進級後の学びを視野に、学びへの自己効力感を生徒がどのくらい持っているか、この時期に確認をしておく必要があろうかと思います。
どのフェイズでも、「学び」はそれまでに身につけてきたものを土台に積み重ねるもの。既習内容の理解と定着が不可欠なのは言うまでもありませんが、それと同等以上に重要なのが「学びへの自己効力感」です。
❏ 学力向上感などを尋ねるアンケートの結果を参考に
年末(11月~12月)に、生徒による授業評価アンケートを実施した学校が多いと思いますが、「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる」と答えている生徒はどれくらいを占めるでしょうか。
また、「この科目の学び方が身についてきたと思う」「目的意識を持って日々の授業に臨んでいる」という問いへの答えにも注目です。
・生徒による授業評価アンケートの評価項目と質問文
授業を受けて学力の向上を実感できないでいる生徒は、学びに対して消極的になりがち。目一杯頑張らなければ、ポテンシャルを余したまま、学びを諦めてしまうことも少なくないと思います。
新学期のスタートに、そうした消極的な気持ちを引きずって臨ませてしまっては、進級後の学びに好ましくない影響を及ぼすばかりです。
学び方がわからない、なんでこの科目を学ぶのか理由が見つからないという生徒も、放置するわけにはいかないはずです。
❏ 先ずは、学びの成果の「たな卸し」をしっかりと
科目の学びに対する自己効力感は、これまでの学習を体験する中で生徒の中で固定してきたものであり、向上を図るには、これからの学びの中での「成功体験」で上書きしていくしか方法はありません。
日々の授業の中で、課題の解決(問題を解く、調べたり考えたりしたことをまとめるなど)に取り組ませ、その成果をしっかりと「たな卸し」させることに注力しましょう。
年度末までに残された授業回数は限られています。授業一回たりとも、疎かにはできません。本時のターゲットとなる問い/課題を欠かさずに用意するところからのスタートになるはずです。
問いを軸に授業をデザインする(別稿参照)ことで、学ばせることを精選し、学習活動の配列を最適化すれば、学びの成果も大きくなります。
挑んだ課題を達成するチャンスをできるだけ多くの生徒に持たせるにはひとつの課題から複線的なハードルを作ることも必要なはずです。
学びに取り組んでできるようになったことを「たな卸し」するには、学び始めた段階で作ることができた「仮の答え」と、学び終えて作れるようになった「仕上げ直した答え」を見比べさせるのが好適です。
言うまでもありませんが、両者を見比べてそこに差分を見つけさせるには、学び終えた後にしっかりと答えを仕上げさせることが不可欠。
説明を聞く、調べる、話し合うといった活動を経験させた後の「学びの仕上げ」への取り組ませ方こそが、この局面では重要ということです。
❏ 振り返りを通じた、メタ認知・適応的学習力の獲得
学びへの自己効力感は「頑張ったらできた」という成功体験を通して得られるものに加えて、「取り組み方がわかってきた」という学習方策の獲得を実感する中で生まれてくるものがあります。
年度末を迎え、改めて学習法ガイダンスをやってみたところで、学習方策の獲得は進みません。課題に取り組んだ後の振り返りが勝負です。
如上の答えの仕上げに取り組ませていく中で、自分の成果(作れた答えなど)とそこに至る取り組み方を振り返り、より良い結果を得るために何をどう学んでいく必要があるのか、生徒自身に考えさせましょう。
今学期中に模試が予定されているなら、その振り返りもまた、学習行動の改善(=正しい学習方策の獲得)のチャンスになるはずです。
❏ 選択科目メインの最上級生についても注意が必要
進級に際しての「学びに対する自己効力感」は、最上級生となって進路希望の実現に向けて走り出す生徒にとっても大切です。
高校3年生は、生徒の目的意識の向上(進路希望との直結)や、選択科目(学び方を身に付けているもの)中心の履修となることで、日々の学びの成果も大きくなるのが普通ですが、必ずしもそうとは限りません。
高2を終えるときに、「授業を受けての学力向上感、学習方策の獲得、目的意識を持った授業参加」の3つすべてにYESで答えられないと、最終学年での伸びが小さくなる傾向が見られます。
夏を過ぎて、志望校対策や過去問演習で「学びの個別化」が進んでいくフェイズを迎え、こうした問題が露わになることも少なくありません。そのときに慌てても「手遅れ」感は否めません。
授業評価アンケートの結果や、考査や模試の振り返りで生徒が残したリフレクション・ログなどを材料に、学びへの自己効力感をどれだけ高めているか、点検すべきはまさに今です。
不足が見て取れても、新年度を迎えるまでに(今学期の授業+春休みの補習などで)十分な補完を図れれば、新年度の学びを円滑にスタートさせ、夏以降を含めた学びをより実りの大きなものにできるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一