演習中にワンステップずつ進める板書

ひと通りの説明を終えて、生徒に問題演習や作業などを始めさせたら、そこから先はできるだけ生徒の活動を止めないようにしたいものです。指示や説明を追加するのに先生が口を開いてしまっては、生徒は先生の話を聞くために思考や手元の作業を止めてしまいます。
こうした場面では、生徒の様子を観察してタイミングを見極めつつ、口を開かず黙って板書の続きをワンステップずつ進めるのも好適です。
教室で実際にこの方法を試してみると、生徒の手が止まっている時間を短くする効果が確認できるほか、話を聴かせる場面と、解くことなどに専念する場面の切り分けがはっきりして集中の度合いも高まります。

2015/12/09 公開の記事をアップデートしました。

❏ 観察しながら、思考のプロセスを1段ずつ板書
説明や指示を終えて生徒が演習や作業に取り組み始めたら、まずは生徒が取り組む様子をしっかりと観察しましょう。
クラス全体がある程度のところまで進んだり、反対に躓いている生徒が多く見られるようになったら、如上の板書を行うタイミングです。
一定以上の生徒が、正解に辿り着くまでのプロセスのある箇所まで到達した様子が見て取れたら、何も言わず(口を開かず)に、用意しておいた「板書案」をそこまで進めていきましょう。
題意を図に起こすところまで進めては、板書の手を止めて生徒の様子を観察し、また暫く経ったら立式まで進め、といった具合に、工程を追って、正解へのプロセスを一つひとつ黒板上に表示していく形です。
生徒の思考が進まず、躓いている様子のときも同じように板書を進めることで、躓きの解消/思考の再開を促していくことができるはずです。
❏ ワンステップずつ進める板書で得られる効果
このようにワンステップずつ進めていく板書には、様々な状況の生徒がそれぞれに必要としている「助け」を提供します。
そこまで自力で正解への道を辿れていた生徒は、板書を見て、「よし、ここまでは間違っていないな」と安心して先に進んでいきます。
自分がやってきたことが合っているかどうか不安になると、立ち止まってしまったりしますが、そこまでの確認ができれば再び先に進めます。
途中でわからなくなって躓いていた生徒も、顔をあげて黒板に目をやれば、そこには次に進むために必要なことやヒントが書き出されていますので、「ああ、そうか」と、また解く手を動かし始められます。
生徒一人ひとりが自分のペースで問題を解きながら、そこまでの思考が正しいことを確かめたり、必要に応じて板書に助けを求めたりする中で先生との「板書を通じた無言の対話」を重ねていくイメージです。
❏ 板書でのサポートで、解く手を再び動かさせる
多くの生徒の「解く手」が止まり、躓いている様子が見て取れるときにも、演習をストップさせるのは避けたいところ。改めて説明を聞かせるまでもなく、同様の方法で助け舟を出すことができます。
多くの生徒が見落としている重要ポイントがあるなら、それを色チョークで目立つように(「吹き出し」にして添えるのも効果的です)黒板に示してあげましょう。
クラス全体の動きを止めずに、必要な説明を再び行ったのと同じ効果が得られます。
教科書や副教材に書かれていることなら、参照すべき箇所をページ番号などを板書して知らせるのも好適です。それでもピンと来ない生徒が多いようなら、ポイントとなることを板書して気づきを促しましょう。
見落していることに気づかせる「問い」の形で板書するのも好適です。
ワンステップずつ進んでいく板書で、躊躇いや躓きをこまめに解消していけば、学びの滞留時間も短縮され、50分の中で生徒一人ひとりが頭をきちんと使った時間を大きくしていくことができるはずです。
❏ ノートを汚したくない生徒にも有効
演習や作業の中でこのように板書を進めていくのは、「自分のノートを汚したくないと考える生徒」に対しても有効なアプローチになります。
一度ノートに書いたものに朱入れする/書き直すことには、気づきと定着の効果が大きく期待できるだけに、「ノートを汚したくない」というのは間違った姿勢ですが、現実にそういう生徒は少なくありません。
書き直しになる羽目を恐れて、手を動かさずに答えが示されるのを待っている/頭を働かせていない時間を無駄に過ごさせたくないものです。
生徒が問題を解き終わるのを待って、先生が解説を進めていくという普通のやり方では、間違っていたところを直すにしても、消して書き直すところが大きくなるので、ますます嫌になります。
ワンステップずつ進める板書なら、後戻りと進み直しも小さく進みますので、あまり抵抗を感じさせずに済むはずです。
直すときは自分が書いたものを消さずに「取り消し線と色ペンでの添え書き」でマークアップさせる指導を併用している場合も、ワンステップずつ進めていけば、修正箇所が広範囲に及ぶことは稀でしょう。
❏ 板書に際し、口頭での説明を挟まないのがポイント
様々な効果がある、ワンステップずつ進める板書ですが、板書をしながら先生が声を出して説明をしては台無しになります。
先生が口を開いたら、生徒の認識は「解く場面」から「聞く場面」に切り替わります。せっかく自力で問題に取り組んでいた生徒が、手を止めてしまっては何にもなりません。
口頭での説明を加えずに、無言で板書を進めるのがここでのポイントです。「あくまでも、今は解く時間だよ」というメッセージを「沈黙」によって伝えるようにしましょう。
前もって読ませたり聞かせたりした解説と、生徒同士で確認させたことがしっかり土台にあれば、問題を解かせ始めてから新たに加えるべき事柄はそんなに多くないはずです。
もし、問題を解かせるフェイズを迎えてなお、あれこれと補足で説明をする必要があるなら、それは課題に挑ませる前にやっておくべきだったことがちゃんとできていないからです。
課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認
❏ 演習中は周囲と相談しても良いというルールも併用
演習や作業を進めるときにどうしてもわからないことに出くわすと、そこで学びは止まってしまいます。机間指導をなさっている先生に質問をするという手もありますが、同時に対応できるのは一人だけ。他の生徒は「順番待ち」です。
こうした問題への対処策の一つが、本稿でご紹介した「演習中にワンステップずつ進める板書」ですが、「演習の時間中は、周囲と相談してもかまわない」というルールも併用すれば、躓きで立ち止まる時間はさらに大きく減らせます。
隣をみたら真剣に考えている様子に声を掛けられなくても、他を見渡したらすでに解き終えている生徒が居るかもしれません。
そうした「訊く相手」が見つからないときも、少しだけ待てば先生が次の一手を板書してくれることがわかっていれば、途方に暮れることもないと思います。
本稿は、「不用意な“待て”をかけない」 の続編として起こしました。
同シリーズの各記事も併せてお読みいただければ光栄です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一