行動選択の力を養う指導と評価~生徒意識(4)

生徒意識調査のQ09行動選択「進路のことや今何をするべきかを考えて行動できるようになった」に反映されているのは、教科学習以外の生活や進路などの領域にまで拡張されたメタ認知・適応的学習力でしょう。
今の自分が置かれている状況を、少し先の未来に待ち受けるハードルや分岐に照らして理解し、何にどう取り組むべきかを考え出して、行動に移せる(さらに検証しながら修正していく)生徒を育てたいものです。

❏ 学年ごとのクラス別集計値分布をみると

質問文には「進路のこと」との文言が含まれるため、現実的な課題としての生徒の認識が高まる高3では、集計値分布に急速な上昇がみられますが、実際は、下図の通り、中2を底に徐々に高まる傾向を示します。


上図からも一目瞭然ですが、一つ下の学年と比べたときの平均値などの差(=成長度)は、高3を除けばいずれも2ポイント未満と小さいものであり、学年内の差(箱の長さ)はそれをはるかに上回る大きさです。
別稿でも申し上げた通り、Q02期待する行動を明確に打ち出さないと、Q09行動選択も伸びません。{Q02期待する行動=A、B}で答えた生徒の回答だけを抽出した場合、如上の分布は下図のように変化します。


依然として各学年の「箱」は一定以上の長さであることから、期待する行動の明確な打ち出しだけでは不十分であることも推定できます。
明確な期待(=目指すべき到達状態)が「振り返り」に際しての基準になっても、実際に振り返りを行わせる場面でどう意識付けを図り、どのように自分に向き合わせるかで生じる違いも小さくありません。

❏ 活動や学習のまとまりごとに、目標把握と振り返り

振り返りは、毎時間の授業や各単元の学習を終えたとき、定期考査や模擬試験の結果が出たときなど、学びがひと区切りを迎えるたびに、「次に向けて」行うべきものでしょう。
学びの過程に「評価とフィードバック」を組み込むことで、進捗と改善課題を捉えた学びを継続・循環させることが大切です。
学校行事(文化祭や体育祭、合唱祭)なども「学びの場(=能力・資質の涵養を図る機会)」ですので、そこへの取り組みや協働を振り返らせることになりますし、選択の力を養うべき進路学習なども同様です。

当然のことながら、無目的に学び/活動に取り組んでも、有為な振り返りはできず、徒労感や後悔だけが残るようなことにもなりかねません。
行事なら「この行事、学習機会で目指すことは何か(行事等に込めた意図)」を、進路選択に向かう場面なら、「何を知り、何を考え尽くしてその局面に臨むべきか」を事前の指導で伝えておくべきです。

明確な目標を持って取り組んできたときにこそ、有益な学びに繋がる振り返りができるのではないでしょうか。
また、それぞれの生徒が振り返りを通して残したリフレクション・ログにはしっかり目を通し、好適な記述を抽出し、クラスでシェアするようにしましょう。振り返りの方策獲得にも相互啓発は欠かせません。

❏ 個のうちに備わる行動選択と、集団としての成長の場

授業評価アンケートのⅦ学習効果との間で有意な正の相関が確認されているQ06成長の場と、Q09行動選択の相関の様子(クラス別集計値ベース)は下図の通りです。


生徒一人ひとりのうちに形成されるQ09行動選択に対し、クラスという集団の中での相互作用であるQ06成長の場とでは、どちらか一方が優位で他方が遅れる(近似線から上下に大きく離れる)ケースも多いようです。
上図に照らして、ご担当クラスの相対的な位置を探り、両項目がバランスよく、改善に向かうよう、指導の力点を調整していきましょう。
なお、ご参考までに、上のグラフと同じデータを学年ごとに分割して、散布図を再描画してみたところ、以下のような結果になりました。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一