生徒が調べたり、考えたりした結果を、答案、レポート、発表などの形でシェアさせると、教室には生徒間の「相互啓発」が働き始めます。
直接的な対話(話し合い)の場合と同様に、「気づきの交換」で思考が深まり、視野が広がるのは当然のこととして、取り組み方(結果に至るまでの工夫/プロセス)を互いに知る(あるいは想像する)中で、課題へのアプローチやより良い学び方を、生徒は学んでいきます。
そうした機能を十分に働かせるために、押さえておきたいことを、少し立ち止まって考え、まとめてみたいと思います。
2022/08/22 公開の記事をアップデートしました。
❏ 発表は、頑張る目標+自身の取り組みを相対化する機会
取り組んだ成果を発表する場の創出は、生徒に「頑張る目標」を与える上、頑張りを認めてもらうことは「繰り返したい快体験」として次へのモチベーションを作りますが、効果はそれだけに止まりません。
本来の目的は、生徒が「互いの取り組み」から学ぶ場を作り出す(=学びのコミュニティに相互啓発を働かせる)ことにほかなりません。
互いの頑張りに触れて、自分の取り組みとその成果を「相対化」する中で、自分に欠けていたものに気づき、より良いパフォーマンス/成果を得るのに、何にどう取り組むべきかを生徒は学んでいきます。
相対化は、明確な評価の基準を与えられることと並ぶ、的確な振り返りを行うために不可欠なもの。別の言葉を当てるなら、学習の改善、メタ認知・適応的学習力の獲得を図るための前提要件、ということです。
信頼できるソースに当たり、きちんと前提理解を踏まえている答案、誰しもは思いつかない/気づかない切り口から思考を重ねた論考、しっかりまとめている(構造化、可視化できている)発表などは、そのままでも「範」となり、他の生徒の参考になります。
よくある躓きや見落としを内包するものなら、改めるべき点がどこにあるか、どう直すかを考えさせ、話し合わせることもできます。ひとつの失敗(誤解、不明、躓き)から、クラス全員が学びを得られます。
❏ シェアするものは、事前にきちんと選び出す
こうした効果を得るには、教室でシェアするものが、生徒の十分な努力と工夫の上に作られたものであるのが前提。いい加減な取り組みを生徒の目に触れさせても、本人にも周囲にも好ましい影響はありません。
肝要なのは、シェアするものを事前に選び出しておくこと。生徒が提出してきた答案、レポート、プレゼン資料などに、先ずは先生方がきちんと目を通しましょう。フィルターを掛けて、前段に挙げた「シェアに好適なもの」を選び出しておかないと、あらぬ問題を抱えかねません。
調べたり、考えたりする段階に、明らかな(=修正が及ばないほどの)不足があるものを、発表させては、クラス全体の学びに転化させにくいはずです。貴重な授業時間を無駄に使うのは避けたいところでしょう。
きちんと(=明確な意図をもって)フィルターを掛けずに、取り組みが不十分なものを選んだ挙句、いざ講評の場で本人を気遣い、問題の指摘や批判を抑えてしまっては、「その程度でよいのか」との誤解を、本人のみならずクラス全体に与えるリスクもあろうかと思います。
探究活動の成果発表でも、「ウケ狙い」で探究の体をなしていないものを選出し、後輩学年に見せてしまったことで、似たようなケースが年度を跨いで繰り返されていること(悪しき伝統化?)だってあります。
❏ シェアの対象を絞らないと、吟味や消化も追い付かない
出来るだけ多くの生徒に発表の場を与えたいとの意図から、フィルターを掛けずに、全員の成果物を分け隔てなくシェアするというやり方にはメリットよりも問題の方が多くなるのではないでしょうか。
クラウド上であれば、全員分をシェアするのも技術的には何ら問題はないでしょうが、40人分の答案を目の前に並べられて、その一つひとつにちゃんと目を通すのは、少なくとも生徒には極めて困難。
ざっと目を通すだけでは、吟味は雑になり、そこから学べるものは膨らんでこないはずです。何が良く、どこに改めるべきものがあるかを見つけるにも、成果物にしっかりと目を通し、熟慮する必要があります。相互評価だって、次々に発表が進む中では、まともにはできません。
さらに踏み込み、他の生徒が調べ、考えたことの中に「新たな問い」を立てる(質問する)ことを求め、互いの気づきを深めさせようとするなら、質疑応答にも十分な時間を掛ける必要があります。対象となる成果物は絞ってあげる必要が増すのは自明でしょう。
繰り返しですが、限られた時間の中で、効率的な学びを実現するには、先生の目による「シェアするものの意図的な選出」が欠かせません。
シェアに好適な答案を選び出すには、AIも上手に活用したいところ。選出の基準を含めたプロンプトが書ければ、候補を絞るところまでは手間を減らせます。教室でどんな学びに繋げていくかにそって、候補からの選び出しと配列を考えるのは、先生ご自身のお仕事です。
❏ フィルタリングは、評価の基準に照らして行う
教室でシェアするもの(答案、レポート、発表)を選び出すときの「基準」は、日々の学習指導における評価基準との整合性が重要です。
学びのフェイズ、あるいは観点毎に示される「評価の基準」は、生徒にとっては目指すべき到達状態(=目標)です。目標があちらこちらにぶれていては、頑張りの方向が定まらない上に、混乱も生じます。
如上のプロンプトの起草にも、普段使っているルーブリックに含まれる文言を用いた方が、納得性の高い選考結果が、効率的に得られるはず。例えば、こんな感じ(AIに作らせたプロンプト例)になりそうです。

普段使っている「評価基準」を完全に満たすものだけ選んでも、「模範解答」を並べるだけの結果にもなりかねません。「発想は面白いが、どこかに論理的な矛盾を抱えている」など、少し手を入れさえすればグンと良くなる可能性があるものも、意図的に選び出していきましょう。

満点答案ではなく、どこを見直し、どう改めるとより良くなるかを学べるものが、シェアする「教材」として優れているということです。
ちなみに、教室でシェア(吟味、添削)しなかったものは、生徒に戻して自分の手でブラッシュアップさせる方が好適です。先生が添削して返却するだけでは、生徒は「より良い答案を作り上げる」過程を経験できず、その能力を伸ばすチャンスを持てません。
このあたりは、別稿「提出物は丁寧に添削して返すのがベスト?」「答えを仕上げる中で学びは深まる」も併せてご高覧ください。
■関連記事:
ちなみに、探究活動の成果発表会で「代表」を選び出すときなどにも、フェイズごとに求めてきたものと、選考基準の一致は重要です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
