学びの初期値を計測~授業デザインと効果測定のために

授業の効果は、先生方による学ばせ方と、生徒が備えるもの(既得知識や問題意識、学習方策など)とのマッチングで決まります。
生徒がこれまでにどんなことを学び(+どう学ぶ中でどんな能力や資質を獲得しているか)、対象への理解や問題意識がどのようなものであるかを捉えないと、効果的な授業はデザインできません。
これらは、実際の授業を始めるときより、さらに遡って授業をデザインする/指導計画を起こす段階でも把握を試みるべきだと考えます。
学び始める段階で、生徒(学習者)の初期状態を把握しておくことは、学ばせ方を考えるときの起点です。その起点と、単元の学習を通して到達を目指すゴール(知識・理解、能力・資質、態度・姿勢の獲得など)を繋いだところに、学びの工程を設計する必要があるはずです。
また、指導がどれだけの効果を得たのかを探るにも、初期状態を測定しておく必要があります。学び終えたときのパフォーマンスが十分に高くても、初期状態のアドバンテージを維持しているだけに過ぎず「指導を経た伸び(差分=付加価値)」はない/小さいかもしれません。
効果測定は、生徒を不要な試行錯誤に巻き込まないためにも、取り組みに周囲の理解と共感を得るにも、欠くことのできないものです。

❏ 測定すべき初期状態も、狙いに応じて様々

学びの初期状態といっても、様々な要素が入り組みます。すべてを毎回測定するのでは、手間は膨大。測定の結果も活かしきれません。
学習の初期状態の測定を、自己目的化させないよう、場面の目的をしっかりと見据えて、必要最小限の手間(+生徒の負担)に抑えましょう。
把握すべき事柄を、思いつくままに並べるとこんなところでしょうか。

  • 既習内容に関する理解や習熟度(新しいことを学ぶには、前提知識という土台が必要であり、その見込み違いは授業を揺るがします)
  • 生徒が備えている学習方策(情報を集め知に編む力、協働スキル、メタ認知などの把握は、学習活動の選択・配列の土台です)
  • 事前に課した準備タスクへの履行状況(予習課題などへの取り組みが、想定と外れていたら、授業計画の綻びは必定でしょう)
  • これから学ぶことに対する認識/問題意識(学ぶ対象へのイメージや態度が、学習を経てどう変化したかも捉えるべきです)
  • 過去の学習体験とそこで得た学び(体験学習や読書、聞いた話などが生徒の中に残したものは、次の学びの足掛かりになります)

ここに挙げたのは、(ある程度の汎用性は備えますが)あくまでも例に過ぎず、授業の狙い、体験させる活動によっては外にも様々でしょう。
それぞれについて、効率的な把握の方法や、把握した結果をどう活かすか、効果測定をどう行うかについて考えてみたいと思います。

❏ 既習内容の理解は、事前に行う小テストなどで

既習単元の学習内容は、事前に小テストなどで、知識の有無、理解の度合いを試しておくのが好適です。前提を欠いている状態に、授業が始まってから気づいたのでは、手遅れになることもしばしば。
クラウド上で小テストを行うようにすれば、採点は自動化が可能。先生方の仕事が増えるのは「問題作り」の部分だけのはずです。
目指すところは、既習事項の網羅的な点検(+再記銘)ではないはず。あくまでも、本時の学びを成立させるための土台の確認でしょう。関連内容をすべて尋ねる必要などないはずです。
尋ねるべきは、本時の授業を通して答えを導かせたい問いが求める知識や理解。問いはそこに絞りましょう。選択式ではうろ覚えでも当たってしまうので、できるだけ記述式、最低でも求答式が好適です。
テストに答える中で、生徒は既習内容を想起し、わからない/忘れていたところは、調べたりして再記銘が進みます。わざわざ教室内で先生が教え直すより、効率的だと思いますがどうでしょうか。

また、如上の問い(本時のターゲット設問)をそのまま事前テストの問題にする手もあります。導入フェイズで仮の答えを作らせるのを、事前の、クラウド上でのテストの中で行うだけの話です。
設問は多くおけないため、試せる知識は少なくなりますが、「本時の学びの前提を確かめる」という目的は、ダイレクトに効率よく果たしています。不安があるなら如上の「小テスト」と組み合わせましょう。
こうしておくと、授業を終えたときに、学び(調べる、考える、話し合う、説明を聞く)を経て仕上げ直した答えとの比較も容易に行えますので、指導/学習が、生徒の理解に与えた影響を可視化できます。
問いに対するビフォー/アフターを、生徒一人ひとりについてAIで解析し、それをクラスという単位で取りまとめてみると、「その日の授業/単元の指導がもたらした効果」を捉えることもできるはずです。

❏ 獲得している学習方策が学びの成果を大きく左右

生徒が獲得している「学習方策」を正しく捉えておく必要が特に高まるのは、予習(授業準備)に課すタスクを設計・選択するときです。
授業内の活動であれば、グループやペアでの活動にすることで、互いのやり方から学ばせたり、教え合いで不足をカバーさせたりすることもできますが、教室を離れたところではそうはいきません。
これから先の学びの中で、生徒一人ひとりに取り組ませることを想定している活動(タスク)については、事前に教室内でやらせて、観察の機会を持ちましょう。→ 学習法の確立を早めるために観察と支援と刺激
生徒がきちんと取り組めているかどうかは、前掲の5項目のうちの3番目「事前に課した準備タスクへの履行状況」のチェックの中でも、改めて把握を行い、状況認識を更新することができるはずです。
宿題をやってきたか、という履行点検だけでなく、課題に対してどんな結果を整えてきたか、読む、考える、まとめるなどのタスクにどれだけ対応できているかを観点にすべきです。タスクに応じた「評価基準」を予め読み込ませたAIを活用できる場面でしょう。

対話や協働の場面を作っても、生徒がその場でのふるまい方(方法と姿勢)を身につけていなければ狙った通りの効果は出ません。活動が自己目的化しないよう、協働の場での行動をきちんと評価しましょう。
継続的に行ってきた、こうした評価の結果を踏まえ、生徒の組み合わせ/グルーピングを考えたり、活動のガイドを狭めたり弛めたりしていくことで、指導/学習はより大きな実りを得るようになると思います。
また、課題に取り組ませたあとで、振り返りをさせ、生徒が自らの学びの「進捗と改善課題」を捉えているか、リフレクション・ログなどを材料に、確認も怠らないようにしましょう。

少々長くなってきました。続きは「後編」(明日公開予定)とします。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一