振り返りを通じた成果のたな卸しと次への目標設定

興味や意欲は、努力して達成した中に生まれるものですから、振り返りを通じて自分の進歩を確認する場を整えることが、積極的な学びの姿勢を作ります。また、できたこととできていないことの切り分けがはっきりしないことには、次に何をするべきかを特定することもできません。振り返りとその支援のための助言が大切であるのは、このためです。
下表の通り、振り返りの成否は学習効果(授業を受けての技能の向上や自分の進歩の実感)を大きく左右し、その寄与度は生徒自身が持つ得意/苦手の意識以上の大きさです。また、様々なデータからは苦手意識の発生を抑制したり、学びへの目的意識を高める効果も示されています。

標準的な質問設計における分析。有意性が確認できた項目のみ表示。

2015/06/01 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 前提となるのは、目指すべき到達状態の共有

自らの学びを振り返るには、自分の取り組みやパフォーマンスを照合してみる「モノサシ」が必要です。学びの場面ごとに設定されている「目指すべき到達状態(観点ごとの評価規準)」がそれに当たります。
具体的な物差しがない状態で、振り返りをさせてみたところで、「一生懸命に頑張りました!」とか「うまくいかなかった」といった、曖昧で感想レベルを超えないリフレクション・ログしか残らないと思います。
生徒に振り返りをさせたいなら、まずは本時の学習活動において何を目指すのかを明確にさせることが肝要です。
また、実技実習系の科目では、生徒間でのパフォーマンスの差が大きいため、クラスに一律の目標を示したところで現実的ではありません。
得意な生徒には挑む価値のある「チャレンジング」な目標になり得ませんし、苦手な生徒には手を伸ばしても届かない「酸っぱい葡萄」です。
作業や練習の目的の明示、到達目標の設定で書いた通り、その日の授業での目標は前回の授業でのパフォーマンスに照らして、生徒一人ひとりに設定させるのが好適です。
また、目標は授業時間を通じてずっと認識していなければ、練習や作業にも目的意識を持ち込めませんから、導入のフェイズでしっかりと認識させておくことが肝要であるのは言うまでもありません。
その日の授業を振り返る時に、次の授業での「自分(たち)の目標」をきちんと設定させるというサイクルの確立も目指したいところです。

❏ 観点毎に段階的な評価規準を設けるルーブリック

観点をしっかりと定め、生徒と教員の双方が同じ目線で到達を検証できるようにチェックリスト(=評価規準)を整えておくことが、振り返りを容易で確実なものにします。
目標通りにできたのであればA評価、少し足りないならB評価、まだまだ遠ければC評価。目標を超えるパフォーマンスが見られたらS評価です。(S評価を与えた場合、その理由も言語化して示しましょう。)
それぞれの段階に到達状況をセンテンスで書き出し、表組にまとめて行けばルーブリックになります。詳しくは以下の記事もご参照ください。

それぞれを生徒視点で書き出しておけば、生徒は自分の位置を確認すると同時に、1つ上の評価を得るために何が必要なのかもわかります。
練習などの結果としてのパフォーマンスだけでなく、作業や練習への取り組み方や技能向上のための戦略作り、協働の場面でのふるまい方などについても、ルーブリックに照らした振り返りをきちんとさせることで生徒自身による課題形成や達成検証にも上手に使いたいものです。
新課程では「粘り強く取り組む姿勢」「自らの学びを調整しようとする姿勢」という2つの要素が構成する「主体的に学習に取り組む態度」も評価し、育む必要がありますが、そのための場こそが「振り返り」であり、それを的確に行うための基準が「観点別の評価規準」です。

cf. 第三要素「学びに向かう力・人間性」もきちんと評価

❏ 昨日の自分と比べ、差分=進歩に気づかせる

得意な生徒は、目的意識をもって練習や作業に臨むため、自分の進歩も感じ取りやすいものです。
これに対して、苦手な生徒は「周囲と比較した遅れ」という状態に変化はなく、自らの進歩に気づけないまま、モチベーションを低くしていることが少なくありません。
誰にでも「勝てる可能性が必ずある相手」が一人だけいます。言うまでもなく、それは「昨日の自分」です。自分の昨日を一歩ずつ超えていくことの繰り返しで、中長期的には大きな成長が期待できます。
昨日までは出来なかったことの一部が今日の自分にはできていることを認識させれば、科目への自己効力感も確実に高まっていくはずです。


漫然と取り組んでいるだけ、あるいは恥をかかないことだけを意識して終業のチャイムを待っているのでは、そうした小さな進歩すら期待できません。昨日の自分を超えるための方法を考えさせましょう。
自力で思いつかない場合には、グループでの話し合いや指導者からのアドバイスが、大きな助けになるはずです。

❏ 他者評価と自己評価の一致、見落としの補完

生徒自身が、あるいは相互に本時の学習の成果(自分の進歩)を確認でき、次への課題を見つけられたときに、「それで良し、その通りだ」という外部からの承認があると、自信はさらに深まります。
他者評価と自己評価が一致しているとき、人はもっとも安定した状態になりますよね。ここでいう他者評価は、同級生からの称賛の声もあるでしょうが、最も大きなものは当然ながら先生からの評価と承認です。
また、生徒が自力で進歩や課題を見つけられないとき、先生からの評価や助言が唯一の拠り所となります。自分での振り返りの様子を伺い、タイムリーに声を掛けていくことが大切です。
的確な助言のためには、生徒一人ひとりの様子をしっかりと認識しておかなければなりませんが、同時に活動する40人の様子を漏れなく観察・記録するのはちょっと難儀です。
生徒自身が振り返りシートに書き込んだものに、所見を書き込んでおけば、それが記録として残りますし、生徒との意識共有も図れるのではないでしょうか。生徒に振り返りをさせるのは、先生ご自身が生徒をより良く理解するためでもあります。

◆ 改善のための必須タスク:

練習や作業に先立ち、前回までの自分に照らして自分なりの目標を立てさせておきましょう。振り返りでは、反省点ばかりではなく良かった部分にも目を向けさせることで、主体的な取り組みや練習への工夫が生まれます。生徒が自力で課題形成・達成検証できないようなら、気づきを促すべく積極的に言葉を掛けていきましょう。

◆ さらなる改善を目指して:

振り返りや先生からの助言は、生徒自身が目標に近づく方法を考え、自分の進歩を肯定的に捉えるために行うもの。この発想に照らして十分な効果を得ているかこれまでの方法を見直してみましょう。先生からの助言が先行し過ぎると、生徒側で指示に従うだけの意識が強くなります。生徒に考えさせる場面とのバランスが重要です。

実技実習系の授業評価アンケートへ
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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