入試シーズンも後半戦に入り、新入生を迎えるのも間もなくです。4月の教室に集まるのは、第一志望を貫き、その実現に努力を重ねてきた生徒が多いと拝察いたしますが、中には第一志望だった別の学校で不合格だったために入学して来る生徒や、成績が伸びないなどの理由で出願前に志望を切り下げてしまっていた生徒もいるかと思います。
第一志望以外での入学でも、きちんと気持ちを切り替え、前向きになっているなら問題ありませんが、初志を貫徹できなかった現状に向き合えていない、所謂「不本意入学」の生徒をそのままにしておくのは、本人にも、共に学びのコミュニティを作る周囲にも好ましくありません。
そうした生徒は、入学から時間が経たないうちに見つけ出して、まずは観察(と必要ならば適切なケア)を怠らないようにしたいところです。
❏ 個々の生徒の状態を知り、観察の精度を高める
本意ではない進路に気持ちの切り替えが遅れ、新たに始まる高校生活に向き合えていない生徒をできるだけ早いうちに見つけ出しておくのは、言動や周囲との関係などを精度よく観察するための準備です。
入学直後の「思い」(本校を志望した理由、高校生活での目標など)を言語化させて、まだよく知らない生徒一人ひとりが、どんな状態にあるのかを垣間見ることができれば、その後の観察もしやすくなります。
きちんと観察した上で、必要があれば、ケアや指導を考えていきましょう。新たに始まる高校生活に、目標やポジティブな展望を持てずにいる生徒に対し、やみくもに「新しい目標を作りなさい」と迫っては、本人を追い込むばかりかも。問題を余計にややこしくするリスクが大です。
新たな展望を描けないことにもどかしさや焦りを感じて気持ちが追い込まれてしまっては、視野も狭まるばかりです。高校生活の中で待っている様々な体験の中に、自分の未来にどこかで繋がり得る「偶然との出会い」があっても、狭い視野では見逃してしまいかねません。
そうした生徒が、体験のたびに起こしたリフレクション・ログには、他の生徒以上にしっかりと目を通し、狙ったような気づきや成長があったかどうかを注意深く見守っていく必要があろうかと思います。
大事な学びの機会を迎えるときに意識的に声掛けをしたり、好ましい変化(欠けていたところにピースがはまったこと)が見て取れたときにそれを見逃さず、肯定的な言葉で評価を伝えていくことも大切でしょう。
こうしたケアや指導をするにも、初動を通じて精度を高めた観察は欠かせません。焦点を設けずに、全員に偏りなく十分な観察を行き渡らせるのでは、負担も大きく、効率的とも言えないような気がします。
但し、初期の調査(後述)などで推定したことに意識を取られ過ぎて、メガネに色を付けてしまっては、観察に歪みや偏りが生じがち。状況を把握した上で、ニュートラルな観察を心掛けましょう。
ちなみみ、最上級生となる生徒にも、志望理由を言葉にしてみることを求め、生徒一人ひとりの現状(進路への向き合い方)を把握しておきたいところ。個に応じた指導が行いやすくなるはずです。
❏ 新学期を迎えた思いを、言語化を通して整理させる
入学時の思いを言葉にさせるのは、先生方が生徒個々の状況をより良く把握し、言動を的確に観察する上でも重要ですが、生徒にとっても今の自分を整理し、客観視する(現状をより良く知る)のに役立ちます。
言葉にすることで整理をつけているうちに、自分でも気づかず埋もれさせていた思いを発見することもあれば、現状の自分に欠けている(考えていなかった、見つけていない)ことの所在にも気づきます。
挑戦したいこと、目指したいこと、これから見つけていきたいことを自分の言葉にしてみることは、目標を設定することにほかなりません。
以下のような項目を立て、現時点での思いを言葉にさせてみましょう。
- 本校を志望した理由(推薦入学などで既に提出していても、改めて 文字にさせてみましょう。入学後なので素直に書けます)
- これからの3年間で挑戦したいこと(どのような場/機会を利用し て、どのように頑張るかに加え、どうしてそう思ったのか)
