自分の取り組みの成果を発表できる機会

生徒がそれぞれに取り組んできたこと(工夫と努力の成果)を発表する機会を、授業内外にしっかり整えることの効果は、発表という「目標」に向けて生徒の頑張りを引き出すことだけに止まりません。
自分の取り組みの成果を存分に伝えられれば達成感を原資とする次へのモチベーションが得られますし、仮に多少の失敗を含んだときにも次のチャンスでの課題が形成できて、先の学びに向かう姿勢を作れます。
周囲の頑張りを目の当たりにすることで、自分の取り組みや成果を相対化・客体化することもできます。良いものに触れることが学びや成長のきっかけになるのは大人も子どもも変わりません。
相互啓発や学習のメタ認知作りにも、「成果を発表する機会」の整備は欠かせず、その場をどう作るかは授業づくりの大切なポイントです。

2015/06/03 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 感覚的な捉え方を超えて「相対化」

他の生徒の発表(パフォーマンスや作品など)に触れて、その素晴らしさを言葉で説明できるようになれば、自らもそこに近づける可能性がぐっと高まります。
また、練習や作業を経て得られた周囲の優れた成果を見て、「あそこまでは到達できるのか」と可能性を押し広げて感じることもできます。
他者の達成を目の当たりにすることで周囲が続々とそれまでの限界を超えていく風景は、何もスポーツの世界に限りません。
彼我の違いから気づきを得て、それまでの自分の限界を超える方策に思い至ることもあるでしょう。
先生が個々の生徒が作り上げたもの、成し遂げたことを正当に評価してあげることはもちろん大切ですが、生徒が自分自身の取り組みとその成果を相対化することの効果はそれ以上だと思います。

❏ 良さを見出し言語化する、評価の訓練

単に発表の機会を整えるだけでなく、発表されたものの素晴らしさ、倣うべき点を「生徒自身の言葉」にさせる働きかけが伴うことが、こうした機会整備の効果を高めます。
まずは、素晴らしさをピックアップして、次にどうしてそれが素晴らしいことなのかを理解していく入り口をスムーズに整えるのは、教員からの評価とフィードバックに他ならないはずです。
将来、その世界で飯を食っていけるような才能にあふれた生徒は、先生方からの支援がなくても自力で課題を見つけ出していくことができるかもしれませんが、他の生徒もそうであるとは限りません。
ここでも「守破離」に留意したいところ。
まずは評価の模範を見せ、真似をさせていくことで、やがて教える側が想定しないような(=最近は「斜め上」と呼んだりしますね)見方を生徒が示し始めます。

❏ 苦手意識が前に出る生徒への配慮も

発表は、得意な生徒には「晴れの舞台」ですが、他方、苦手な生徒にとっては「できれば登りたくない檀上」かもしれません。
普段の授業から、失敗を肯定的に捉えて、人の努力を尊重する雰囲気をクラスのなかで作っておくことが何よりも大切です。

そのような雰囲気が作られていることを前提に、クラス全員の前ではなく、小グループ内での小さな発表機会を作ってあげることも重要です。
発表は必ずしも衆人環視であることを条件としないはずです。
個人練習やグループでの活動の中で、先生がしっかりと取り組みと成果を見てあげて、良いところを拾い上げてクラスに伝えてあげることも、苦手な生徒には救われるものがあるはずです。
なお、小グループでも人間関係が固定することで相互の学びが阻害されることがあります。フォーメーションは頻繁に変更するのが好適です。
他の生徒との比較の中で劣っていたとしても、部分的にできているところがあれば、そこを挙げて言葉で伝えることを相互評価におけるタスクにさせているという先生もいらっしゃいました。

❏ 発表者を指名する前には状況の把握を

発表に臨ませる前に、生徒の状況をよく掴んでおくことが大切なのは、生徒を指名して発言させるときと同じです。
自分の進歩が感じられ、人にも認めてもらいたいと感じているときに発表の機会を与えることは、自己効力感をより大きくし、モチベーションを高めることに繋がります。
これとは逆に、抱えた課題がクリアできずに進歩が見られないときに発表をさせては、本人にも周囲にもプラスの影響は期待できません。
但し、何らかの課題を抱えていても、ちょっとした修正で全体がグンと良くなる可能性があるなら、発表させた上でより良いものに向かう工程をクラスで共有するという方法もあります。
少し手を入れるだけで大きな改善が期待できると知れば、「だめだ」という漠然とした認識を「こうすれば良いのか」というポジティブなものに換えることができますし、同じ課題を抱えるほかの生徒にも有益な指針となるはずです。

❏ 自己評価と他者評価をプラスで一致させる

発表には当然ながら評価がつきものです。ここでのポイントは、自己評価と他者評価を一致させることです。
自己評価が他者評価より高いとフラストレーションを感じ、逆に自己評価が他者評価を下回っているとプレッシャーやストレスを感じます。

意図するべきは、第一象限に向かわせること。まずは、生徒一人ひとりがどの位置(座標)にいるかを把握することが重要です。
生徒に発表をさせるときは、本人が自己をどのように評価しているか注意深く観察することに注力しましょう。必ずしも本人の口からそのまま表現されるわけではないので、言葉の裏を読み、鵜呑みにしないことも大切です。

◆ 改善のための必須タスク:

自分の努力や取り組みの成果を示す場は、与えられたタスクに真剣に取り組む大きな動機となります。また、他の生徒の発表を見て、彼我の違いから次に何をなすべきかを見出すきっかけにもなるはずです。どのような観点で評価されるか、規準を前もって示しておくことで、発表に向けた準備に目的意識と方向性を持たせましょう。

◆ さらなる改善を目指して:

自分の努力や取り組みの成果を発表し、正当な評価を得ることは、自己肯定感を刺激し、頑張る意欲の原資にもなります。漫然と発表させるだけでは効果は限定的です。評価の観点を予め示した上で、準備の段階から自己・相互点検を行わせることで、発表の準備そのものが成長のきっかけになるように仕向けて行くことが肝要です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一