新たな単元を学ばせるとき、「生徒がどこで理解に躓くか」「イメージしにくいのはどこか」を予想し、把握できていることが大切です。ここがしっかりしていると、説明の構成や学ばせ方の工夫などで、先回りした対処ができる分、理解の形成が効率的に図れるようになります。
こうした「予想」は、たいていの場合、先生方が積み上げてきた経験に基づいてなされますが、必ずしも「予想がピッタリ嵌るとき」ばかりではないはずです。予想の精度を高めるのに、AIも活用しましょう。
さらに、予想された躓きに焦点を当てた「問い」を作っておくと、導入フェイズで使う問い(ターゲット設問)に活用できます。生徒の問題意識を刺激する機能とともに、前提理解をどこまで持っているか、学びの初期値を測定する機能も持ち合わせるため、授業作りには有用です。
❏ 生徒がどこで理解に躓くかをAIに予想させてみる
授業の進め方を考えるのにAIを活用する先生も増えているようです。効率的に理解を形成するための「説明の構成」を考えるときも、授業で用いる資料をAIに読み込ませ、「導入説明のシナリオをコンパクトに作って」と命じると、それなりのものが出力されます。
但し、出てきたシナリオに従うだけでは、AIが「得意」とする「根拠なき尤もらしい答え」に引きずられ、間違った方向に授業が誘導されかねません。予防には、如上の注文の前に一歩立ち止まって「この内容を学ぶときに生徒が理解に躓くところ」を予想させてみるのが好適です。
このワンステップを挟むことで、どの観点でシナリオをまとめるかの方向性を確認・修正できるため、AIの「創作的暴走」にブレーキを掛けることができますし、AIの中間出力に対し、先生方の経験からの予想を加えて修正することで、当初の狙いにシナリオを近づけられます。
AIによる「躓きの予想」をたたき台に、先生方の経験と思考を上乗せすることで、予想をより合理的で妥当なものにする、ということです。
正しい予想は、対処における正しい選択の大前提。別稿「正答率の予測ができれば授業設計も最適化」でお伝えしたことと同じ理屈です。
❏ 予想される躓きに焦点を当てた問いを作ってみる
生徒が理解に躓くところを予想したら、それを見越した「説明の工夫/躓きを予防する先回り」に進みたいところですが、それだけでは「効果的な理解の形成」という目的に、確実に近づけるとは限りません。
理解をする主体である生徒の側の「(説明や情報を)受け止める準備」も整えていかないと、どんな伝え方の工夫も、狙った通りの効果は得られません。問題意識を持たせる、思考の「準備運動」が大切です。
ここで効果的なのは、「予想された躓きに焦点を当てた問い」を提示して、手持ちの知識と発想で「仮の答え」を作らせてみることです。問いを起こすのも、AIに手伝わせましょう。たたき台くらいは作れます。
これから学ぶことだけに、答えを導き出すのに必要な道具立て(知識)も揃っておらず、発想も及ばないところがあるはず。自ずと、仮の答えは「十分なもの」とは程遠いものになりますが、それでも思考の準備運動にはなり、解き明かしたい疑問を頭の中に作らせます。
別稿「隠されているものは覗きたくなる」でも書いたように、問われれば、自ずと「答えは何だ?」と考えます。それにより、その周辺の情報を拾い上げる「認知の網」を即席で張れる効果は小さくありません。
また、そこで生徒が作った「仮の答え」に目を通せば、これから学ぼうとしていることに対して生徒がどんな認識を持っているかも探れます。答えをクラスでシェアすれば、土台となる前提知識の共有も進むはず。
❏ プロンプトを工夫しながら、効率的に仕事を手伝わせる
AIは、与えるプロンプトしだいで、「優秀な補助者」にも「でたらめを繰り返す時間泥棒」にもなります。効果的なプロンプトの立て方そのものが、仕事(ここでは授業案作り)の効率を左右します。
これからの時代、AIを使わないという選択肢は考えにくく、指導法と同様に、プロンプトの書き方(好適例)も各教科の中で共有しつつ、先生方の協働で改善を図っていく必要があろうかと思います。
この記事で触れた、2つのフェイズでのプロンプトの「原案」は以下のようになろうかと思います。使いながら、改善していきましょう。
躓きの予測をさせるプロンプト例:
以下の単元内容を学ぶ、本校2年生を想定し、「理解に躓く可能性のある箇所」を列挙せよ。
条件:
・最大5項目まで
・各項目について
① どこで躓くか
② なぜ躓くと考えられるか(理由)
③ 躓きの型(知識不足、概念理解、思考操作)を仮に付す
・断定ではなく、仮説・推定の形で記述させる
・前提となる学習者像を設定した場合は、その仮定も併記する
単元内容:
(ここに資料や説明文を貼る)
数を制限することで「暴走」を抑止し、理由を書かせ、タイプ分けさせることで「尤もらしさ」だけで誤魔化させないようにしてみました。
ここで出てきたものを、次のプロンプトに貼り付けますが、その際に、先生方の経験則に照らした修正を加えることをくれぐれもご失念なく。AIは「前提となる生徒像(学年・既習・学力層)」を勝手に仮定しがちです。生徒の実態に合っているかを点検できるのは先生方だけです。
躓きに焦点を当てた問いを作らせるプロンプト例:
以下に示す「予想される躓き」に焦点を当て、生徒に仮の答えを作らせるための問いを3つ作れ。
条件:
・問いは1文で簡潔に
・既に教師が持っている正解を言わせる設計にしない
・生徒が所持している知識だけで仮の答えが作れるもの
・問いの意図、想定した前提知識の範囲を明示的に追記する
予想された躓き:
(先ほどの出力を貼る)
このプロンプトで出力してきたものに対して、「問いが誘導的になっていないか自己点検し、問題があれば修正案を提示せよ」と追加で注文を付けて、AIに自己批判と問いのブラッシュアップをさせましょう。
併せて、「予想される誤答」と「それらへの事前・事後対処」なども出力させてみましょう。尤もらしいだけの「大外し」も多々ありそうですが、中には、授業のアイデアを膨らませる有為な示唆があるかも…。
繰り返しで恐縮ですが、AIの出力を鵜呑みにせず、先生方の経験と知見で、その出力を解釈し、教室に持ち込めるもの(問い)に仕上げることが大切。作った問いを、周囲の先生方にも見てもらい、ご意見を得れば、さらに良いものにしていくことができるのではないでしょうか。
どんな出力は「採用」、どんな出力は「修正/却下」、その判断基準は何か、といった「ノウハウ」を先生方の協働の中で練り上げていく中では、学力観/指導観の共有と、磨き合いも期待できそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
