~優良実践を「自分の授業の次の一手」に変える~
優れた実践を知る機会があることは、授業改善にとって大きな助けになります。ただし、実践報告を聞いたり、授業を参観したりしただけで、自分の授業がすぐに改善に向かうとは限りません。場合によっては、次のように感じることもあります。
「良い実践だと思うが、自分の授業とはスタイルからして違う」
「実際にやるには、特別なスキルや教師のキャラが必要なのでは?」
「担当クラスの状況が違う。真似てみても上手くいかない気がする」
こうした受け止めが生まれるのは、「優良実践を自分の授業で試せる形に変換する手順」が十分に見えていないときに起こりがちのようです。本稿では、実践共有を「聞いて終わり」にせず、自分の授業のキャッチアップにつなげるための考え方と手順を整理します。
❏ 授業全体の組み直しではなく、場面を一つに絞って
授業改善を考えるとき、いきなり大きく変更しようとするのでは、かえって動き出しにくくなります。全体のバランスもとりにくくなる上に、新たに試したことがどんな効果を得たかも確かめられません。
まずは、次の授業/単元で、何か一つ、新しい要素(=実践報告に触れて知った「効果が期待できそうな手法」)を採り入れてみる「場面」を設けるという発想の方が、ハードルも下がり、修正も容易になります。
例えば、課題への取り組ませ方でも、生徒が個々に考えた答えの正誤をチェックするやり方から、個々の成果をグループで持ち寄って比較検討させた後に、改めて自力で「より良い答えに仕上げる」ことを求めるようにするなど、特定の場面に絞った「変更」から試していきましょう。
変更箇所がシンプルであれば、それによってもたらされた変化(生徒の反応、仕上がった答え)への影響も読み取りやすくなります。上手くいったのなら、応用の範囲をさらに広げていきましょう。上手くいかなかった箇所は、原因を考えて修正方法を試すことになります。
より良い授業の実現を図るにも、初期状態(現状)から理想状態を一気に目指すのでは、あちこちに無理が掛かるばかり。授業を構成する要素とその組み合わせを、一つひとつ試す中で確立を図っていくものです。
❏ 好適実践を観るときも、「切り出すパーツ」を意識
大きな成果を得ている授業(cf. 共有すべきは付加価値の大きな指導)を参観していると、半ば当然ながら、全体として完成度が高く見えます。優れた手法のみならず、それを支える指導スキルや、授業者の人となりなどもまぶしく見えるもの。
そうした「印象」で授業全体を捉えているだけでは、冒頭に書いたような「自分にはここまでできない」「自分のクラスでは無理だ」といった心理的なトラップを抱える(距離を感じる)ことになりがちかも。
ここでは、「好適実践に学ぶとは、その授業を丸ごと再現することではない」という前提を押さえ直しましょう。大切なことは、「自分の授業にも組み込めそうな工夫をパーツとして見つけること」です。
授業を観たり、実践報告を読んだりするときは、「全体的な感想」に止まらず、以下の問いを携えて、分析的な視点で臨みましょう。
- この授業に大きな成果をもたらしている取り組み/工夫は何か。
- どんなメカニズムが働いて、そのような成果を得ているのか。
- 自分の授業に採り入れるには、どんな準備やアレンジが必要か。
取り込むべきパーツ(優れた工夫)を、参観した授業から効果的に「切り出す」ことができたら、それをすでに行っている実践(自分の授業)と競合や矛盾が生じないように、双方(これまでのやり方と新たに取り込む手法)のすり合わせを行っていきましょう。
新たな学習活動を採り入れるなら、時間配分にも変更が必要でしょう。授業内活動に応じた準備なども変わるため、生徒に課す予習も変えていくことになるはず。(cf. 予復習に課すタスクで”教室の学び”を最適化)
担当クラスのレディネスに不足があるなら、新たに採り入れる手法にもアレンジが必要になります。学びの初期値を計測しておきましょう。
❏ 実践共有のあとに、必ず「試すこと」を一つ書き残す
実践共有の場で大事なのは、刺激を受けて感想を持つことではありません。次の授業で試すことを一つ決めることです。実践共有や相互参観のあとには、次の三つは書き残すことを習慣にしたいところです。
- 気づいたこと(実践報告に触れての気づきを言語化することの効果)
- 自分の授業で試すこと(授業改善の方向性は合っているか?)
