授業の終わりは「今日の授業の内容をまとめて」というのが定番のスタイルかもしれませんが、ちょっと発想を変えて、問いに答えを出さずに次の授業につなぐというやり方はいかがでしょうか。
授業を「復習→導入→展開→演習→まとめ」という固定的な構成で考える必要はありません。
結論を与えてしまうことで学びや思考を締め括らず、問いをオープンにしたままま授業を終えることが、生徒に考え続けさせることにつながることだってあります。
2015/09/01 に公開した記事を再アップデートしました。
❏ 答えを出したら、生徒はそこで思考を止めてしまう
問いに答えを出してしまうと、生徒は「答えはこれか。あとは考査までに覚えておけばOK」という意識になってしまいがち。それ以上考えたり、掘り下げたりすることをやめてしまいます。
納得のいく答えを自分で仕上げていなくても、答えや結論を示された以上、さらに問いに向き合い続ける動機はもはや持ち得ないと思います。
問いへの正解を示して、本時の学びを確定しようという意図が、かえって生徒の思考をストップさせてしまうということです。
大切なことは、学習(=生徒がどれだけ思考を重ねたか)の総量ですから、それを大きくするにはどうしたらよいかを授業設計の根本的な着想とすべきだと思います。
授業内で正解を示さないことに不満を示す生徒もいるかと思いますが、自ら答えを作る努力を重ねる中でこそ、思考力や学ぶ力が身につくことをしっかり生徒に伝えましょう。cf. “正解を言って欲しい”と言う生徒
その日の授業で「考えるのに必要な材料」をしっかり与えたら、問いを示して「次の授業では、これについて考えてみよう」と締めくくるのも有効な手立てとなり得ます。
❏ せっかく充填した「学びの燃料」をきちんと使わせる
授業の終わりは、先生からの説明や生徒が自ら調べ、考え、話し合ったことを通じて得た、知識や理解、問題意識といった「学びに向かうための燃料」が生徒の内に充填されているタイミングです。
教科書や資料に書かれたことを表面的には理解し、関連する情報や背景の事情も掴んだ。考えたり、討論したりする中で、疑問も明らかになってきた――まさに、考え続けるのに十分な材料とモチベーションを生徒が持っているこの機を逃してはいけません。
ひと通りのことを生徒が学び終えたタイミングで、生徒が自ら調べ、考えて答えを導き出すべき問い(=次回までにじっくり取り組むべきタスク)がきちんと用意されていることが、学びを継続させる条件です。
授業の冒頭/導入フェイズで示した、本時のターゲットとなる問いに立ち戻らせるのでも、新たな問いを与えるのでもかまいません。
ちなみに、新たな問いを与えるなら、プリントより板書での提示がお奨め。ノートに写す中で細部にも注意が向きます。また、少し時間を与えその場で解き方を考えさせ、糸口を見つけさせておくのも好適です。
❏ 仮のアウトプットで準備を整え、家庭学習で仕上げ
50分の授業を、教えと学びの45分+アウトプットの5分間に分割するというやりかたを別稿でご紹介しました。
5分間という限られた時間では答えを仕上げ切れない場合も多いと思いますが、持ち帰らせてじっくり仕上げに取り組ませれば良い話です。
新しい学力観の下では、生徒が個々に取り組める部分と、教室での対話の中でしかできない部分をしっかりと切り分けた授業デザインが必要になり、自ずと、家庭学習に期待される部分も大きくなります。
家庭学習を充実したものとして定着させるには、達成可能性が担保された(=授業内でレディネスを整えた)具体的な課題の付与が不可欠なのは、以下の各稿でも申し上げた通りです。
次の時間では、提出/提示を求めて、仕上げの具合を確認することからスタートすれば、「授業間のつながり」も明確なものになります。
答え作りを通して確かなものになった前時の学習内容の理解は、先の学びの土台になりますし、きちんと答えを仕上げたという「達成感」は、次の学びに向かうモチベーションの原資にもなります。
❏ どんな答えを導いてきたかを把握してから授業を開始
生徒がどんな答えを仕上げてきたかは、授業の前に、あるいは「始業のルーチン」を終えるまでに、きちんと確かめておきたいもの。
正解できた割合や誤答の出現パターンを把握しておかないと、生徒に必要な学びと先生が教えようとすることの間にミスマッチが起きます。
事前に提出させたものに目を通せれば一番ですが、十分な時間がとれないことの方が多いのではないでしょうか。
授業冒頭の小テストや音読練習といったルーチンに生徒が取り組んでいる間に、机間指導を行ってチェックしてしまうのも一手です。
ICTの活用で「生徒がタブレットで宿題を行い、そのまま投稿」という形になっているなら、教室に向かう前にもチェックができます。
なお、その後の学びに繋がるような流れで授業を作った以上、生徒には課題の一つひとつにきちんと取り組んでもらう必要があります。宿題をやってこなかった生徒への対応は、より重要なものになりそうです。
❏ 生徒の答案をシェアして、学びをさらに膨らませる
出来具合を把握する中で、優れた着想がみて取れたり、よくある誤解などが含まれる答案を選び出して、教室でシェアしてみましょう。
それらに対する先生からのコメント/フィードバックは、有為な気づきをクラス全体に持たせるでしょうし、「どこをどう直すとより良い答案になるか」を生徒に考えさせ、話し合わせてみるのも好適です。
答案をピックアップするのに、ランダムなやり方(日付に一致する出席番号の生徒や、席順に従って生徒を選ぶなど)では、「生徒を指名して発言させるとき」に書いたリスクを膨らませるばかりです。
選び出すべきは「70点」の答案でしょう。満点ではないが、少し手を入れれば、より良いもの/合格答案になり得るものが好適です。
採点基準に照らすと満点となるような答案は(本人には「よくできている、しっかり仕上げたね」と評価の言葉をかけてあげるべきですが)、クラスで共有したところで全体の学びには展開しにくいもの。
他の生徒が「それが模範解答か。それを覚えれば良いのか」と錯覚してしまうかもしれませんし、満点答案を作れた生徒がいるのに自分はできなかったという対比を突きつけられるだけでは面白くもありません。
これとは逆に、添削が及ばない(箸にも棒にもかからない)答えを選んでしまっては、次への展開は難しくなります。そんな答案をさらされた本人も、恥ずかしい思いをするだけ。得るものはなさそうです。
クラス全体の学びに繋げ得る答案をきちんと選んで共有し、問いかけながら、それをより良い答えに近づけていく工程をクラス全員に経験させていけば、学びはより深まり、表現力を高める機会にもなるはずです。
まとめページ「終了時の工夫で成果を高める」に戻る。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一