教材としての大学入学共通テスト問題

週末に行われた大学入学共通テスト。様々な学びの場を想定した出題など、工夫の数々が見て取れます。新しい学力観の下での「学ばせ方」を改めて考える材料として、しっかり目を通したいと思います。
出題研究は「教科書で何をどう学ばせるか」を捉え直す機会。指導観/授業観のアップデートに欠かせません。各単元の内容を学ばせる過程にどんな学習活動を配列することで、どんな能力・資質を養っていくかをしっかりイメージしないと、指導計画作りもままならないはずです。

自教科だけでなく、他教科の問題にもざっと目を通しておくことは、他教科での学びを活かした授業、他教科や探究学習に繋がる授業の実現にも有用です。(cf. 他教科の授業で生徒が学んでいる「探究の方策」
問題に目を通しながら考えていきたいことのひとつは、「大学入学共通テストの問題を、いつ誰にどんな目的でやらせてみるか」です。

❏ 共通テストの問題を使ってみるべき場面

大学入学共通テストに限らず、出題研究を進めていく中で見つけた良問は、関連する単元を学ばせるときに教材として有効に活用したいもの。
実際の出題例に触れさせれば、今学んでいること/これから学ぶことがどう問われるのか(=当座の学びのゴール)を生徒はイメージします。
先生方の側でも、個々の問題を指導カレンダーのどこに配置するか考える中で、それまでに生徒に獲得させておくべきこと(知識・理解、基礎力、思考力など)を明確にした上で、指導計画作りができるはずです。
これ以外にも、共通テスト問題を活用する場面は色々とありそうです。すぐに思いつくのは、以下のようなところでしょうか。

  • ゼロ学期を迎えた高校2年生の、これまでの「学びに取り組む姿勢」を見直す機会として
  • 学校推薦型、総合型選抜で既に進路が決まった生徒の、進学後の学修に向けた準備として

❏ ゼロ学期から進める「学習ガイダンス」の起点として

間もなく最上級生となる高校2年生には、受験生としての良いスタートを切らせてあげたいものですが、先ずは、これまでの自分の学び方を振り返るところからではないでしょうか。
大学入学共通テストの問題は、新しい学力観が求める「学び方」はどうあるべきかを伝えるメッセージがあちらこちらに埋め込まれています。
問題に取り組んでみて、これまで続けてきた学び方(中には、定期考査しか念頭になかった生徒もいるかも)では通用しない部分があることに気づけば、これからの学び方も考えるはずです。
テスト形式で、一つ上の先輩たちが挑んだ問題を解いてみる機会を作るのは、これまでも少なからぬ学校で行われてきた取り組みでしょうが、ちょっとやり方を変えてみるのも一手かと思います。
例えば、「教科書や参考書、ノートを参照してもいいから、毎週1科目分ずつ、問題を解いてみよう」というのはどうでしょうか。
既に学んだ単元であれば、知識・理解は(頭の中に入っているかどうかは別として)十分に備わっているはず。それでも解けない/正解を選べないのは、他に不足するものがあるからです。
問題文を正しく読み、必要な情報を拾い上げられないとしたら、言語、数量、情報の各スキル(=基礎力)に不足を抱えている可能性が大。
調べて(=教科書などに当たって)みても解けないところに、これから1年の学びの中で埋めていくべきものが存在していることになります。
自力で共通テストの問題を解いてみるというタスクに取り組ませた後、「これから各科目をどう学んでいく必要があるか」を考えさせ、その結果を言語化させれば、学びに向かう姿勢にも変化が期待できます。
生徒が考え尽くす前に、先生方から「こうすれば良い、ああするべき」と助言を与えて、方向付けするだけでは、メタ認知・適応的学習力の獲得を遅らせてしまうリスクを抱えます。

❏ 大学での学修に必要な力を身に付けているかを自己点検

既に学校推薦型や総合型選抜で進学先が決まっている生徒には、大学入学後の学修に備えて、必要な力を身に付けているかを点検する機会として、共通テストの問題に取り組ませてみるのも好適です。
共通テストの問題は、大学に進んでからの学修に必要な力(各教科・科目に固有の知識・理解に加えて、言語や情報のスキル、協働で課題解決に挑む場面での対話の力など)を試している箇所も少なくありません。
4月に出会う、まだ見ぬ同級生がどんな力を身に付けているかを、共通テスト問題を解くことを通じて想定してみるのは有益だと思います。
想定に照らして、「今の自分に足りないもの」「まだ獲得していない能力・資質」にアタリをつけることができれば、それを補うことに残りの数ヶ月を有意義に使えるかもしれません。
所謂「受験科目」として対策を積んでこなかった場合、科目固有の知識にもビハインドがあるかもしれません。
総合型選抜を通過したということは、学びに向かう姿勢や目的意識は、一般選抜組と同等以上のものが期待できますが、やる気があっても土台が不確かでは、授業についていくのも難儀するはず。
今年の共通テストの問題を前に、教科書、参考書、ノートの助けを得ながら、完答を目指してみる中で既習内容のより深い理解、知識の拡充に挑むことは、進学後の学びをより実りの大きなものにすると思います。
共通テストに散在している「探究活動」のネタなどもヒントに、進学先で学ぼうとしていることを、書籍などで掘り下げて学んでみれば、大学での学びへの興味と関心も一段と高まるのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一