家庭学習の習慣化を妨げるもの~原因から考える対処 #2

家庭学習の習慣作りに向けて指導では、「なぜ家庭学習が根付かないのか」を考え、阻害要因を一つひとつ取り除いていく必要があります。前稿では、以下の5つを想定した上で、最初の2つについて考えてみました。引き続き、3番目以降の原因について考えていきたいと思います。
1.やろうと思ってもできない(生徒側のレディネスが整っていない)

2.やるべきことが明確になっていない(指示が曖昧、具体性を欠く)

  ───以上、前稿で考察───

3.机に向かう時間が取れない(タスクの優先順位が付けられない)

4.やらなくても特に困らない(ペナルティを甘受すればそれで済む)

5.取り組みに喜びが見いだせない(達成や自分の進歩の実感なし)

❏ 優先順位の判断とタスクマネジメントのスキル

問題の3番目は、予習や復習(宿題)の絶対量が限界を超えているのでなければ、「時間の使い方」に問題があるはず。それを責めても問題は解決しませんので、適切な指導が必要です。
生徒が「机に向かう時間が取れない」と訴えるようなら、本当に時間が取れないのか、それとも活動の切り替えにもたつくなど、時間をうまく使えていない(=無駄に過ごしている時間がある)だけなのかを確かめましょう。とりあえず一週間の生活を記録させてみるのが好適です。
勉強に限らず、レコード(記録)を残して自分に向き合うことは、習慣の改善に有効とされています。「時間がないから」の大半は、「時間の使い方が下手(工夫をしていない)」というだけかもしれません。

・次の行動への切替に時間が掛かり過ぎる

本当に時間がないというのであれば、必要度に比して過大な時間を投じている活動を抑制するしかありませんが、細切れの時間を利用できていなかったり、部活なりバイトなりが終わった後、すぐに次の活動に移らずに、無駄な時間を過ごしていることも少なくないはずです。
部活動の終了後など、周囲の友達の動きにも合わせなければと、一人で次の行動に移れないというのであれば、生徒の間で「相手にもやることがある」という想像が働いてないかもしれません。「互いの事情や努力を尊重する」ことの大切さに、気づかせる働きかけが必要です。

・優先順位を意識した活動の選択・配列ができていない

やらなければならないことがあるのに、それを後回しにするのは、やるべきこと/やりたいことに明確な優先順位がついていないということ。
一日の生活を送る中の「区切り」の時間(例えば、帰りのホームルームが始まるのを待つ間や、帰宅した直後など)に、次の区切りまでの間にやるべきことがらをピックアップし、優先順位をつけて、持ち時間の中に各タスクを配列するようにさせましょう。
今日中にやらなければならないことを書き出し、それらを帰宅から就寝までの時間の枠内でどんな順序で進めていくかをスケジューリングすれば、「時間を有効に使う」ことへの意識も高まります。

こうした意識を中高生のうちに持ち、習慣化すれば、進学や就職の後も「時間に追われる」ことを減らしていけるのではないでしょうか。

❏ 学びの成果を持ち寄り、チームへの貢献を果たす

4番目の「(課題を)やらなくても特に困らない」というのは、生徒が家庭学習に積極的にならない原因の、最も大きなところだと思います。
先生方は先行きの必要(進路希望の実現や、広く偏なく張られた認知の網、社会生活や職業生活で求められる資質や能力など)を鑑みて、生徒に学ばせることを選んでいるはずですが、如何せん生徒は学びの途上にあるだけに、「やらないと困る」ことが実感として捉えられません。
将来と結びついた必要性は、先生がいくら口を酸っぱく繰り返しても、生徒には想像の域を超えず、実感を伴わせるのは困難です。

・ペナルティを課しても効果は限定的

そこで多くの現場で取られている「窮余の策」の一つが、真面目に取り組まなかったことへのペナルティ(再テストや課題の再提出)ですが、これとてあまり上手く行っていないのが現状ではないでしょうか。
例えば、小テストで不合格になると再テストや補習などのペナルティが課せられても、一時(いっとき)の我慢でことは済むし、全範囲を真面目に勉強してテストに備えるより、本番で間違えた問題に絞って丸暗記した方が楽(コスパに勝る?)と考えるかもしれません。
学ぶことへの自分の理由を持っていない状態では、外圧による動機付けは効果も薄く、持続性も期待ができないということです。

・頑張らせるために目標を決めさせるのは矛盾を抱える

本来であれば、目的を見つけてその実現に向けて頑張る姿勢を作らせたいところですが、別稿「カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ」でも申し上げた通り、進路の目標を作らせて頑張りを引き出すという戦略には様々な弊害や論理的な矛盾があります。

うっかりすると「とりあえずの選択」を助長するだけかもしれません。確かに目標が決まれば、それだけ頑張れます。でも、頑張るために目標を作るというのは無理があるのではないでしょうか。如上のロジックには「目標が決まらない限り、頑張りは引き出せない」という落とし穴が待っています。

・役割を持たせ、チームへの貢献を求める

日々の学びの中で学ぶことへの自分の理由(自分の中に芽生えた疑問、答えを導きたい問い)を見つけさせることが、唯一の本質的な解決策になりますが、他にも補助的な仕掛けが可能です。
その一つが、授業準備(予習)の課題に「チームへの貢献」という要素を持たせることです。(加えて、チームメンバーにそれぞれ異なる役割を与えると「情報ギャップ」により、逃れがたい役割が付きます。)
生徒が個々に、下調べしたこと/練習したことを持ち寄り、グループで成果にまとめるような場面が授業の中にあれば、真面目にやらないと周りを巻き込んでしまうだけに、そうそうサボれるものではありません。
こうした課題を、事前指導なしにいきなり与えては、「やり方がわからず、周りを巻き込んで撃沈」という事態も想定されます。周りに迷惑をかけたとの後ろめたさで、自信を消失させても得るものはありません。
実際に「教室での学習活動への準備」を家庭学習のタスクとして付与する前に、十分な期間を取って、教室(先生方の目が届き、生徒観で助け合える環境下)で、自分のパートを遂行する練習を積ませましょう。
タスクをこなす方法と姿勢の獲得を観察を通じて把握し、不足を補う支援を重ねた上で、徐々に予習で取り組ませるようにしていきましょう。

教室の中での事前練習で、教え合いや助け合いを促せば、周囲に助けを求める方法も身につきます。いざ一人で頑張る場面を迎えても、わからないところを周囲に相談できますし、先生に助言を求めることにも躊躇せずにできるようになるはずです。
その3に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一