- どんな自分になりたいか、卒業後にどんな道を歩みたいか(書けな いことに気づくことそのものが大事。進路への意識を持たせます)
言語化してみた「入学時点の自分の思い」は、これからの生活を進めていく中で、折に触れて行う「振り返り」の基準のひとつになります。
入学時の思い/決意は、ともすると日常に埋もれがち。考査を終える/学期末を迎えるといった節目で、そこまでの自分の行動と成果を振り返るときに、最初の思いの「記録」に立ち戻らせる必要もあるはずです。
折に触れて行う振り返りを通じて、自分の成長を実感すれば、様々な活動への自己効力感も高まるでしょうし、新たな目標も見つかるはず。的確な振り返りを重ねることが成長(行動や思考の変化)に繋がるのは、あらゆる場面に当てはまることです。(cf. 振り返りと行動変容)
❏ 入学から間を置かずに行うことの重要性
高校生活が始まってしばらくたてば、様々な体験や学びを経て、新たな目標を見つけ、再びしっかりと歩を進め始めてくれるでしょうが、入学から大型連休や中間考査まで、あるいは夏休みまでの数週間、数ヶ月は新しい生活のスタイルやその軸を作る大切な時期。
そこでの過ごし方は、これからの3年間、さらにはその先の人生にも小さからぬ影響を及ぼします。無理に矯めるようなことは避けるべきだと思いますが、上手に働きかけて、気持ちを新たにさせたいところです。
ちなみに、第一志望での入学でも、合格したことをゴールと勘違いしている生徒もいるかもしれません。そんな生徒にも、高校を通して目指すべき「なりたい自分、やりきるべきこと」を改めて自覚させましょう。
中には、成績が相応、通学が便利、周りに薦められたなどで学校を選んでいるだけで、生徒募集でしっかり伝えたはずの「特色ある教育活動」や「校是」(教育理念や目指す生徒像など)への認識に欠けた第一志望入学者だっていないとは限りません。
先生方が、知恵とエネルギーを集めて形にしようとしている様々な教育活動も、その成否/効果は、学びの主体たる生徒がそれらに対してどこまで理解と共感を抱いているかに大きく左右されます。
個々の指導機会を、生徒との間で「意図するところ」の共有ができていないことに気づかぬまま、本番を迎えることのないよう、まずは生徒の状況を把握しましょう。不足が疑われるようなら、事前のオリエンテーションなどでの意識付けにひと工夫が必要になるはずです。
目的意識をもった生徒が頑張り、互いを刺激し合う学びのコミュニティは、生徒一人ひとりの成長をより大きくします。頑張る目的やその対象を見つけられないでいる生徒をそのままにしては、クラスの雰囲気作りなどにも好ましからざる影響が懸念されます。
❏ すべての新入生に、3年間の学びを最大に享受させる
新入生の中には、曖昧な志望理由しか持たない者、本意と異なるところで進路を選択せざるを得なかった者もいるはずですが、合格通知を出した以上は、3年間の学びの成果を最大限に享受させたいものです。
選択した結果(入学した学校)は変えられませんが、ここから先の学びにどう向き合うかは、いかようにも変えられるはず。別稿でも書いた通り、選択した結果を正解にするのは「これからの行動」でしょう。
そのために取るべき最初の一手が、入学時点の思いを言葉にさせてみることで、個々の事情をより良く理解して、重点的な観察とケアが必要な生徒に当たりをつけることだと思います。
個々の生徒の事情もよくわからない状態で、価値を押し付けてしまっては、生徒との関係に不要なわだかまりを作ってしまうかも。
新学期が始まって暫くが経ち、中間考査後あたりになると、最初の面談もあるはずです。初手の中で言語化させた思いと、その後の観察結果、数ヶ月という短い期間ながらもその間に生徒が重ねた成長(考えや行動の変化)を踏まえて、面談以降に歩むべき道筋を生徒本人が描けるようにできるかが問われる、4月からの数ヶ月です。
■関連記事:
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一