夏休みを迎える生徒に、今のうちに投げかけて考えさせておきたいことの一つは「1学期中にやり残してきたことはないか」です。夏休みは、やり残しに向き合い、きちんと仕上げ直す、かけがえのない機会です。
英語の語彙増強(単熟語の暗記)といった単純なタスクも、先生が小テストまで行いペースを作ってくれたのに、十分に取り組めていなかったり、自分で立てた受験勉強の計画にも遅延が膨らんでいたりと、生徒一人ひとりに様々な「やり残し」があるのではないでしょうか。
日々の授業の中で興味(掘り下げるべき疑問)を見出したのに、「そのうち調べてみよう」と思っただけで、実際には何もしてこなかった生徒もいるかも。cf. 自分の中で浮かんだ疑問なども「管理すべきタスク」
学部・学科調べ、学問探究などの進路選択に向けたタスク(2年)や、志望理由書の起草(3年)が遅れているケースもあろうかと思います。
2016/07/11 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 放置したタスクのピックアップと優先度の判断
これまでの学習を振り返って、やり残してきたものをピックアップし、夏を終えるまでに確保できる時間枠の中にタスクとして配列するには、相応の作業時間がかかります。期末試験を終えて答案が返却されるまでのわずかな期間は、こうした取り組みの好機だと思います。
やり残してきたものは、これまでの学習記録(手帳に残ったメモなど)が残っていれば、生徒自身で過不足なくピックアップができるでしょうが、そうでない場合は、これまでの学びの振り返りが必要です。
何を対象に、どんな観点で振り返るべきか、事前に提示してから取り組ませないと、やり方がわからず、新たなやり残しを抱えさせます。
- 各教科の学び(日々の予復習、小テストやレポートへの取り組みに不足はなかったか、定期考査の結果に触れての反省点は?)
- 授業外での体験(進路講演、校外学習などで得た気づきは、きちんと整理し、必要な補完を経て、学びに再構成できているか?)
- 模擬試験[受験勉強]や検定試験など(取り組みは十分か、「進捗と改善課題を捉えた学び」がどこまで実現しているか?)
これらを振り返って不足を見出したことを、書き出すことで可視化させていきましょう。また、定期考査や模試の反省を機に自ら設定した「学習改善に向けた課題」も解消が進んでいなければ、そこに加えます。
仕上げる必要があるタスクは、想定外に多岐・多量なものになるかもしれず、優先順位をつける必要も出てくるはずです。放置したときに予想されるダメージ(秋からの学びが抱える支障の度合い)は、生徒には予想困難ですので、優先順位には先生方からの示唆も必要です。
まずは、2学期を迎えてからの学習(教科、探究、進路)がどのような計画になっているかを示した上で、そこに臨むまでに整えておく必要がある「準備」が何か、しっかりと伝えていきましょう。
各教科の学びがどんなステージに入り、そこでの予習・復習に何が求められるのか、探究活動がどんなフェイズを迎えるか、進路選択に向けてどんなタスクが控えているかを、それぞれの指導を担当する先生がしっかり示さないことには、生徒は場面を想像することすらできません。
なお、「優先順位」は、進路希望や現状での成績など、生徒個々の状況によっても変わります。クラスに一律の提示よりも、条件分けをした上で、それぞれの該当者が注力すべき点を示していくのが好適です。
❏ ここまでの学びの「悪癖」を断ち切り、リスタート
新年度からここまでに、やるべきことを仕上げきらずに放置してきた部分が多い生徒ほど、「仕上げないことを常態化」させてしまい、学びに向かう姿勢を歪めてしまっている可能性が高いと思われます。
特に、今春入学してきた1年生の中には、環境の変化や小学校/中学校での学びとの違いに翻弄される中、正しい学習習慣を確立できないまま学期末を迎えようとしている生徒もいるのではないでしょうか。
そうした生徒に「悪循環(=仕上げないことの常態化)」を断ち切らせるべく、「2学期からの学びに照らして優先度の高いタスク」を認識させることで、このタイミングで学びのリスタートを切らせましょう。
入学前に経験したことのない「相対順位の低さ」などで、学びに対する自己効力感を下げている生徒にも、この局面での支援は重要です。
やるべきことを自分で見つけ、頑張って仕上げたという体験を持たせることで、「やればできる自分」を再確認させるとともに、「こうやれば良かったのか」と新たな方法を見つけ出させていきましょう。
❏ 与える予定だった宿題より、生徒が見つけたタスク
