生徒が納得できる本時/単元の学習目標

学習指導に限らず、あらゆる指導には場面ごとに「到達を目指すこと=目標」がありますが、先生方が指導計画の中で設定している、本時/単元/学期/年間の学習目標は「生徒が納得して、その達成にむけた意欲を持てるもの」になっているでしょうか。
先生方は、学習指導要領に規定された「教科の目標」(あるいは生徒が目標とする大学群の出題内容など)を起点に、単元や各授業の個別目標を導き出しますが、学びの過程、あるいは入り口にいる生徒には、個々の学習目標の先にあるものまでは見えていないのが普通だと思います。

3ヵ年/6ヵ年を見渡した指導計画の中で、個々の指導場面(授業や単元)の目標を適切に設定することの必要性は言うまでもありませんが、その目標の一つひとつを提示する際に「生徒が納得できる」ものであることを旨として、提示の方法を工夫していくことも大切だと思います。

❏ 学習目標を正しく把握することが学びのスタート

学び始めから学びを終えるときまで、生徒がしっかりと「目指すべき到達状態」を把握しておくことのメリットは多岐に及びます。
目標をしっかり認識していれば、その達成に向けて意欲的な取り組み/積極的な授業参加も期待できます。逆に、目標が何かわからない状態では、「言われるがままに/聞いているだけ」になりかねません。
また、学習を進める中で、もし途中でわからないことが生じたとしても「今は、これをやろうとしているところだから…」と目標に照らした想像を働かせることで、理解力の補完も働きやすくなります。
学び終えたときも、それまでの取り組みやそこで得られた成果を省みる際の「基準」も明確になる分、より的確な振り返りができるようになるはずです。目標が曖昧では、振り返りも焦点のぼけたものになります。

❏ 目標が達成するだけの価値のあるものと思えなければ…

しかしながら、先生が提示した目指すべき到達状態に、生徒が納得していない(=達成を目指すだけの価値があるとピンと来ていない)場合、目標の提示が備える如上の機能は十分に発揮されません。
生徒が「先生が勝手な思い込みで決めた目標」「なんでがんばらなきゃいけないの?」くらいにしか思っていないのでは、取り組みへの意欲も膨らみようがありません。
人が頑張れるのは、他人の思惑に左右されるときではなく、そこに自分の理由を見つけ出せたときだけではないでしょうか。
指導計画の中で先生方が設定した個々の到達目標を、「達成に向けて頑張るだけの価値があるもの」と生徒に納得させるには、まずは「学ぶ内容」を、生徒に「自分事」として認識させるところからです。
学習目標は解くべき課題で示すにしても、その課題が「どこか遠くにある他人事」では、学びのスタート地点にすら立てません。

今まさに生徒の目の前にある課題、いずれどこかで向き合わざるを得なくなる課題の中から、学習目標となり得るものを探しましょう。

❏ 生徒にとって自分事となり得る目標候補を探す先

生徒にとって自分事となり得る問題は、

  • 日々の生活の中で生徒自身が体験しているもの
  • 報道などで頻繁に耳目にしているもの
  • 教科外の学習(探究や体験学習など)で知るきっかけを得たもの
  • 自らの進路希望と関わりの持つもの

などの中にその候補が見つかるはず。これまでにSDGsを学ぶ機会を持った生徒なら、各教科の学習内容とSDGsの169のターゲットの接点に「学ぶことへの自分の理由」を見つけるかもしれません。
これらの問題を起点に、本時/単元の学習内容に繋がる「クイズ」を仕立てれば、導入の材料にも、学びの仕上げのアンカーにもなろうかと思います。(cf. クイズで導入、教科書への落とし込みで仕上げ
探究的な学びを経験しておけば、「統計」を学ぶときにも、その必要性や有用性を知ることは「学びの準備」になるとともに、何ができるようにならなければならないかを知ったことで「目標」も持ち得ます。
また、よりダイレクトなところでは、4番目に挙げたように、生徒が目標とする大学群の出題例(状況に応じて設問条件を変更したり、参考資料を添えたりといった改題は必要ですが)を用いるのも効果的です。

過去問演習を授業に採り入れるのは、受験期を迎えてからというのが多いかと思いますが、大学入学共通テストでも個別入試でも、高1、高2で学ぶ単元の内容であれば、各授業/単元のターゲットになり得ます。
今学んでいることが、どう問われるのかを知ることは、学びに「明確な方向性」を持たせるのではないでしょうか。
仮に未習の知識を要求する部分があっても、「生徒が読めばわかる(必要な情報が揃う)資料や解説」を添えれば、基礎力(言語、数量、情報の各スキル)の向上を図る好機。学習型問題への対策にもなります。

❏ ターゲットを決めれば、授業デザインは自ずと決まる

本時/単元のターゲットとなる問題が決まれば、授業のデザインは自ずと決まってくるはずです。


問いに答えを導くのに必要な知識や理解をピックアップして、それぞれをどんな学習活動を通して獲得させるかを考えていくだけです。活動を配列するときの「優先順位」にも十分に留意しましょう。

  1. まずは、教科書や副教材、資料をきちんと読ませる
  2. 理解の不十分なところは、周囲と話し合わせて補わせる
  3. それでも不足があれば、先生が教える/問い掛けで気づかせる

当然ながら、生徒が個々の学習活動を通じて行うべきところと、教室でしかできないところの切り分けは明確にすべきですので、自力で読んで理解する力がついてきたら、予習に課す部分が増えるはずです。



言うまでもありませんが、ターゲットに設定した問いを軸にした、学び終えてからの「答えの仕上げ」、その先に踏み込ませる「学びの拡張」にもしっかり取り組ませたいものです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一