結果学力の伸長や、学びに対する自己効力感の向上などに加えて、学びに取り組む姿勢や学習方策の獲得もまた「指導を通じて目指すところ」である以上、これらもきちんとした効果測定を行う必要があります。
各教科の学習指導のみならず、進路指導や探究活動を通じて形成を図る進路意識についても、定量的にその進捗を捉えなければ、計画通りの成果を得ているか判らず、やりっぱなしになってしまいます。
効果測定の結果を踏まえ、付加価値の大きな(=より大きく生徒を成長させた)指導を共有していくことが、教科全体あるいは学校としての教育力も高めるはずです。
2017/09/20 公開の記事をアップデートしました。
❏ まずは、獲得させるべきものをきちんとリストアップ
教科学習指導の中で生徒が身につけていくものには、各教科に固有の知識や技能だけではありません。その一つひとつについて、きちんと評価を行い、その結果をもって指導の効果を測定していきましょう。
それらが先生方の「視点」から漏れないようにするには、その一つひとつをきちんとリストアップ/明示しておく必要があろうかと思います。
学ぶことへの自分の理由、学習方策
冒頭で触れた「学びに取り組む姿勢」を育むには、学ぶことへの自分の理由(目的意識)を発見させなければなりませんし、「学習方策」も各単元の学習内容を丁寧に教えて理解させるだけでは獲得は進みません。
これらについては、アンケートなどを通して生徒自身の意識(認識)を質しつつ、教室内外での生徒の学習行動を観察する(観点を定めて段階的な規準に照らして評価する)ことで効果を測定することになります。
協働の場面でのふるまい方(協働性、多様性)
また、課題解決に向けた協働の場面でのふるまい方や、多様性(様々な考えや立場があることを想定/受容した思考や行動)の獲得も、定期的に状況を把握し、その変化量で指導の効果を探りましょう。
これらの資質を正しく評価するためには、先生方が指導計画や到達目標を考えるときに使っている言葉の一つひとつを明確に「定義」しておく必要があるはず。それがブレては評価の観点も規準も持ち得ません。
探究活動の中で、観察と評価を行うべき能力や資質
探究活動の場で発揮すべき様々な思考の力(情報を整理する、観察を通じて問題を発見する、複雑な問題をモデル化する、など)も、その土台は各教科の学習の中で培われるもの。
評価の場を各教科の学習指導(授業)に閉じては、観察の及ばないところも多いはずです。総合的な探究の場にも評価の機会と基準を設けて、生徒の成長を後押し、次のステップを見せていきましょう。
❏ ルーブリック活用の肝は、副作用と負担を抑えること
こうした能力や資質を生徒が獲得していく様子を定量的に捉えるには、ルーブリック(観点毎の段階的評価規準群)を用いることになるはず。
ルーブリックは、「できるようになったこと」をたな卸しし、「何が足りないか、どうすればもっと良くなるか」を生徒自身が認識し、学びに展望と方向性を与えるためのツールですが、評価の分布の変化をクラス/担当者間で比較することで、指導効果の測定にも使えます。
ただし、せっかくのルーブリックも、使い方を誤っては、あらぬ副作用を抱え込んだり、作業量ばかり増えてしまいかねません。新しいものだけに、使いながらその効果的な活用を考えていく必要があります。
❏ 進路意識の形成や選択の力の獲得についても
上級学校などに進んで学びたいことを見つけ、そこで学んだことを接点に社会にどう関わりたいかという進路意識の形成も、担当者ごとの指導のあり方でその進み方が大きく異なります。
詳しくは、別稿「進路希望を作るまでの活動を確かめる」(全3編)に譲りますが、進路選択に至るプロセスを生徒一人ひとりがしっかり踏んでいるかどうかが、指導が計画通りに効果を得たかどうかの指標です。
自らの進路をどこまで描けるようになってきたか、進路指導で育む“選択の力”がどこまで身についてきたかなどをアンケートや面談を通じて把握したら、その結果に基づく効果の測定と比較を行いましょう。
教科学習指導以上に、進路指導ではクラス担任間で大きな違いがあるのが普通です。優良実践の抽出と共有による、学年全体/学校全体での指導改善効果には、より大きなものが期待できます。
指導目標の達成に向けて各担当(個人/組織)がそれぞれ最善と考える方法で取り組んだら、一定期間を経て効果測定を行いましょう。
それぞれの指導が生み出した付加価値を定量的に比較して、より大きく目的に近づけた方法を選択、共有していかないと、個人レベルの試行錯誤が延々と続くことにもなりかねません。
互いの成果を共有せずに、一人ひとりが自前の試行錯誤を重ねる中には無駄や重複が生まれる隙が生まれ、その重複が業務の効率化を妨げている部分もありそうです。
無駄をいかに取り除いていくかは、昨今大きな課題になっている教員のライフ・ワークバランスの実現にも欠かせないはずです。
❏ 優先順位は、教育目的→指導目標→評価方法→指導方法
学校の教育目的のもとに教科や分掌の指導目標が設定されますが、目標に対し、評価方法も決めずに、方法に関する議論を先行させていては、得るものは小さくなるばかりです。
目的や目標を決めたら、次に考えるべきは、効果測定の方法(=達成検証手段、評価の方法)です。方法や手順を先に規定しては、マニュアルに従うことが自己目的化するリスクも抱えます。
繰り返しながら、各々の先生方が最善と見込んで実施した指導の効果を測定し、その中から付加価値の大きな指導、目標の達成により大きく近づけた方法を選択して共有するのが協働で行う教育改善の進め方です。
なお、各組織(教科や分掌)が設定する「指導目標」は、学校の教育目的(校是、建学の精神、教育方針、目指すべき生徒像などで表現されているもの)との整合性が十分か、定期的に点検したいところ。
上位に位置する教育目的と、各々の指導目標がチグハグでは、どこかに歪みや矛盾を抱えますし、建学に際して掲げたものも、時代の変化に合わせて「現代的な読み替え」をしていく必要があるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一