ワークショップで狙うべき「効果」とその進め方

対話的な学びを実現すべく、授業内の学習活動にグループワークを採り入れるケースは増えていますが、多くの場合、特に教科学習指導では、メンバーの間での「知識のシェア(教え合い)、気づきの交換」により単元の内容理解を深めることが主たる目的になっているかと思います。
一方、「話し合い」には、答えが容易に出ない(≒正解が一つに決まらない)問題に各メンバーが「当事者」として関り、納得解を導き出したり、合意を形成したりすることを目的とするものも多々あります。

❏ ワークショップを通して目指すところ

確立した定義があるわけではないと思いますが、取り敢えずここでは、前者を「グループ学習」、後者を「ワークショップ」と呼びます。
まちづくりやビジネスの場で広く行われるのは、グループ学習ではなく、後者の「ワークショップ」ですが、そこで期待されているのは、

  • 他者を理解する(同時に自分を相対化してより良く知る)こと
  • 協働で問題の解決に取り組むコミュニティを形成すること

などだと思います。そうした能力・資質あるいは姿勢を育んでいくのには、十分な練習を経験させる必要があるのは言うまでもありません。
21世紀型能力の「外縁」に配置されている「実践力」は人間関係形成力、社会参画力、持続可能な未来への責任といった要素で構成されますが、それらを獲得するための練習機会をどこまで整えられるかは、今後の学校に問われるところの一つだと思います。


❏ まずは、立場や考え方で賛否が分かれるイシューを設定

他者理解や合意形成を目的とする「話し合い」の場を持とうとするときに、何はさておき必要になるのが、立場や考え方により賛否が分かれる問い(イシュー)の設定です。
既に事実であることが確かめられていたり、最適解が確立している事柄であれば、きちんと学び、必要な知識と理解を蓄えていけば、賛否が分かれることはなく、議論はまず起こり得ません。
教科学習指導の場であれば、単元の学習内容と関連を持つ「今まさに身の回りにある問題」をピックアップすることが議論の起点になります。
担当されている教科・科目の学習内容ありきで、記憶を掘り起こしながら、教室での議論に適した問題を探そうとしても、なかなか好適な材料に行き当たらないこともあろうかと思います。
むしろ、ニュースなどで取り上げられている出来事や問題を起点にして自教科の学習内容がそれらにどんな接点を持ち得るかを考えてみるというアプローチの方が、題材をうまく探し当てる確率が高いと思います。

❏ 他者理解を促すために、賛否の立場を入れ替えて

協働で解決に取り組むべき課題に対して、各メンバーが納得できる解を作り上げ、合意を形成するには、互いの考えや立場を正しく(深く、思い込みを排して、偏りなく)理解する必要があります。
グループで話し合う中で、自分とは違う考えがあることを知るところが如上の学びの始まりです。
話し合いを始めさせる前の説明で「先生の誘導」が過剰に働くと、同じ意見に収束しがちです。意図せず、多様な立場と考えを知る機会を損ねるリスクを招くことを念頭に、導入フェイズは注意深く進めましょう。
他者理解を深めさせる仕掛けの一つとして、賛成・反対の立場を逆にして「話し合い」を行わせるのも良く使われる手です。
この活動は、自分と異なる考え(賛否の態度)を取る人たちが、どんな事情を抱え、どこにこだわりを持っているかを考える好機になります。
また、本来の自分の立ち位置である、反対の立場を取る相手を説得する/納得させる提案や論法を考えることは、自分の今の考えを客観的に捉え直し、自己理解を深めることにも繋がるのではないでしょうか。
凝り固まっていた自分の考えを突き崩す思考や着眼点を自ら見つけ出すことになり、その方法を学ぶことには大きな価値があると思います。

❏ 話し合いの準備で獲得が図れる知識・理解×能力資質

話し合いに参加するとなれば、それなりの準備が必要です。下調べの段階では様々な資料に目を通すことになるでしょうし、相手の納得を得るためのデータを集めることもあるはずです。
その過程で、信頼できるソースを探すトレーニングもできれば、読んで理解する力、データを解釈して利用する力も身につきます。
集めた情報を効果的に編んで、プレゼンにまとめる中では、情報を加工し、デザインする力の獲得も進むものと思われます。
こうした「準備」を通して、生徒は言語・数量・情報の各スキル(21世紀型学力でいうところの「基礎力」)を駆使する機会を得て、それらを高めていくことができるはずです。
所謂「グループ学習」でも同じ学びは経験できるでしょうが、当事者として協働で解決に取り組む課題を目の前にすれば、より高い意欲と目的意識を持った学びが期待できるのではないかと思います。
そこには各メンバーの大きな成長や発達が期待できるだけでなく、問題解決にはもっと理解するべきことがあると知ったことで「学ぶことへの自分の理由」も生まれてくるはずです。

❏ 学習指導以外でも積極的に活用~指導手法の確立を図る

ワークショップを学習活動に組み込む好機は、教科学習指導以外の場面でも様々なものが考えられます。
別稿「高大連携や進路関連のイベントに外部人材を活用 #3(行事の中で行うワークショップ)で挙げた例などはその一つです。
また、探究活動の舞台としての地域連携を設計するときにも、地域課題に整理をつけたり、解決策を考えたりするフェイズでワークショップは有用な活動になるはずです。

部活動の運営方針でぶつかり合ったり、校外行事でのクラス予定を立てる中で対峙があったりしたときも、納得解を作り出し、合意を形成するにはワークショップが有用です。クラス担任や部活・委員会の顧問としても身につけておきたい指導スキルかもしれません。
意見の対立があったときに「多数決以外の解決方法を持たない」のでは心許ありません。この状態から抜け出すための練習の場をしっかりと整えていきたいところです。

❏ ワークショップの指導法開発を目指して先生方も協働

ワークショップを効果的に成立させるための条件の一つは、先生方がファシリテーターとしての正しい役割を果たすことだと思います。
これまでに十分に場数を踏んだ先生方ばかりではないはずです。新課程が求める新たな学びのデザインの一つとして、先生方の協働の中で好適な手法の開発と共有を図っていくべきだとお考え下さい。
 ■ 新たなチャレンジに先生方の協働で取り組むとき
ワークショップが目指すところをしっかりと押さえて、それぞれが最適と考える方法を試す中で、その成果を確かめながら、より効果的な方法を探りだしていきましょう。

  • ワークショップを経て、思考や考え方に変化が生じた(成長した)
  • 資料やデータを用いて、効果的に相手を説得することができた
  • 問題への当事者としての関わりがリフレクションログに読み取れた
  • 関連分野への関心が新たに芽生えた/学びたいことが生まれた

といった観点で、〇△✕を生徒一人ひとりにつけてみることでも、その分布から指導の成果を推し量れる/比較できるかもしれません。
また、ワークショップを進めるときに生徒が身につけて置くべきスキルは、その場だけでの練習では十分に身につきません。日々の授業の中にも練習機会をできるだけ用意してあげたいところです。
情報整理ひとつにしても、付箋を並べた「分類」しかできないグループもあれば、階層化や入れ子構造を作ったり、マインドマップを書き出したりするグループを見かけることも…。互いの取り組みから学ばせていくことも大切ではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一