夏季休業期間中にどんな宿題や課題を生徒に与えるか、既に検討も進んで計画が固まっているかと思いますが、生徒の持ち時間を目一杯使ってしまう量になっていたら、生徒は自らピックアップした如上のタスクに割り当てる時間を見つけ出せなくなりそうです。
与える予定だった宿題・課題には、「2学期の学びの準備として不可欠なもの」と「時間があるときに取り組んで欲しい、プラスアルファ的な課題」の2種類があろうかと思います。
この区別をまずは先生の側で明確にした上で、前者は生徒全員に課す必須のもの(マスト)とし、後者は生徒が選び出した「自分の課題」との間での選択(オプション)とするのが良いのではないでしょうか。
例えば、英語のサイドリーダーでまとまった作品を読ませることで、原典に親しむ機会を作ってあげることにも小さからぬ価値があるでしょうが、夏過ぎの学習活動をイメージしたときに最優先すべきことかと改めて聞かれたとしたら、判断には微妙なところがありそうです。
生徒が取り組む探究活動で、先行研究を参照するときに、英語で書かれた論文や資料を集め、その熟読と要約などに取り組ませれば、後に控える英語での論文、サマリー、ポスターの作成で必要になる語彙の増強が図れるとともに、新たな気づきを得て探究そのものも進展します。
自分の興味や関心に応じて「英語を読む機会」が持てるようなら、それを優先させましょう。そうしたものが見つからない生徒には、推薦図書を幾つか挙げて選ばせ、要約や感想を提出させれば十分でしょう。
❏ 期末考査の結果を踏まえて計画させる夏の過ごし方
期末試験を終えれば、その結果の中に何らかの反省点を抱える生徒も少なくないはずですが、その反省も曖昧なままにしておいては、次に向けた具体的な行動には結びつきにくいものです。
反省すべき結果に至った、それまでの自分の取り組みをしっかりと振り返らせ、「より良いパフォーマンスを得るにはどうするべきか」を考えさせて、夏休みをその実行に充てさせたいところです。
定期考査以外にも、ここまでの模擬試験の結果も、自分の勉強の在り方を再設計するには踏まえるべき貴重な材料のはずです。
ただし、振り返りを行っても、適切なタスクの配列に至らない生徒もいるはず。メタ認知・適応的学習力の獲得には個人差が大きいからです。
生徒に任せっぱなしにしては、やるべきことを先送りにする生徒、時間枠を余したり、詰め込み過ぎて破綻が明らかな生徒も出てきます。
夏の学習計画(何をいつやるか、その目的とするところは何か)を書面に起こさせて、先生方が目を通す機会を確保したいところです。
いちいち、選択や計画に口を挟んでは、主体的に学ぶ姿勢を育めませんから、どうしても気になった生徒にだけ「こっちは良いの?」「時間は足りそう?」と問いかけて、考え直すことを促していきましょう。
また、生徒が起こした「優れた計画」(意図が明確、実現性が高い、効果が期待できるなど)は、クラスでシェアして相互啓発の材料に使っていきたいところ。生徒の発想は、大人のそれを超えることもあります。
❏ 教科担当と学年団が揃って臨むべき指導
本稿でご提案した指導を実現するための大前提は、学年担任団と各教科の授業を担当している先生方が、「やるべきことを生徒がピックアップして計画に落とし込み、実行する」という指導の意義などを、しっかり共有しておくことであるのは言うまでもありません。
2学期に予定されている学習活動をしっかりと示してもらうこと、タスクの選択に際しての「基準」となることを授業内での話や宿題リストの書面の中で明記してもらうことなども、学年の指導にかかわるすべての先生方にご協力いただかなければならないことです。
ご協力をいただく中で、教科担当の先生方も、探究や進路の指導に当たる学年の先生方も、年度末や次年度まで見渡した上で、指導をより良いものに再設計することができるのではないでしょうか。
与える予定だった宿題・課題のうち、生徒が自ら選んだものを優先させても構わないものはどれか、冷静に線引きも必要です。
実際、こうした取り組みを行ったケースでは、「慣習的にやらせていたことを見直す良いきっかけになった」とのご意見も多く耳にします。
いつまでも生徒の手をとって引っ張ってあげるだけでは、生徒が自分で地図を見ながらルートを選び、自力で歩みを進めるための姿勢やスキルは身についてこないかも。自分で選んで行動することを通じて、自分が選択した結果を引き受ける覚悟も身につけさせていきましょう。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一