授業評価アンケートと同時に行うことを推奨させていただいている生徒意識調査(オプション)では、「生徒が互いに刺激し合い、ともに成長している」か(Q06成長の場)を生徒に尋ねて答えてもらっています。
この項目は、授業評価における目的変数である「Ⅶ学習効果」との間で有意な正の相関が確認されており、最も重要な項目の一つと言えます。
(教科学習指導の土台はホームルーム経営より再掲)
❏ 好ましい学びの場(成長の場)への寄与度
Q06成長の場を目的変数、クラス担任の「改善に向けた直接的なコントロール」が比較的容易なQ01~Q05、Q07の6項目を説明変数とする重回帰分析を行ってみたところ、寄与度上位の項目は以下の通りでした。
学年での違いは小さく、Q05係の仕事「学級の係や当番は、それぞれがきちんと必要な役割を果たしている」に最大の寄与度が推定されます。
係の仕事を通じて「より良い学習環境の実現」という課題に協働で取り組む中で、生徒間の相互理解や協働性の獲得が進み、それが「好ましい学びのコミュニティ作り」に役立っているということでしょう。
2番目に大きな寄与度が推定されるのは、Q07相談相手「困ったことや悩みがあるとき、信頼して相談できる相手がいる」です。
別稿でも書いた通り、周囲から受ける様々な刺激も、上手に消化できてこそ自らの血肉になる(成長に役立てられる)もの。消化できない刺激は、不安や萎縮といったネガティブな反応を引き起こします。
信頼して相談できる相手がクラス担任の先生とは限りませんが、少なくとも生徒の誰もがアクセスを持ち得るのは学校の先生です。質問を前に先生の顔を思い浮かべ、躊躇なくYESと答えて欲しいものです。
寄与度の第3位はQ04整理整頓「教室は、いつも整理整頓され、勉強に集中できる環境が保たれている」です。より良い学習環境の創出・維持に互いに協力し合う気持ちが、Q04とQ06の双方を押し上げます。
なお、Q04整理整頓のスコアが高いクラスほど、いじめなどのトラブルが少ない傾向にありますが、担任の先生の目が教室に行き渡っているということでしょう。(cf. 教室の環境整備と生徒の人間関係との相関)
❏ 各教科の学習の中での活動(協働)が人間関係を作る
重回帰分析の結果(上表)を改めて見ると、決定係数は全学年で0.47、最も大きい高3でも0.51に止まります。これは説明変数とした項目以外にQ06成長の場を大きく左右する要素が存在するということです。
生徒が協働で課題に取り組む(=相互理解を深め、協働性を育む)機会は、係の仕事や行事などだけでありません。各教科の授業、部活や生徒会活動の中でも生徒は様々な「協働」を日々経験しています。
何と言っても、学校生活を送る中で最大の時間を過ごす授業での多様な体験(協働や対話)を通して相互理解と協働性の獲得が進むのは当然でしょう。(「人間関係形成力」と「社会参画力」は、現行課程の議論の土台となった21世紀型能力の「実践力」を構成する要素です。)
実際、授業評価のⅥ対話協働と生徒意識調査のQ06成長の場の間には、有意な正の相関が観測されます。但し、相関の強度はまちまちです。
協働の場の整備が同レベルでも、きちんと評価とフィードバックを行っている場合と、やりっぱなしの場合とでは、成果に差が出て当然です。
❏ 共生の資質、規律ある生活を目指す指導との相乗効果
学校生活を通して生徒が獲得していく能力や資質は、一つひとつが独立したものではなく、互いに関連し、効果を押し上げ合います。
Q06成長の場の向上を図ろうとするとき、共生の資質、規律ある生活や集団生活のマナーの獲得が遅れれば、それがボトルネックになります。
Q08共生の資質「立場や考えの異なる相手の意見にも耳を傾けられるようになった」で肯定的な回答を選べる生徒に育てる指導が、Q06成長の場を作るのに有効(下左図)なのは、感覚的な予想とも一致します。
Q10規律ある生活「規律ある生活を送るとともに、集団生活のマナーを守れるようになった」でYESと答えるのをためらう状態では、互いが成長を支え合う学びのコミュニティにはなりそうもありません。
下図に照らして、ご自身が担当するクラスの相対位置を捉えてみると、いずれの項目の改善が遅れているか(=ボトルネックになっているか)のあたりも付けられ、効果的な改善策の構築に役立つかもしれません。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一