先生も生徒も、評価者としてのトレーニング

新しい学力観への転換に伴い、指導方法の工夫を重ねるのと並行して評価方法にも組み直しが必要になります。(cf. 指導と評価の一体化
当ブログでも繰り返し申し上げてきましたが、学習評価は以下のような様々な材料とそれに応じたツールを用いて多面的に行うものであり、いずれも新しい学力観に沿ったものへの更新が必要です。

  1. 結果学力を測定するためのテストの結果や課題の仕上がり
  2. 学習方策や学びへの取り組みを評価する行動観察の結果
  3. 対象への関わりなどの内省を測るポートフォリオのログ

考査問題や課題類を新しい学力観に沿ったものにアップデートしたり、活動場面ごとに用いるルーブリックを整備したり、あるいはポートフォリオの様式を調えて運用を確立したりといったことに加え、それぞれの基準を正しく適用できるようになるための練習も欠かせません。

❏ 評価基準の改善と正しく適用するトレーニング

出来る限り客観的に、評価者による解釈の差が出ないように工夫して作られたテストの採点基準だって、一様な適用は容易ではなく、しばしば採点結果のバラつきが問題になります。
模試などの採点現場では、バラつきを抑えるべく実際の答案をサンプルに、仮の採点基準を適用してみた結果を突き合わせながら、採点基準に修正や追記を加えたり、採点者会議で適用ルールを確認したりする作業を重ねて行きます。(それでも採点ミスはゼロになりませんが…)
ましてや、2. や 3. は、非定量的(=定性的)に記述されたものに対して、観察という主観が混じりがちなものをあてはめ、定量的なデータに変換するという複雑なプロセスの特性上、評価者によって結果が違ったものになりがちです。
行動観察の結果やログに残された記述を点数に換算するには、相当な試行錯誤とトレーニングの積み重ねを覚悟していただく必要があります。
のっけから腰の引ける話ですが、学習評価/指導の効果測定とそれらを通して目指す学力向上/授業改善の実現には欠かせないのも事実です。

❏ 評価してみた結果を突き合わせる中でズレを解消

学習者の行動を観察して、観点別に設けた段階的な評価規準に当てはめてみると、評価者(=先生)ごとに結果に差が出るのは初期状態としては当たり前です。
同じ生徒、作品、答案を前に、規準に当てはめてみた評価結果を先生方が持ち寄り、照らし合わせを行う機会を重ねて行きましょう。
評価した結果を比べてみれば、ズレがどこに生じているかもわかりますし、ズレを解消するために「この文言はこう解釈しよう」「このケースではB評価としよう」といった具合に話し合いを重ね、「規準の解釈」を摺り合わせていくことが重要です。
また、評価規準自体がバラつきの出やすい書き方になっていることもあるはずです。該当箇所を見つけたら、文言そのものを修正しましょう。

こうしたトレーニングは実際の場面での試行が欠かせませんが、いきなりその結果を生徒の評定に反映させてしまうわけにはいきませんので、試行期間を設けて、如上のズレをできる限り解消した上で、シラバス等に「評価の方法」として記述してから、本運用に移りましょう。

❏ 直観での評価と規準摘要の結果を照合し係数を調整

評価基準を適用してみた結果と、先生方の直観や経験に照らした評価とがどうしても一致しないというケースも出てくると思います。
これまでの指導経験に照らすと、このままでは良好な成績や高いパフォーマンスが期待できないと思われる生徒について、新しく作った評価基準に照らしてみると異常に高い評価になってしまうことや、その逆も想定されます。
こうしたケースでは、評価の観点や規準の書き出し方が好ましくなかったり、複数の観点での評価を組み合わせるときの各変数に乗じる係数の設定(傾斜配点)が不適切だったりするのかもしれません。
こうした評価システム上の不備もまた、実際の評価を行う中でこそ見つかるもの。問題点を洗い出し、蓄積したら、どこかのタイミングで整理を行い、具体的な回収の作業を進めていきましょう。
本稿のテーマである、評価者としてのトレーニングをどれだけ積んでも元の「モノサシ」が歪んだままでは正しい計測結果は得られません。

❏ 試行を終えたら生徒にも自己評価の練習を

評価基準の先行試用で、先生方の評価者トレーニングと基準の最適化がある程度の成果を得たら、評価結果を評定に組み入れるのを前提とした本運用に入ります。この段階を迎えたら生徒にも自らのパフォーマンスや取り組みを評価させるようにしましょう。
別稿でも書きましたが、正しい自己評価ができなければ、学習行動の改善も「他人が示した方向に従うだけ」のレベルに止まり、学習者としての自立に向かえません。
自己評価や相互評価を重ねることで、正しい振り返り(成果のたな卸しと次に向けた課題形成)の土台となる「相対化スキル」も養われます。

年間授業計画やシラバスに記載された学習目標や評価基準も、しっかりと熟読した方が学びに主体的な姿勢が生まれることを示唆するデータもあります。評価を先生方だけのものにしないようにしましょう。
但し、シラバスなどが「生徒が読んで目指すものと自分を振り返る方法がイメージできる」ような書き方になっていることが前提ですが…。

❏ 評価規準を質問文に仕立て直したアンケート

評価の規準は、観点毎に設定された段階的な到達目標を、生徒を主語にしたセンテンスで書き出したものですが、これらを疑問文(「~していますか」「~できていますか」)に書き改めて、生徒が自問して答えるアンケートの形で活用している事例があります。
人は、何につけても、問われることで考えますし、それが自分の行動についてであれば「内省」の場となります。

  • 授業中にわからないことがあったとき、自力で教科書や参考書を読んで、その解消を図ろうとしていますか。
  • 資料などに書かれていることも、鵜呑みにせず、必要な確認をする習慣が身についていますか。

といった具合に、アンケートの質問文に整えて、定期考査期間を迎える時や、学期の終わりなどに定期的に回答を集めてみましょう。
ひと通り回答させた上で、「これからどうする/何に注力して『これからの自分の学び』を改善する」を文章にさせてみるのもお奨めです。
定期的にアンケートへの回答と決意表明をさせれば、定点観測によって個人としての/集団としての成長も捉える材料として活用できますので、指導の効果を測定するのにも役立てることができるはずです。
回答や提出にICTを使っていれば、データの蓄積も容易です。Googleフォームなどを利用して、集計の手間も抑えましょう。データの収集と蓄積に欠ける手間を減らし、浮いた時間とエネルギーをデータの解析や今後への活かし方の検討に当てていきたいところです。



ちなみに、本稿では詳しく触れませんが、テストや課題も(内容のみならず、採点基準なども同時に)新しい学力観に沿ったものに更新を図らなければ、新しくなった学力観に沿ったモノサシとして機能しません。
ルーブリックやポートフォリオだって、作ったけど十分に活用し、学習と指導の改善に役立てられていないのでは、宝の持ちぐされです。新課程も既に完成年度。これまでの取り組みのたな卸しを行う局面です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一