思考力と表現力を養うには

問答を通じて論理性を養う(その1)

生徒に論理性や思考法を身につけさせる最上の方策の一つは、先生との問答(対話)です。問いを投げかけ思考させ、考えたところを言葉にさせることで、思考そのものやその土台となる観察の欠落に気づくことができます。外からの問いによって、それまでの考えを相対化させることは、より合理的な答えに近づくために欠かせないものだと思います。 2015/04/22 公開の記事をアップデートしました。 ❏ 考え方そのものを身…

学びにおけるインプット(input)とインテイク(intake)

新しい学力観に沿った学ばせ方の転換を図ろうとするとき、学びのプロセスを「インプット」と「インテイク」に分けてみると、様々な着想が得られたり、見落としていたものに気づきやすくなったりします。ともに知識や情報を外から内に入れることには変わりませんが、専ら外からの働きかけで行われる「入力」と、不明を見出したり、興味を持ったりしたときに、自ら求めて行う「取り込み」とは別のものです。 ❏ インプットとインテ…

非言語情報を言語化する(続き)

大学入学共通テストで求められる読解力は、これまで教室で養われてきたものとはちょっと違うものになりそうです。読み取りの対象は文章として提示された(言語化された)ものだけでなく、表やグラフで示されたデータ、図表でモデル化された考え方、風刺画などに描き出されたメッセージや思想などをどれだけ取り込めるかが問われます。読み取ったことをもとに考えるにも、そこで考えたことを第三者に伝えるべく表現するにも、非言語…

大学入学共通テストの試行調査の結果から(まとめ)

共通一次やセンター試験の出題には、できるだけ高校現場の邪魔をしないようにとの配慮が感じられましたが、2年後に迫る新テストは一転して、大学の教育の在り方のイメージのもと「これからの高校教育はこうあるべき」との方向性を明確に示そうとしています。 これまで幾度もチャレンジしてきた高等教育と中等教育の改革により確実な効果を生み出そうと、大学教育と高校教育の接点である大学入試に手を入れたこと自体にも強い覚悟…

理解したことをきちんと覚えることの先に

いよいよ2年後に迫った新テストは、これまでの2回に亘る試行テストを経て、出題の方向性がはっきりと見えてきました。共通一次試験やセンターテストは、高校現場での教育をできるだけ邪魔しないようにという配慮のようなものが見えていましたが、新テストで、「今後の高校教育はこうあるべきだ」というメッセージを強く発信しています。 第2回試行テストに合わせ公表された平成30年度試行調査(プレテスト)問題作成における…

大学入学共通テストで求められる読解力

週末に大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)が行われました。新聞などで報道が出ていますが、出題内容や記述問題の採点基準は、早めに目を通しておきたいところです。求められる学力観の変化を捉えて教室での学ばせ方の転換を図るのに早すぎるということはありません。 大学入学共通テスト平成30年度試行調査_問題、正解等 私自身、まだ一部の問題しか解き終えていませんが、膨大なテクストを素早く読み取り、情報を集…

理解している≠正解できる

理解しているかどうかと正解できるかどうかは、必ずしもイコールではありません。理解していることであっても眼前の課題と結び付けられずに正解に至れないこともありますし、ある問いに正解できたとしても問われていることをきちんと理解できている保証はないということです。 ❏ 理解している、かつ正解できることが目指す状態 答えられなかった後で説明を聞いて「ああ、そうか」と言っている生徒もいれば、選択式問題や語句補…

大学入学共通テストにおける問題作成の方向性から

先月の中旬に、大学入試センターから「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性等と本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨についてとの発表がありました。 発表資料の冒頭には、 各教科・科目における問題のねらいや実施方法等については、これから11月に実施さ れる試行調査の分析・検証を経て、来年度初頭に正式に公表される予定(攻略) とありますが、現時点での検討状況は把握しておきたいものです。…

新テスト対応にも探究活動は土台となる

大学入学共通テストの導入に向けた試行調査では、その試行結果の報告において、「探究の過程等の設定を通じて、知識の理解の質を問う問題や思考力、判断力、表現力を発揮して解く問題を、各科目における全ての分野で重視した」とのこと。“探究の過程等の設定”(…行政文書らしい言い回し!)と言われても、具体的なイメージがわきにくいところですが、添え書きをみると、 などを設定すること(らしい)…

知識活用の機会を整えて授業改善を加速

ようやく夏も終わりそうですが、今年も多くの学校の授業評価アンケートのデータをお預かりして、分析させていただきました。データからは様々な「問い」をもらいます。それまで考えていたことだけでは、説明がつかないデータのことです。そのたびに、あれこれ考えて「データを説明できる仮説」を作り、実際に授業を観に行ってそれを確かめたりするのは、なかなか骨の折れることではありますが、ことのほか楽しい時間でもあります。…

