学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められる

別稿でも書いた通り、新しい学力観に沿って、学ばせ方や授業デザインの転換が図られる中、予習や復習、宿題などの授業外課題の位置づけやそれらへの取り組ませ方も自ずと変わってくるはずです。
教室の中でしかできないこと(対話や協働を始めとする様々な活動)と生徒が個々に取り組む学習活動でできることの間に明確な線を引くことは「新課程が求める学び」に近づくための大前提ではないでしょうか。

教室での対話を通じて学びを深めるには、個々の生徒が準備を十分に行う必要がありますが、その少なくとも一部は、調べる、考える、まとめるといった「ひとりでできること/個人のタスク」でしょう。
また、教室での学びを仕上げるには、生徒が一人ひとり、対話で得た気づきを携えて、所与の問いに戻り、じっくりと思考を重ねたり、残っている不明を解消したりする必要もあるはずです。

❏ 教室での学習活動に向けた準備としての予習

昔ながらの捉え方では、「予習=授業をより良く理解できるようにするために、学習範囲を予め概観しておくこと」といったところかと。
生徒に出されていた指示も「わからないところ(単語や語句)があったら辞書で調べておきなさい」などが主流だったと思います。
しかしながら、新課程への移行に伴い、学力観が更新され、求められる学ばせ方も変わってきており、もはや、教科書に記載されていることを理解する(=知識として獲得する)ことだけが目的ではありません。
授業は、学習内容(コンテンツ)を学ぶことを手段として様々な能力や資質(コンピテンシー)を獲得させる場に変わりました。
各単元の学習内容を並べるだけでなく、獲得を図る能力や資質に応じた学習活動を考案して、授業時間内に適切に配列することが「授業デザイン」です。(cf. カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する
授業が変われば、自ずと準備も変わります。「理解のための下地作り」だけではなく、「学習活動に支障なく取り組めるレディネスを整えること」に重きを置いたものに切り替えは進んでいるでしょうか。
教室での対話や協働を計画しているのであれば、それに向けた準備を予習のタスクとして、具体的に示す必要があるということです。

❏ 準備の履行率を高めるには、問いの形での課題付与

教室での学習活動に備えさせるには、「○○について調べる」「該当範囲(教科書や資料)を読んでおく」といった指示の出し方では、タスクに具体性が欠け、準備の履行率はあまり高くならないと思います。
履行率が高まらないということは、生徒ごとに「準備の度合い」に差が生じるということ。準備不足のまま対話に参加させても、他の生徒の成果にただ乗り(フリーライド)するだけになってしまいます。
打つべき手は、調べた結果、読んで理解したことをもとに答えを考えるべき問いを与えておくことです。問いが提示されたことで、調べる/考えるにも焦点が定まり、当を得た取り組みになるはずです。
なお、問いは答えが一つに定まるタイプである必要はなく、「資料を読んだ上で、○○という主張への賛否を明らかにし、その理由を具体的に述べよ」といった類のものでも良いかと。むしろ、正解が一義的に決まるものでは、対話はただの答え合わせに終始してしまいがちです。

当然ながら、準備として個々に/自宅で作った「仮の答え」は不完全なもの(ときに的外れなもの)だと思いますが、教室は、それらをより良いものにするための「知識や気づきの交換の場」のはずです。
生徒がそれぞれ懸命に作った答えを持ち寄ることで、互いの発想が補完され、教室での対話的な学びはより深いものになるはずです。

❏ 履行を妨げる要因を切り分けて、ひとつ一つ解消する

しかしながら、具体的な問いを与えても、すべての生徒がそれに対応できる/効果的に取り組めるというわけではありません。
教科書を読む、参照型副教材を使いこなすといった基礎的な部分が整っていなければ、「読んで理解する/情報を集めて知に編む」ということ自体が、乗り越えられないハードルになります。
日々の授業の中で、きちんと教科書を読ませる、参照型副教材のページを開いて調べさせるといった活動を、予め十分に重ねておきましょう。
その上で、個々の課題(準備としての個人ワーク)について、以下の要件をクラスの生徒のどれだけが満たせているか、きちんと見極め、不足があればそれぞれに応じた「手当」を施す必要があるはずです。

  • 教室を離れる前に、課題に取り組む準備が整っているか
  • 課題に取り組む必要と意味を生徒/学生が実感できるか

前者については別稿「次回の予習ができる状態を作って授業を終える」に譲りますが、後者を満たすのも決して容易ではありません。
学びに向かう姿勢は、所持している知識の量(=既習内容への定着度など)以上に生徒間の個人差が大きく、おなじネタにも反応が違います。
特効薬は簡単には見つかりませんが、先ずは、生徒が自分事として捉えられる問いを与え続ける中で、「各々が作った答えを持ち寄ることでより深い学びが実現すること」を教室での体験で学ばせていきましょう。

❏ 終業前のアウトプットで仕上げに向けた動機付け

しっかりと準備して臨んだ授業で、対話を通じた交換をへて様々な気づきや発想を得ても、そこで学びを終えては、「わかった気になった」ところで止まってしまいます。
授業を終えて、再び問いに向き合い、納得のできる答えを書きあげてこそ、学びは深く確かなものになります。

この「仕上げ」に向けた動機付けには、授業を終えるときに、そこまで得た知識や気づきを形にさせてみるのが効果的です。
答えの書き出しというアウトプットを経ることで、残っている不明点も洗い出せますし、さらなる疑問がわいてくることもあります。
ここで出てきた不明や疑問を解消することこそ、個々の生徒にとっての学ぶことへの自分の理由になりえるもの。自力でそれらの解消に向かう中で、その方策(=学習方法)も身についてくるはずです。
この段階でも、授業準備(予習)で各自が作った「仮の答え」からは相当な「進歩」があるでしょうが、さらに調べたり、考えたりすれば、さらに良い答えに(=深い学びが形になったもの)近づけるはずです。
ひとつの問いに答えを一度だけ作って、できた/できなかったという結果だけを残すのではなく、予習、授業、復習[仕上げ]というフェイズのそれぞれで、より良い答えに練り上げることで、より深く、より確かな学びが実現していくのではないでしょうか。

❏ 授業デザインが正しく機能するかは、履行率次第

これまでも家庭学習時間の延伸/確保には様々な取り組みが見られましたが、予習を通した授業への備え/復習における課題の仕上げについて履行率を高く保つことの重要性は今後ますます大きくなります。
家庭学習の位置づけが「自分のための努力や勉強」というだけなら、生徒には常に「やらない」という選択肢がありますが、教室が「それぞれの成果を持ち寄り、互いの学びに貢献する場」となったら話は別です。
その日の気分(?)で、サボる/手を抜くという選択を取れば、周りも巻き込みますし、自分だけ何も貢献していないことには後ろめたさも感じるのではないでしょうか。
サボるという選択に対抗するのが、外圧の強化(再テストなどのペナルティ)という一択では、なんだか殺伐としたものも感じます。
授業準備に懸命に取り組んだ結果、チーム(ペアやグループ)のメンバーに貢献できたという「快体験」の積み重ねは、コミュニティの中で自分の役割を果たす責任と喜びを学ばせ、卒業後にも社会参画意識や責任感として生徒の内に残っていくのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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