板書は、生徒に問い掛けを重ねながら、順番に書き上げていくのが普通ですが、「敢えて空所を残しておく」という手法もあります。ねらいは「生徒の問題意識を刺激し、強い印象を残す」ことにあります。
授業の導入時や、新たな内容に進むときに用いれば、その先の学びを通じて達成を目指すところを認識させる優れた機能を発揮してくれます。
例えば、本時の学びを通じて答えられるようになって欲しい問いの「正解」となる文章を元に、ポイントとなる部分を空けておくだけで、生徒の頭には「どんな言葉が入るのだろう」という疑問が浮かびます。
解消すべき不明や、解き明かしたい疑問を抱くことは、取りも直さず、学ぶことへの自分の理由を持つことですし、学び終えてからここ(残した空所)に立ち戻れば、まとめにもなるはず。学んだことを言語化し、手を使って文字にすれば、記憶への刻み込みにも効果が期待できます。
2014/11/21 公開の記事をアップデートしました。
❏ 空所を見ると、そこに何が入るかを考え始める
空所が残されていれば、「いずれは何かを埋めて補う」との認識になるはず。前掲のような板書を見た生徒の頭には「何が空所に入るのか?」という問い(=ある種の興味)が浮かびます。
ちなみに埋めるのは、必ずしも先生である必要はありません。授業を終えるまでに、空所に何が埋まるのかを生徒に考えさせておくというのも効果的。生徒同士で答えを見せ合い、議論させても面白いと思います。
本題に戻りますが、先生がことさら言葉を並べて本時の目標を伝えずとも、如上の板書をすれば、生徒は自ずとこれから学ぶこと(=空所に埋めるべき内容)に意識を向けます。
板書をすると、生徒は半ば本能的にノートを取ろうとしますので、「空所を含む一文(=問い)」の一語一句に目を向けますし、手を動かして書くことで、さらにしっかりとそれらを認識します。
始業チャイムが鳴ると同時に、先生が一言も発することなく、この板書を行っただけで、休み時間のざわつきから授業への切り替えが図られることもしばしばです。これも空所を残すことの副次的効果でしょう。
なお、上の例は、学び終えて獲得すべき理解を1文にまとめたものですが、学習内容によっては、箇条書きなどにして、各々のポイントとなる箇所に適切なサイズの枠を設けるというバリエーションもあります。
❏ 問題意識を刺激しておけば情報を受け取る力が高まる
問いを投げかけられ、頭の中で少し考えを巡らすだけで、その後に受け取る情報の「処理」もよりスムーズになります。
先生方がボールを投げようと(知識や情報を伝えようと)する前に、生徒にミットを構えさせる(受け止める態勢を取らせる)ことが大切であるのは、言うまでもありません。
空所を残した板書は、知識や情報を受け止める態勢を取らせる(=学びを始める準備をさせる)のに、スマートな方法のひとつだと思います。
学習目標を伝える「導入フェイズ」に限らず、大事なことを伝える場面でも、同じ手法が幅広く使えるのではないでしょうか。
別稿「強調の正しい方法」でも書いた通り、大事なポイント、焦点化したい箇所は問い掛けで着目させておくことが大切ですが、生徒が前段の板書を映しているときなどに、次の問いを板書しておくのも一手です。
弊害が少なく、且つ効果的な方法は、直前の問い掛けで生徒に考えさせ(頭を働かせ)、情報を受け止めやすい形を作ることです。
何の前ふりもなしに「○○です」と伝えるだけの時と、「これってなんだっけ?」と問い掛けて教室を見渡したのちに「そう、○○だったね」 と確認する流れとを想像して比べてみてください。
問われることで少し考えることが、次に到達する情報を受け止める準備を整えるため、ボールを受け損ねるリスクは大きく減ります。
(引用元)問い掛けによって、受け止める側の準備を整えさせる
❏ フレームの軸を最後まで空所のまま残しておくと…
空所を残した板書は、表組などの「二次元に展開する板書」でも、書き出す順番を工夫することで、応用が可能です。
例えば、以下のような内容を扱う場面では、軸に当たる部分を先に示して、後で項目を埋めていくのが普通かもしれませんが、順番を逆にしてみるだけで、学べることがずいぶん違ってくるはずです。
軸に添えた部分(「意識的に動かせるか」と「組織学的分類」)では、枠線だけ最初に描いて、中身は最後まで空所のままにしておけば、「横軸と縦軸はどういう観点での分類か」という問いで学びを結べます。
この問いへの答えを考えるだけで、表組を完成させる過程で何に着目していたのかを俯瞰できる上、情報を自力で整理するときの発想のあり方なども学べそうです。(cf. 知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得)
❏ 空所を残すことは問いを発するのと同じ
繰り返しになりますが、空所のまま残っている部分には、「いったい何が入るんだろう」という疑問が向けられます。
学びの焦点にどれだけ学習者の意識を向けさせていたかが、学びへの目的意識(=学ぶ理由)の強さを決め、記憶の刻み込み(定着)の度合いにも違いを生む以上、空所を残した板書の効果は小さくないはずです。
まして、先生の発問を耳で聞いただけの場合より、目で見て手を使って書き写すというひと手間が加わりますので、生徒が投じるエネルギーもわずかながら増えて、記銘の強化にも少なからず役立ちます。
さらにチョークの色を変えて、生徒に筆記具を持ち代えさせれば、動きを一つ増やせますので、印象に残る可能性は一段と高まるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一