生徒が出来るようになっていることをきちんと見極めて、不用意な「待て」を掛けず、上手に「手を放していく」ようにしたいものです。
数学や物理などで初見の概念を学ばせるときだって、それまでの勉強をしっかり積み上げてきた生徒には、例題の解説を読んで理解し、類題や練習問題を自力で解き進めさせるのは十分に可能ではないでしょうか。
理解の早い生徒には次にチャレンジする問題を与えたり、他の生徒に教えたり、シェアした答えからより広く深く学んだりといったそれぞれの能力や状態に応じたタスクを用意することが「待て」をかけないようにする上でのポイントの一つだと思います。
2015/06/30 に公開した記事を再アップデートしました。
❏ 例題の解説を自力で読んで理解できるなら
教科書は、当然のことながら、生徒が読んで理解できるように書かれています。既習内容の理解が十分な生徒なら、解説を読み、例題の解答例に照らせば、類題や練習問題にチャレンジする土台は整うはずです。
しかしながら、集団指導の一斉授業では、できない生徒の様子にも気を配りながら、先生がペースを作っていきますので、一部の生徒は「既にわかっているところで立ち止まる」ことを強いられます。
顔をあげて先生の話を聞くことを求められていたら、手元で別の問題を解くのはちょっと無理です。そうしている間、学びは進みませんから、結果的には「待て」をかけられているのと同じことです。
自力で進められる生徒はどんどん先に進むことを基本に、読んでも理解できないなら先生の説明を聞く、という以前の常識とは逆の形にした方がむしろ合理的ではないでしょうか。
❏ 解くべき問題の範囲は個々の学力とニーズに合わせて
出来る生徒にどんどん先に進めさせるには、教科書の問題を解き終えたときにチャレンジする別の問題を用意しておかなければなりません。
理解に時間が掛かる生徒にペースを合わせ、授業内では発展問題や章末問題を除いた部分だけを扱い、それをクリアできた生徒には、その先を各自のペースで学ばせるという方法です。
先生が教えなくても、生徒が学べているのであれば、授業は本来の目的を十分に達していることになるのではないでしょうか。先生方のお仕事は、「教えること」から「学ばせること」に変化しているはずです。
教科書の問題をすべて解き終えてしまったら、生徒が手元に持っている問題集にチャレンジさせれば良いだけの話です。
クラス全員に同じ問題を一律に解かせるのではなく、個々の生徒の学力とニーズに合わせて解くべき問題の範囲を変えていくのは、以下の別稿でご紹介したのと同じ考え方です。
❏ 任意課題の答え合わせや解法の点検も生徒に任せて
授業で扱わない問題の答え合わせは、プリントで正解を配って自己点検させることでも十分ではないでしょうか。
もともと、理解力に余裕がある生徒が先に進んだのですから、解説を自力で読んで理解する力は十分に備わっているはずです。
ときには、敢えて正解を教えず、生徒同士の答え合わせの中で正解を見つけさせるという手もあります。一人一台のタブレットを持つ時代ですので、クラウドでシェアしてチャットでやり取りさせれば、声を出さずに(=先生の説明を邪魔せずに)自席からグループワークも行えます。
様々な正解や解法が存在する問題を選んで課せば、答案や考え方の比較検討にも踏み込ませるチャンスです。
机間指導で様子を観察し、生徒が先に進めなくなっていたら、声をかけてヒントを与えたり、躓きを解消してあげたりすれば良い話です。如上のグループワークをしている場面ならば、一人に伝えてそれを他の生徒にシェアさせることだってできるはずです。
❏ 理解できずにいる生徒に教えるというタスクも
できる生徒に対して、自力でどんどん先に進ませるだけではなく、ときには遅れている生徒の先生役もやらせましょう。
理解に時間のかかる生徒に合わせようとしても、学力差や躓き方の違いなどから、どうしてもついてこれない生徒が出てきます。
机間指導で先生が一人ひとりの面倒を見るにしても、5人、10人と増えてきたら順番待ちの生徒は何もせずに立ち止まってしまいます。
既に先に進んでいる生徒に挙手/起立をしてもらい、「解けないでいるなら彼らに訊いて!」と指示しましょう。
人に教えることは、頭で理解していることを言語化することで、理解の深化や定着に役立つことはよく知られているところです。
教科の専門家である先生の説明より、生徒同士の言葉の方がわかりやすいこともしばしばです。
こうした場面を重ねるうちに、互恵意識で結ぶ学びのコミュニティ が形成され、生徒が互いに刺激し合い、ともに成長するクラスが作られていくのだと思います。
高大接続改革以降、「解法や考えを相手に説明する」という場面を想定した設問も増えていますが、如上の活動はその対策にもなるはずです。
❏ 本当にわかっているかを、問い掛けて試してみる
できる生徒にどんどん先に進めさせるときに気をつけなければならないのは、「わかった気で進めているのに、実は肝心なところが正しく理解できていなかった」というケースです。
解説を読んでわかった気になっていても、あるいはその後に取り組んだ設問群で正解できていたとしても、肝心なところを見落としていたり、意味を考えずに読み飛ばしていたりすることがあります。
これを放置しては一大事。ちゃんとポイントを踏まえているかどうか、
「この式は何を表しているの?」
「ここのX>0ってどこから出てきたの?」
「なんでここに補助線を引いたの?」
といった質問をぶつけて、頭の中にある理解や思考のプロセスを言語化させてみましょう。問われれば、答えようとするのが本能です。実際に発言が求められなかったとしても、答えを考える中で「言語化」がなされ、それまで曖昧になっていた箇所の「掘り起こし」が行われます。
クラス全体に対して授業を進める中、個々に問題に取り組む生徒へのタイムリーな声掛けは至難の業ですが、あらかじめ「発問」をスライドに起こしておき、適当なタイミングで映写するようにすれば、「演習中にワンステップずつ進める板書」のような対応もできそうです。
その3に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一