生徒が学びを振り返るときに拠り所となるもの(=基準)をしっかりと理解/認識させておくことの必要性については改めて申し上げるまでもないかと思います。漠然とした「振り返りらしきもの」で感想レベルのアウトプットを得たところで「学びの改善」は期待できません。
思考を重ねた結果である答案や発表には「採点基準」があり、学習への取り組みにも「活動評価の基準」(ルーブリックなど)があるはずですが、生徒はその文言の一つひとつを正しく理解しているでしょうか。
また、授業評価などのアンケートも、生徒の自己認識を確かめ、結果を指導の改善などに役立てるわけですが、生徒が質問文を正しく理解していないと、尋ねた側の意図と違ったところでの評価の結果が出力され、効果測定や課題形成を誤らせるリスクを抱えます。
❏ 評価規準=到達目標~正しい理解なしには方向を失う
ずいぶん前ですが、大学入学共通テストがまだ「新テスト」と呼ばれ、実施に向けた試行が行われていた頃、記述問題の採点基準を生徒が正しく適用(=自己採点)できないことが問題になったことがあります。
その後、記述式のテストは実施されないことになり、先生による採点の結果と生徒の自己採点が一致しないという問題が俎上に上がることもなくなりましたが、「答案を正しく評価できているか」という問題が解決に向かったとは思えず、今も顕在化しないだけで残っているはずです。
もし、明確で合理的な採点基準が示されていなかったり、示されていたとしても生徒がそれをきちんと理解して適用できない状態だったとすれば、自己答案を評価し、より良いものに改めていく力は高まりません。
別稿「提出物は丁寧に添削して返すのがベスト?」でも書きましたが、公開添削などを機会として、答案評価(=採点基準適用)のスキル獲得に向けた指導を積み重ねていく必要があろうかと思います。
自ら考え、言語化したものと向き合い、そこに新たな問題(=不備や改善点)を見つけ、その解消を図れてこそ「自立的な学び」ができます。
活動評価のルーブリックについても同様です。「総合的な探究の時間」など、取り組み方そのものを学ばせることを目的とする場面では、評価基準(観点別の段階的評価規準)に照らした振り返りが不可欠です。
探究活動のフェイズごとに、取り組み方に焦点を当てた評価基準(ルーブリックなど)が整っていることを前提に、生徒が正しく適用できるよう、日々の指導を重ねていく必要があるということです。
思考力・判断力・表現力により大きな比重が置かれた教科学習指導や、探究活動などの新たな学びには、従来の(旧課程までの)評価の基準だけでは用をなさないところがあるのは明らかです。
新しい学びが求めるものの(学力要素や学びの過程)の一つひとつについて、評価基準が十分に整備されているかに加えて、それを生徒がどこまで理解し、適用できているか、改めての点検が必要です。
❏ アンケートの質問文にも、深く正しい理解を
生徒に自らの取り組みとその成果を振り返らせるときに用いる「規準」を、アンケートの質問文に仕立て直して生徒に答えさせるのは、生徒の認識(及び集団でのその分布)を捉えるのに有用な手段のひとつです。
例えば、「科目の学び方について自分なりの方法を身につける」と記述された目標(目標項目としての名称は「学習方策の獲得」くらいでしょうか)は、同じセンテンスのまま「評価の規準」にすることもできますが、同時に「アンケートの質問文」にもなり得ます。
生徒に限りませんが、人は何かを尋ねられる(=答えることを求められる)と、改めてそのことを考え、その実現に向けた意識を持つようになるもの。如上のアンケートには行動変容を促す効果も期待できます。
但し、そうした効果が期待できるのは、生徒が質問文を正しく(=先生方と同じ解釈で)理解してこそ。ズレた認識では、狙っていない方向に事態が進んで行ってしまうこともありそうです。
認識(=質問文の解釈)のずれを検知するには、生徒自身による自己評価結果と、先生の目による評価の結果を突き合わせが有効です。評価結果の分布を見比べ、違いが目立つようなら、要注意でしょう。
❏ 授業観、指導観を言葉にして日々、伝えているか
授業評価アンケートの質問文でも、(別稿の「追記」でも触れた通り)その文言を生徒が正しく理解できていないことも少なくありません。
例えば、「習ったことをもとに考える機会」でも、生徒の認識は「問題演習のこと?」くらいのものかもしれません。獲得した知識・理解を生きて働かせる中で、様々な能力や資質の獲得を図るためのものと正しく理解させておかないと、せっかく整えた機会も活かされません。
その他にも「気づきや学びの深まり」「学力の向上や自分の進歩」といった、日常にも使う言葉でも、新しい学力観の下での授業のあり方と結び付けた理解を、初期状態から生徒に求めるのは酷というもの。
授業開きを皮切りに、様々な場面で、表現を変えながら、絶え間なく、授業デザインに込めた思いを言葉にして生徒に伝え続けましょう。
面談指導の事前アンケートでも、各フェイズの重点目標の達成度を自省させる質問文に答えることで、生徒は自分の位置と課題を理解します。
質問文に込めた先生方の意図を正しく理解してこそ、的確な姿勢で学びに臨め、より大きな成果が期待できますし、自らの取り組み(学び)を振り返る上でも正しい基準を携えさせることができます。
もし、先生方の認識と、生徒側の捉え方が違っているようなら、授業や指導に込めた意図が正しく伝わっていないということ。狙い通りの成果が結びにくい状況にあると考えた方が良さそうです。
指導と評価の一体化では、「進捗と改善課題を捉えた学び」の実現を目指しますが、その起点になるのは、本稿でのタイトルにした「評価基準やアンケートの文言を正しく理解させる」ことであり、学力観や授業観をきちんと伝えることにあるのだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一