いつもはっきりと教室の隅々まで届く声

伝達技術の基本は「話し手の声がいつでもはっきりと聞き取れること」です。知識・理解を与えるにも、問い掛けて生徒に考えさせるにしても──視覚による補助が効果的であり且つ必要であることは言うまでもありませんが──、まずは先生が発した声による情報を、生徒が集中してしっかりと受け止め続けられることが大前提です。
先生の話が聞きとれないのではどこかで授業内容がわからなくなるのも当然。「いつもはっきり聞き取れる」ことは授業を行うときの必須要件です。「生徒から目と口が見える状態を保つこと」を徹底し、「聴くときと、作業するとき、考えるときの区別」も明確にしていきましょう。

2015/05/08 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 生徒の活動を支える土台は”しっかり伝えること”にあり

学習活動をどう配列するかは授業デザインの肝ですが、その一方で、教えるべきことをしっかり教え、意図するところを伝えきることと、その技術の重要性は、これから先も何ら変わりません。
当然ながら、何を目的とした活動なのか、どんなことに注意して進めるべきか、はっきり伝えてこそ、生徒も活動に集中できます。
考えるためには土台となる知識が必要です。それらを余計な時間をかけずにしっかり獲得できてこそ、生徒が取り組む学習活動(=課題解決や対話協働)にも十分な時間を割くことができるというものです。
学習者主体の学びがますます重視されていますが、伝達の必要性がなくなるものではなく、むしろ、どれだけ簡潔に伝えるべきことを伝えきれるか、その技術がこれまで以上に問われるとお考え下さい。

❏ 先生の言葉が聞きとりにくい状態のままでは…

どんなに念入りに設計した授業内活動であっても、声と共に指示が生徒に届かないのでは学習成果という実は結べなくなります。
少しでも話に聞き取りにくい部分があると、それがストレスとなり生徒が学習意欲を低下させることを示唆するデータもあります。
指示が聞き取れずに戸惑っているうちに授業が進んでしまっては、学びを積み上げるチャンスを逃すばかりです。ときには不要な危険を招くこともあるでしょう。後で叱るより、しっかり伝えて予防です。
話をする(口頭で何かを伝える)場面では、常に生徒の表情から目を離さず、言葉と共に意図が伝わっているか探るようにしたいところです。

❏ まずは、生徒から目と口が見える状態を保つこと

話を聞かせようとするとき、教室のどこからでも先生の目と口が見える状態になっているでしょうか。
先生が黒板や教科書とにらめっこでは、生徒から先生の目と口は見えません。誰に向かって話しているかわからないような状態で、相手の話に集中し続けるのは中々難儀なことです。
きちんと生徒に「正対」して話をすることを習慣としましょう。
いくら先生が生徒の方を見ていても、生徒がこちらを見ていないことには「生徒から先生の目と口が見える状態」は作れません。
生徒の顔をあげさせるのに一番手っ取り早く、しかも確実な方法は先生が黒板に何かを書くことです。
板書すると生徒は写そうとして顔をあげ、黒板の方を見ます、その隣には先生がいます。このタイミングで問い掛けをすれば、顔が向いた状態から、さらに意識を先生の方に向けてくれます。
プリントは指示や説明をまとめておくには便利ですが、先生が話をしている間も生徒の目線が机上に向いてしまい、先生の方に視線と意識が注がれなくなります。

❏ 聴くときと、作業するとき・考えるときを明確に区別

生徒は手元の作業に集中していれば先生に視線を向けません。作業に集中するときと話を聞くときの区別をしっかり作ることが大切です。
鉄則は「指示や説明をするのは板書をしながら」です。大人の会議でもホワイトボードを用いたファシリテーション・グラフィックは効果的。
繰り返しになりますが、板書をすれば、生徒は書き写すためにこちらを見ます。当然ながら、作業の手は止まり、話を聞くことに集中する場面に切り替えが図れます。
逆に、生徒が作業に集中しているのを止めたくないときは、「不用意に話を始めない」ことが肝心です。
演習中などに説明を加えたいとき、注意を促したいときは、口は開かず黙ったまま、伝えたいことを黒板に書くだけにしましょう。生徒は書かれたものをさっと見て、指示や注意点を理解します。
実験や実習に取り組ませる場合も同様です。
時間の切り分けをはっきりさせることが、伝達の効率と確実性を高め、結果的に作業や練習に当てられる時間を増やすとお考え下さい。

❏ 声量や滑舌だけが問題ではない

授業評価アンケートの自由記述意見を読んでみると、声量が絶対的に小さく、先生の声が教室の隅々まで届いていないケースもあるようです。
講堂のような大きな教室で地声では声量が不足するなら、マイクを使うなどの対策も検討しなければなりませんが、40人規模の教室でそんな状態になるのには、他に原因があるはずです。
生徒が話し合いをしていたり、がやがやしている状態で話し始めてしまえば、自ずと「声が届かない」という事態が生じます。
たとえ声量は不足気味でも、生徒の側に「聴く態勢」をしっかりと取らせれば、きちんと声は届きます。ポイントは「声の出し方」ではなく、「声の届かせ方」にあるとお考え下さい。

◆ 改善のための必須タスク:

はっきりと聞き取りやすい話し方を実現するには、先生の目と口が生徒の視線に入っている状態を保つことが不可欠です。生徒の方に顔を向け、目を配りながら話をするよう心がけましょう。生徒の視線と意識をご自身に向けさせておくことも重要です。板書と説明を短いサイクルの中で繰り返すのが簡単ながらも効果的な方法です。

◆ さらなる改善を目指して:

はっきり聞こえるか否かは音声的な物理現象だけの問題ではありません。問い掛けで問題意識を刺激し、情報を受け止める態勢を取らせることが大切です。他の先生の授業を参観する機会があれば、生徒の意識が先生方の話に向くのはどういう瞬間か探りましょう。何がきっかけになっているか考えることで多くの示唆が得られます。



教室の隅々まで声が届き、生徒が集中して聞き続けられることは必須の要件ですが、先生の話がわかりやすいかどうかを決めるのには、クリアすべき様々な条件があります。別稿「わかりやすい話し方(全4篇)」をご用意いたしました。お時間の許すときに併せてご高覧ください。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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話し方・伝え方、強調の方法Excerpt: 1 わかりやすい話し方1.0 わかりやすい話し方(序) 1.1 わかりやすい話し方(その1) 1.2 わかりやすい話し方(その2) 1.3 わかりやすい話し方(その3) 1.4 わかりやすい話し方(その4) 2 強調の正しい方法2.0 強調の正しい方法 2.1 強調の正しい方法(その1) 2.2 強調の正しい方法(その4) 2.3 強調の正しい方法(その2) 2.4 強調の正しい方法(その3) 2.5 強調の正しい方法(その5) 3 伝え方・話し方に関するその他の記事...
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