学習活動を通じて到達を目指すべきものと、それを達成するための手段とをしっかりと示しておくことが、生徒の苦手意識を抑制します。ガイダンス(=目標の提示と方法の周知)が徹底されることで、苦手意識の発生を抑えることができますが、ここで少しでも手を抜くと、生徒の苦手意識を不必要に膨らませてしまいます。
❏ 目標の提示と方法の周知を徹底すると
下図は、「学習の目標や達成のための方法について先生から事前に十分な説明があった」という質問に対して、「十分な説明があった(A)」から「まったくなかった(E)」のどれを選んだかで、「この科目は得意か不得意か」という問いに対する回答分布の変化を表しています。
一目瞭然ですが、得意と苦手の割合は、目標提示で「ある程度の説明があった(B)」との選択肢を選んだ生徒を挟んで優位が入れ替っています。「C:あまり説明がなかった」以下では、苦手意識が優勢です。
❏ 目指すものがわからないと生徒は学びから遠ざかる
「何をしようとしている場面かわからない」という戸惑いそのものが、「ワケワカンナイ」という“反射”につながったり、教室内での疎外感のようなものを与えてしまったりします。
これは、子どもも大人も変わりません。
苦手意識を抱えたまま、「頑張ればどうにかなりそうだ」という展望を持つのは容易ではありません。
「失敗したくない、できない自分に向き合いたくない」というのは自然な感情であり、自己効力感が希薄な領域からは遠ざかりたいという気持ちを抱くのはやむを得ないことではないでしょうか。
目標の提示と方法の周知という教える側でできることを怠って、そんな厄介な苦手意識は持たせないようにしたいものです。
❏ 外圧で縛る前に、本時の目標を生徒にわかる形で示す
前向きに取り組もうとしない生徒の背中を押すのはたいへんですよね。
消極的な姿勢を示す相手に、積極的な行動を取らせようとすれば、ついつい外的な動機付けに頼ることになりがちです。
宿題の履行確認を厳しく行ったり、選択の準備がまだ整っていない生徒に「将来の夢」を半ば無理に描かせたりする方法では、効果より弊害の方が大きいのではないでしょうか。
面白味もないことを強制された/やらざるを得なかったという体験の記憶が、学びから遠ざかろうとする気持ちを強めてしまうばかりのような気がします。
学びを経て生徒が解くべき課題を示すことで本時の学びの目標をしっかりと伝えるようにすれば、生徒にも先生にもストレスになるような外圧頼みの方法を選択しなくても済むケースが増えることを如上のデータは示しています。
❏ 生徒は解くべき課題を通して学習目標を認識する
生徒の側で抱く、得意/不得意の意識に、外から直接働きかけることはできません。苦手なものを前に、「わかれ」「できろ」「すきになれ」と言われたら大人でも困ってしまいますよね。
それに対して、学習活動を通して目指すもの(学習目標)は、授業者が設定しているものであり、それを言葉や様々な手段で伝えることは授業者がコントロールできる範囲にあります。
授業終了後にトライする問題を示しておくのも広く使える手です。
また、教材の中から疑問点やポイントになりそうな点を生徒自身に探させてからグループ討論で「設問」に仕立てさせる、という学びのレディネスを意識した導入方法もあります。
❏ 目標を正しく認識していることがもたらす効果
目標や達成手段がきちんと理解できていれば、たとえ失敗しても「次にどうすれば良いか」がわかり、不要な苦手意識を抱えずに済みます。
自分の答案やレポートを見て、足りなかったこと、直すべき点を探させるような働きかけなども、目指すものが明示されていてはじめて成り立つものです。
先のグラフをもう一度ご覧ください。横軸(目標提示)は教師がコントロールできることであり、これが結果として学習者の活動を大きく左右しています。
教える側で「伝えているはずだけど」ではいけません。生徒の側での認識こそが重要です。
日々の授業の中でも、時々は小テストの余白やリフレクションシートを用いて、「先生は、学習目標や取り組み方をはっきり示してくれた」という質問に答えてもらい、生徒側の認識を確かめておきましょう。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一