受け身になりがちです。
もちろん、これ自体も問題ですが、本シリーズの趣旨に照らせばもっと大きな問題が生じていることにお気づきかと存じます。
最終的な結果をいきなり見せてしまうのでは、情報整理のプロセスを共時的に体験させられず、その方法を学ばせられないという問題です。
また、敢えて生徒に手を動かさせて書き写させることにも、対象を精緻に観察し、特徴をしっかり捉えさせるというメリットもあります。こうした「効果」も念頭に、効率化ばかりに走らないようにしましょう。
お時間が許すときに、こちらの記事も併せてご参照ください。

スライドをプリントにして配るだけでは、対象を精緻に観察したり、情報の構造化の方法を考えたりすることなしに、プリントをファイルに綴じ込んでいくだけかも。そこでの学びは期待ほど大きくないはずです。

❏ プリント・スライドの共有で図る、授業準備の効率化

本シリーズの趣旨を少し離れますが、伝達の効率化のためにICT活用が進むと、やり方によっては先生方のお仕事の軽量化も図れます。
知財として共有・継承(加えて継続的なブラッシュアップへの協働)を図れば、より良い授業に近づくペースも上げられるはずです。
作成したスライドはデジタルデータですので、手を入れる(修正・更新する)のも、他の先生に譲るのも紙のファイルに比べて簡単です。
ほかの先生が作り込んでくれたものを、自分の授業スタイルに合わせてブラッシュアップする方が、最初から作り込んでいくより効率的です。
また、スライドに込められたほかの先生方の知恵(情報を整理・構造化するときの発想など)にも学ぶところは多々あろうかと思います。
実際に授業で使ってみて直すべき箇所があったとしても、デジタルでの編集は簡単です。次年度に向けて修正することはもちろん、次の時間の隣のクラスで使う(配信する)のにも間に合うはずです。
教科内で分業して作成したものを共有していけば、教科全体での作業量はトータルで大きく圧縮できますし、そこで浮いた時間は、より良い授業のデザインや生徒の観察・評価などに使っていけそうです。



ICTの利用については、機材の整備が進んでも、実際の利用がなかなか進まないこともあるようです。あれこれ考える前にまずは使ってみることが大事だと思います。
従来の「紙」ではできないところでICTを活用するのではなく、ICTでもできるところでは紙は使わないという意識で臨みたいところ。
使っているうちに使い方のアイデアは膨らみますし、使い方に習熟するにつれて、使うことのストレスも感じなくなっていきます。
また、生徒にもバンバン使わせていれば、その発想から先生方が学べるところも多いはずです。何といっても彼ら/彼女らはデジタルネイティブ。こちらが到底思いつかないようなアイデアで驚かせてくれます。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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