知識の整理と拡充を図る場面でよく用いられている方法に、蛍光ペンでマークアップさせたり、サブノート式のプリントを用意したりといったものがあります。
限られた授業時間の中で、必要な知識をピックアップして漏らさず伝えていくには、一見したところ合理的で効率的なやり方にも見えますが、弊害も少なくなさそうです。
情報が断片化しやすいことや、見やすくなっても記憶に刻まれにくいこと、加えて情報整理の方法を学べないことなどはその最たる部分です。
2014/12/10 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 参考書や教科書にマーカーで色を塗らせるだけでは…
口頭で説明を行いながら、大切な箇所に到達するたびにマーカーで色を塗らせるという方法は、遠く昭和の時代から良く見かけるものです。
この方法が抱える最大の問題点は、マークアップした後、色をつけた部分にしか生徒の視線が向かなくなりがちなことです。
マークアップするときにも、対象となる文字列を見つけたら、生徒はその直前・直後にすら目線を走らせないのが普通です。
どれほど重要な意味をもつ語句も、文脈や体系から切り離されては、他との関連性のない「知識の断片」になり、「生きて働くもの」になるどころか、ただの丸暗記の対象に過ぎなくなってしまいます。
❏ お手軽&省エネが、記銘の効果を弱くする
別稿で書いた、”学習者が投じるエネルギー∽記憶に残る度合い” という関係に照らしてみれば、マークアップだけという手軽さが、記憶への記銘を弱いものにしているリスクにも思い当たるはずです。
マーカーを走らせるだけでは、頭の働きに大したエネルギーを使っておらず、記憶に刻まれる印象も強いものになりません。
この状態で記銘を深く行おうと思えば、生徒も先生も、覚えるまで何度も繰り返す反復方策(別名「根性方策」)に頼るしかなくなります。
それくらいなら、「声に出して教科書を読むことの効能」で書いたように、教科書の音読を経て、先生からの問い掛けによってポイントとなる箇所をピックアップさせた方が、理解と記銘に効果が期待できます。
❏ マークアップは、重要度より情報のカテゴリーを基準に
大事なところを強調(ハイライトする)と言っても、それだけでは整理されない知識を詰め込んでいるだけです。
整理は、分類と構造化によってなされますので、まずはカテゴリー分けに習熟させましょう。
下のサンプルでは、黄色と緑のマーカーと、赤ペンでマークアップさせたものですが、筋肉の名称を黄色、機能的分類名を緑で、さらには仕組みとして理解すべき部分は赤ペンで波線を引かせています。
生徒の教科書を覗いてみて、もし自力でこんなマークアップができているなら、文章を正しく読み込んで、個々の情報の位置づけや相互の関連性を把握できているということ。しっかり褒めてあげたいところです。
そうでない生徒には、教科書や副教材の読み方やマークアップの意味とその方法などを改めて学ぶ機会を作ってあげないと、いつまでたってもただ紙面をカラフルに色付けするだけのところに立ち止まります。
重要度がそれほど高くないものまで色をつけまくれば、もはやどこがポイントかも判然としなくなくなりますし、誤った色を当てれば、却って情報の構造/関連を見誤りやすくしてしまうだけです。
❏ 最初のうちは、板書でしっかりモデルを示す
情報をカテゴリーで分けるというのは、ある種の知的活動であり、その方法を学ぶ前から的確にできるものではありません。
最初のうちは、先生からしっかりモデルを見せ、どのような基準でカテゴリーを分けているか明確に伝える必要があります。
モデルを示して真似させるのは、学び方における守破離の入り口です。
前提として、先生ご自身が板書を行うときの「色分け」や「記号の使い分け」に明確で一貫した基準を持っているかどうかの自己点検も必要です。もしご自身の中で規準が曖昧では、こうした指導はできません。
❏ 情報を分類する視点とスキルの涵養は指導目標の一つ
カテゴリー分けに生徒が習熟してきたら、少しずつ生徒自身に判断させる場を作りましょう。
いつまでたっても先生がガイドしていては、生徒は自分でできるようにもならないばかりか、自力でできることの必要性も認識しないかも。
判断の根拠を尋ねて、その答えを言葉にさせることを繰り返すうちに、生徒は明確な基準を自分の中に持つようになります。
そうなれば、どこを、どうマークアップするか、口頭でいちいち説明や指示をする必要はなくなり、貴重な授業時間のより多くを、課題解決や対話的な学びに投じる余裕も生まれるのではないでしょうか。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一