中高一貫校の強みは、6ヵ年を通した指導計画のもとで中断なく指導の成果を積み上げられることにありますが、中高/前後期の接続に課題を抱え、本来の強みを生かし切れていないケースもあります。中学/前期課程では高い学力向上感や積極的な学ぶ姿勢が観測されていたのに、高校/後期課程に進んだとたんに伸びを欠くこともしばしばです。
下図は、中等教育学校を含むいくつかの完全中高一貫校で実施いただいた授業評価アンケートのデータをマージして作成したものです。
2017/10/18 公開の記事を再アップデートしました。
指導期間が長くなることでの「中だるみ」に加えて、高校受験というハードルを前に、それまでの学びを仕上げたり自分の未来に向き合ったりする機会がないことも中高一貫校での指導の難しさだと思いますが、
- 中学/前期の指導において、自学年での学習内容の理解と定着を図ることに比べて、「高校/後期が求める学習方策や学びの姿勢の獲得」という目的が十分に認識されていないこと
- 高校/後期での指導において、中学/前期で経験させてきたことや獲得させた学びの方策や姿勢を十分に踏まえた「その先の学びの設計」ができていないこと
といった状況も、中高/前後期の円滑な接続を妨げる一因になっていることが少なくないように感じます。
❏ 中間期の学びにおいて目的とするべきこと
授業評価アンケートのデータでは、公立、私立を問わず、中高一貫校では中3~高1で「自分なりの課題意識をもって日々の学習に取り組んでいるか」という問いへの肯定的な回答が減少する傾向が見られます。
学習への目的意識や意欲が中間期で低下する、俗に言う「中だるみ」の発生を示すデータですが、たるみの大きさには学校間でかなり大きな差が見られます。
- ポートフォリオを早期から導入して、定期的に自らの学びを振り返る指導機会を設けている学校(cf. 体験のたびに感じたことをしっかり考え、言語化&記録)
- HRでの指導や、進路・教科通信などを通じて、3か月後、半年後の選択機会やハードルを常に意識させている学校(cf. 先に控える選択の機会をいつ認識させるか)
では、中間期での大きな低下なしに、高1以降の学年で急上昇カーブを描いていく様子も見て取れます。
中間期での適度なゆとりは、後半の再スパートのエネルギーにもなりますが、コントロールされない「ゆるみ」は中間期の積み上げを不十分なものとし、いざスパートというときに足元が定まらなくなります。
❏ 今学んでいることの理解と定着だけに目を向けない
中学/前期課程で学ぶ各単元の内容をきっちり理解させて、着実に積み上げていくことはもちろん大切です。
しかしながら、丁寧に教えて理解させ、生徒にはそれを覚える努力だけを求めていては、不明が生じたときにそれを解消する方法も、初見の問題を前に解法を自ら考えるすべも身につきません。
高校/後期課程に進ませてから、どんな学ばせ方をしたいのか、どのような指導計画を整えているのかを踏まえ、そこで必要な方策や姿勢を中学/前期課程でしっかり身につけさせておく必要があります。
何を身につけさせておくべきかは、
- 上級学年に進んでからの指導に困難をもたらしていること(=獲得が不十分なため計画通りの授業進行を妨げていること)
- 高校で良く伸びた生徒と伸び悩んだ生徒が、それまでの学習履歴の中で身につけていた学びの様式や姿勢の違い
などを思い浮かべる中で、特定が図れるはずです。
これらへの認識を教科全体で共有しておくには、高校/後期課程の授業を担当している先生方が、日々の授業の中で感じたことを伝えていく必要があるのは言うまでもありません。
新任などで中学入学から高校卒業までの指導を一巡して行った経験がまだない先生にとっては、そうした発信はとても参考になるはず。
経験を十分に積んだ先生方にとっても、新課程への移行で「新しい学力観にそった学ばせ方」は未経験。先行して指導を行っている先生方の気づきには、大いに参考になるところがあるはずです。
❏ 次のステージで必要な学習方策を獲得させているか
新しい単元を学んでいるときに不明が生じた場合、自らその解消を図れる状態にしておくには、「教えて理解させる」というやり方では不足があるのは明らかです。
参照型副教材の該当ページをサッと開き、自分で読んでそこに書かれていることを理解できるようにさせておく必要があり、そのためには教室の内外でそうした場面をどんどん経験させておく必要があります。
どの生徒にもきちんとわかるようにと、丁寧に説明して理解させるだけでは、先生の説明を聞いただけではわからないことに出会ったときに取るべき方策を生徒は学んでいないことになります。
また、一人では解決できない問題に出くわしたときに、周囲の助けを求めたり、互いに協力し合って解決する姿勢やその場で必要なスキルを身につけさせておくことも重要です。
協働で課題を解決する方法を学ばせ、その楽しさを学習させておけば、高校/後期に進んでからの学びにも、さらに進んで大学での研究室での活動にも、その成果は活きるのではないでしょうか。
高校の指導で、こうした「中学までに生徒ができるようになったこと」を踏まえれば、卒業までの学びの総量はさらに大きくなるはずです。
❏ メタ認知・適応的学習力を高める指導も継続的に
何かにチャレンジして上手くいかなかったときに、なぜできなかったのか、どうすれば良かったのかを、振り返りの中で自ら発見できるようにさせることも、中高の指導を通して目指したいところです。
失敗を積極的に経験させる中で、生徒は多くのものを学んでいきます。
たとえ躓いても自力で立ち上がれると思えれば、不要な苦手意識を抱くこともありません。学びへの自己効力感を高く維持することは、学びを続ける上での大前提です。
たまたまうまくいったときにも、「結果オーライ」とせず、何が成功の要因だったか、客観的に捉え直すことを生徒に求めて行きましょう。
こうしろ、ああしろと具体的な指示を与えるだけでは、如上の力は養えません。生徒自身が振り返った結果に対して、見落としに気づかせる問い掛けの方がよほど大きな効果を得るのではないでしょうか。
中学/前期では(高校/後期に比べて)、リフレクションシートを用意して、日々の振り返りを求めている教室をよく見かけます。
しかしながら、シートへの記入が自己目的化していたり、適切かつ十分なフィードバックがなされず、「学びのメタ認知」を高める効果が本当にあがっているのか疑問を感じることもあります。
今、教室でやらせていることが、生徒が次のステージに進んだ時に必要なものの獲得に資するものになっているかどうか、常に意識し、円滑な学びの接続を実現していきましょう。
❏ まだ見ぬライバル(将来の協働者)の姿を想像させる
中高一貫校に通う生徒は、模試の結果などで自分の未来に相対的な位置を知ることはできても、将来ライバル/協働者になるかもしれない同学年の生徒がどんな勉強に取り組み、どんな努力をしているかをリアルに想像する機会はそれほど多くありません。
中学/前期課程の修了が近づいたタイミング(3年生の夏~秋)に、高校受験用の模試問題や高校入試の過去問を教室に持ち込んで、授業内外の課題に用いることで、間接的に「ライバルたちの今」を知らしめるのは無駄なことではないような気がします。
高校入試向けの模試問題には、非常に意欲的な問題も多く見られます。そうした良問に挑むことは、中高一貫校で学ぶ生徒にとっても、これまでに教室で学んできたことが、実際の出題例の中でどう問われるのかを改めて知る、貴重な学習機会になり得ます。