- 生徒のどの姿を見て効果を判断するか(生徒を中心に授業を観る)
校内外の優れた実践に触れて得た気づきは、整理して、行動計画に落とし込むことで、より良い授業の実践に繋がりますし、試したことの効果を確かめないと、試行錯誤に生徒を巻き込むことにもなりかねません。
気づきを言語化することは、改善課題に向き合うことであり、具体的な行動を起こすための準備として欠かせないものです。
❏ 参観では、先生の技術より「生徒の動き」に注目する
授業を参観するとき、つい先生(授業者)の話し方、発問、板書、進行の巧みさに目が向きます。もちろんそれらも大切ですが、表面的に真似るだけでは、自分の授業にうまく組み込めないことがあります。
見るべきは、先生の手順そのものよりも、その手順によって生徒がどう動いたかです。次のような観点で教室全体に目を向けていきましょう。
- 生徒が自力で考え始めたのは、どの場面/段階か
- 隣と話す必要が生まれたのは、どの問いか
- 振り返りで、生徒は自分の学び方に触れているか
- 教師の介入は、生徒の思考を止めたか、進めたか
こうした観点を持つと、授業者の個性ではなく、学ばせ方の構造が見えてきます。自分の授業に持ち帰るべきなのは、授業者の振る舞いそのものではなく、「生徒の学びを動かしている仕組み」だとお考え下さい。
❏ データは「改善課題の所在」を見つけるための材料
授業評価アンケートや学力データは、各々の授業の強み(=観察して見習うべき部分)を探し出すだけでなく、自分の授業のどこに改善課題があるか、その所在を特定するのにも使っていきましょう。
全体の分布や平均値だけでなく、評価項目、測定要素などできちんとデータを切り分けると、強みと弱みの峻別・抽出が容易になります。
回答データや採点結果を観ながら、個々の生徒のパフォーマンスを思い出し、振り返っていく中で次のような問いへの答えも見えてきます。
- 記述問題で答案が書けないのは、どの段階で止まっているからか
- 学び方が身についていない生徒は、授業中のどこで迷っているか
- この単元では、知識が足りないのか、知識を使う場面が足りないのか
- 生徒が自分の進歩を感じにくいのは、どの場面の仕上げが弱いからか
こうした「問い」を持つことで、データに現れている課題(授業のデザインのどこに手を入れるべきか)が捉えやすくなるとも言えます。
答案採点でも、集計の取り方と活用法を予め想定しておくことや、共有すべきは付加価値の大きな指導との発想を持つことなどが前提。データを後から眺めるだけではなく、最初から「何を見取り、どう改善に使うか」を想定しておく必要がある、ということです。
❏ 一度試してうまくいかなくても、そこで結論を出さない
新しい工夫が最初からうまくいくとは限りません。別稿「新しいことに生徒が戸惑いを見せても」の通り、生徒が思ったように動かないこともあります。戸惑いが原因なら、習慣化で問題は軽減しますし、振り返りで次の機会での修正を図らせることも可能です。
準備した問いがかみ合わないことや、時間配分が崩れたりすることもあります。学びの初期値を捉え直したり、躓きを予測した対策を挟むことなどで、流れを狙いに近づけていきましょう。
こうした対処を尽くさぬまま、「自分のスタイルには合わない」「このクラスでは無理」と結論づけては、改善の芽が止まってしまいます。
最初の試行は、たいてい粗いものです。大切なのは、試したあとに短く振り返り、次にどこを小さく変えるかを決めることです。
試行を行ったら、「どこが動いたか」「何は動かなかったか」「想定外の生徒の反応は何か」「次はどこを小さく変えるか」を考えましょう。ときには「試行・観察・修正のサイクル」に協働者を置く(同僚の先生に参観してもらう)のも好適です。
追記: キャッチアップとは、誰かのやり方をそのまま真似ることではありません。これまでの自分の実践を否定することでもありません。
優れた実践に触れて得た気づきの中から、自分の授業に組み込めそうな工夫を一つ切り出し、次の授業/単元の一場面に置いて試してみる。その結果として、生徒の学びがどう変わるかを確かめ、必要に応じて調整を重ねていく。この繰り返しで、授業改善は進んでいきます。

本稿をもとにChat GPTで作画しました。クリックすると拡大します。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
