授業評価アンケートなどで、「先生は、生徒の理解や状態を確かめながら授業を進めてくれていますか」と尋ねてみたときに、すべての生徒がYESと答えてくれる状態を維持することはとても大事なことですが、実現するのはそうそう簡単なことではなさそうです。
実際のデータを見ると、下図の通り、肯定的な回答が9割を占める換算得点75ポイントに到達していない授業もかなりの割合を占めています。
2016/08/24 公開の記事をアップデートしました。
❏ 理解の確認で、学習効果を確かなものに
上のグラフと同じデータを用いて、【理解確認】と【学習効果】「授業を受けて、学力や技能の向上、自分の進歩を実感できるか」との関連性を調べてみると、下のような結果になりました。
別稿で申し上げた、授業改善を進める上での「必達目標」である{学習効果≧75}に到達する授業が半数以上を占めるようになるのは、【理解確認】の換算得点が80ポイントを超えてきたときです。
近似線を大きく下方に離れたところに位置する授業では、他のところに学びが成果を結ぶのを妨げている「ボトルネック」が存在するはずですが、第二象限{理解確認<75、学習効果≧75}に分布する授業はごく少数。理解確認を怠ると学びの成果を大きくスポイルするのは明白です。
常識的に考えても、ワンステップずつ理解を確かめていかなければ、学びの成果の積み上げはうまくいくはずもありません。
❏ 生徒の理解度を通じて伝達スキルをチェック
生徒の理解を確かめることのもう一つの目的は、「伝わっていないことの所在を捉えること」です。{伝えたつもりでいたこと}と{実際に伝わったこと}のギャップを生んでいるのは、先生方の伝達スキルに潜む不備にほかならず、これを解消していかないことには、目指すべき「確かな学び」の根底が揺らぎます。
下図に見る通り、理解確認が低いスコアとなった授業では、【指示と説明】「先生の説明はよくわかり、指示にとまどうこともない」でも十分な評価が得られていません。両者の間に観察される相関係数は0.9です。
❏ ポイントを押さえながら、理解確認の方法を振り返り
確認を怠ることで、「前提理解を欠いて先の学びが成立しなくなる」のは言うまでもありませんが、先生方にとっても、「伝達技術向上の機会を失う」というリスクが生じることを忘れないようにしましょう。
理解の確認の効果的な改善には、以下のようなポイントがあります。これまでのやり方に改めるべき点がないか、ときどきは振り返ってみるのも必要かと思います。
1.小テストに頼り過ぎない:
小テストでは、たとえ理解していなくても正解が与えられるのを待って覚え込んでしまえば点数が取れますし、後日の小テストしか理解確認のすべを用意しないと、不明が発生したことをその場で検知して解消を図るタイミングも逸します。小テストの繰り返しだけでは「(自分の意志ではなく、外圧によって)覚えさせられた」という意識が、生徒の学びに対する姿勢を歪めてしまうリスクも無視できません。
2.課題に挑ませる前に確認を行う:
ひと通りの説明が終わって次のフェイズに進むとき(例題に取り掛かる、考えたことを答えにまとめるなど)には、そこまでの理解をきちんと確かめておくことを徹底しましょう。順番が逆になると生徒は不要な失敗体験を重ねるばかり。やがて科目への自己効力感を失い、苦手意識から学びの積極性を失わせます。(cf. 課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認)
3.理解したことは言語化を通じて確認する:
箇条書きや図表で分解的に理解させたことは、文章の形に再構成させることで、あいまいさや不明点が潜んでいたことに気づけます。わかった気にさせないためにも、言語化によるアウトプットの時間をしっかり確保しましょう。(cf. 対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く)
4.リフレクション・ログを用いた生徒の状況把握:
大人数が一度に活動する場面では観察の目が行き届きにくくなり、理解度の把握も精度が下がりがちです。生徒が残したリフレクション・ログに予めしっかりと目を通し、個々の生徒が抱える課題の所在や、どんなときに躓きがちになるのかを捉えてから教室に臨むようにすると、観察に焦点を持ちやすくなり、より精度の高い状況把握ができるようになります。(cf. リフレクションシートの記載を参考に観察精度を高める)
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一