考察: 大学入学共通テスト&高大接続改革

2020年の高大接続改革もいよいよ近づいてきと感じます。新テストに最初に挑む世代もすでに中学3年生。来年は高校に入学してきます。高校の教育成果は3ヵ年の積み上げですから、本年度のうちに対応準備を進めたいところ。 まだ全容が見えているわけではありませんが、現時点で見えているところから、やるべきところをしっかり考えていくべきだと思います。 文科省、大学入試センターからの先週の発表を受けて、考えるところ…

新共通テストの採点基準~正しく適用できる力

前々回から引き続き、5月16日に発表された「大学入学者共通テスト(仮称)」のモデル問題についての考察です。出題内容とともに着目すべきなのは採点方法。また、2回にわたって実施されたモニター調査実施結果からも今後の指導のあり方を考えさせられることがあります。 ❏ 今回提示の採点法は、条件付き記述に特有のもの 共通テスト(仮称)のサンプルで示された問題では、出題内容に加え、採点方法についても着目しておく…

モデル問題(共通テスト)を見て #2数学

昨日に続き、共通テスト(仮称)のモデル問題を見て感じたところをまとめます。数学のモデルでも、「確かめる方法を数式を使って説明せよ」 など、協働での課題解決という「対話相手が存在する場面」 を想定しないと意図が見いだせない問い方が散見されます。 地歴・公民分野や理科の記述式問題は平成36年度の導入に向けて検討を進めるとのことですが、「社会生活の中での言語活動、及びそこで求められる思考・判断・表現」 …

モデル問題(共通テスト)を見て #1国語

先日(5月16日)に、大学入試センターから「大学入学者共通テスト(仮称)」の国語と数学のモデル問題が公表されました。また、採点基準案やモニタ実施の結果も出ています。何回かに分けて考えたところをまとめてみます。 ❏ コンピテンシーを発揮する場の想定が変化した? 国語のモデル問題をみて、真っ先に感じたのは 事業者からの提案のどこが行政のガイドラインに抵触するか判断する 対立する意見がある…

学力の三要素とは~もう一度考えてみました

平成28年に出された馳文部科学大臣のメッセージ「教育の強靭化に向けて」 では、従来と変わらない時間枠の中に、思考・判断・表現の各要素を織り込み、主体性・多様性・協働性を身につける場を設けながら、学習内容は減らさないという方針が再確認されました。知識・技能を整えてから、思考力・判断力・表現力を鍛えて、という段取りでは所定の指導時間には収まらないことになるのは容易に予想がつきますし、主体性・多様性・協…

思考力をはぐくみ評価する#INDEX

大学入試改革で、「表現力」と並んで注目されている「思考力」。きちんと定義されることもなく用いられてきたことが多いだけに、それをどう評価し、どのように獲得させていくかは教える方それぞれの経験則や主観で語られがちです。頭の中で起きている思考は、アウトプットされたものを外から観察できる表現力とは異なり、プロセスのすべてを直接的に観察することはできません。答案として書き出されたものから伺えない部分は、生徒…

思考力をはぐくみ評価する(その4)

学びの過程で、途中のどこかと仕上げの段階とで答えを作る場を2度おいてみると、最初の答えと最後の答えとの間には当然ながら違いが生じます。両者の違いには、その間に獲得した知識に加えて「積み上げられた生徒の思考」も含まれていますよね。 ❏ 思考の広がりと深まりを見て、学習を評価 その違いを最も大きくするような授業が好ましい授業であることは言うまでもありません。教育経済学の言葉を借りれば、「付加価値が大き…

思考力をはぐくみ評価する(その3)

思考を評価するには、課題解決行動そのものを観察することが必要です。「考えるための問い」を示したら、まずは生徒に解かせてみて、その過程でどんな思考がおこなわれているか/どこで躓いているか(どのような思考ができていないのか)を注意深く観察してみましょう。 ❏ 問いには2つのタイプ~特性を見極めて 問い(設問・課題)と一括りにされるものの中には、外から見える解決行動で2つのタイプに分けることができます。…

思考力をはぐくみ評価する(その2)

思考力の向上を図るにも、測定・評価するにも「思考させる場」を与えることが大前提。そのために欠かせないのが「考えさせるための問い」であるというのが昨日の記事の趣旨でした。本日は、その問いを教室でどう使っていくべきかを考えてみます。 ❏ レディネスを整えたら、まずは生徒にやらせてみる 「考えるための問い」を示しても、答えを出すまでのプロセスを丁寧に誘導しては問いの意味がなくなります。教えてしまえば、生…

思考力をはぐくみ評価する(その1)

知識・技能に加えて、思考力・表現力や協働性・多様性・主体性がより強く求められています。それぞれの学力要素を目標水準に引き上げるには、個々の生徒について評価を通じて「現況と目標との差分」 を明らかにするのが第一歩。何がどのくらい足りていないのか特定できないことには、それを埋める計画も立ちません。 ❏ 測定/評価方法の確立にむけて 知識・技能の多くは、テストによってある程度まで正確に測ることができます…