わかりやすい話し方(その3)

ルーチンの確立/活動の切替

わかりやすい話し方を実現するには、話し方そのものの改善だけでは不十分です。生徒にしっかりと先生の声が届く環境を整えることなども、重要な情報に生徒の意識をフォーカスさせる上で欠かせません。
また、余計な言葉(説明/指示/注意)を減らせれば、大切なところを着実に伝えることも容易になるはずです。これまでのやり方に、余計な指示や説明を繰り返す部分がなかったかも見直しましょう。

2014/08/01 公開の記事をアップデートしました。

❏ 教室の環境整備と休み時間からの切り替え

窓やドアが開け放しになっているために、外から音が入り込んで先生方の声が生徒に届きにくくなっていることはないでしょうか。
空調設備が整っているのであれば、適切に使用して、外部の騒音を遮断できる環境を作りましょう。
感染症の流行期には、十分な換気も必要となり、静粛と換気の両立には悩むところですが、脚注でご紹介するような方法もありそうです。
また、始業のチャイムが鳴ってから生徒がようやく教材をカバンから取り出し(中にはロッカーに走る生徒も)、休み時間の喧騒を引きずっているところで大事な話を始めても、きちんと伝わりません。
騒ぎが収まるのを漫然と待っているようでは、時間は無駄に過ぎるばかり。限られた授業時間を有効に使うようにしましょう。

チャイム着席のルールを守らせるだけでなく、授業の冒頭で小テストなどのタスクを与えることで、休み時間からの切り替えを図りましょう。
何も言わずに「本時のターゲットとなる問い」 を板書したり、既習内容の復習Q&Aで生徒に教科書やノートを開かせたりするのも有効です。

❏ 生徒が演習や作業に集中しているとき

机間指導を行っていると、指示が伝わり切っていなかったり、前提知識を欠いている生徒がいたりと、生徒に伝え直したいことが出てくることがありますが、その場で声を出して指示などを発しても、クラス全体にうまく伝わらないことが多々あります。
机間指導は、生徒が何らかの作業に取り組んでいる間に行いますので、生徒はそちらに集中しています。当然のことながら、先生からの指示や説明を受け止める態勢は解かれているはずです。
心づもりが出来ていないとき、唐突に何かを伝えられても、聞き逃したり、理解し損ねたりします。何かを伝えるのは生徒に聴く態勢を取らせてから(ボールを投げるのはミットを構えさせてから)です。
黒板の前に立つなど、生徒の目線を上げさせ、こちらを向かせる(=自分の目と口が生徒に見える状態を作る)ことを先ずは徹底しましょう。
一方、指示は伝えたいが同時に生徒がせっかく集中している活動/作業は止めたくないときもあります。そんなときは、別稿「演習中にワンステップずつ進める板書」でご紹介したような方法もあります。
注意点や補足を黒板に書き出せば、生徒は「何か書いているな」と気づき、自分のタイミングで黒板に目をやりそれを確認しますし、ひと通り作業や練習が終わったところで、改めてその板書に立ち戻り、押さえるべきところの確認と再記銘も円滑に行えるはずです。

❏ 同じ刺激を連続させない~メリハリと活動の変化

同じ刺激が続くと、次第にそれに慣れてしまい、「刺激への感度」が下がり、結果的に重要な事柄を聞き逃すようになりかねません。
緩急や強弱などのメリハリも、ただつければ良いというものではなく、伝えようとしていることの重要度などに応じて適切に切り替えをしないと、大切なところで生徒の注意をしっかり引き付けられなくなります。
普段の話し方とのギャップの大きさは、生徒の意識を引き付けます。話に興が乗ってくると声は大きく、ピッチは速くなりがちですが、あえて声を低く抑え、ゆっくりと噛んで含むように聞かせるのも効果的です。
また、どれほど話し方にメリハリをつけても、聞かせているだけの場面が続けば、生徒は集中力を維持できません。
ある程度の説明をしたら、そこまでに聞いたことを整理させるための問いを与えて、生徒自身に考えさせ、その結果をワークシートに書き出させたり、ペアや周囲で話し合う場を持たせたりするなど、活動を切り替えていくことも大切です。
一つの目安としては、話を始めるときに上げさせた顔が、自分の方向に向かなくなってきたら、話して聞かせることの切り上げ時です。

❏ ルーチンを確立することで、余計な指示を省く

説明を聞かせるときだけでなく、指示を与えるときも同様です。同じ指示や注意を幾度も繰り返していると、生徒はことの重大さを感じ取れなくなってきます。結果として指示通りの行動もとれなくなりますし、指示の中身の一つひとつにも十分な注意が向けられなくなります。
特段の指示がなくても守るべき「教室内での約束事やルーチン」を一つひとつ確立していくことで、その場で個々に与えなければならない指示をできるだけ減らしていくようにしましょう。
指示を減らすことができれば、聞き漏らしや聞き間違いが生じるリスクも小さくなる上、生徒に取り組ませる学習活動そのものに割り当てられる時間を増やせます。まさに一挙両得です。

❏ 板書を使って手順を予め示しておく

本来の学習活動以外に使う時間(指示や説明、注意など)を必要最小限に抑えるという点では、その日の授業で取り組む活動の一連の流れを、予め板書にして生徒の視野に置いてしまうという手もあります。
授業を進めながら次の手順を逐次説明するにも、事前に大まかな流れを目で見ているだけに、生徒はある程度まで流れを予想できる上に、目と耳の双方で情報が重なって入ってきますので、理解も容易になります。
説明を進める中での注意点なども、その板書に逐次つけ加えていけば、意識もしっかり向けさせることができ、伝達の漏れも減らせます。
学習内容について、本時の到達目標を予め理解させておくことで、生徒の理解力が底上げされるのと似た効果です。次にどんなタスクが待っているかを知れば、それを見通した主体的な行動も期待できそうです。
これらは、黒板を使わずとも、スライドに仕立てておきプロジェクタで提示してもよいでしょうし、生徒が一人一台のタブレットを持つようになった今、「配信」しておけば十分かもしれません。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一



追記:感染対策のための換気と外部の騒音の遮断


休み時間にドア/窓全開で十分な換気をしておけば、授業時間中のドアや窓は必要最小限だけ開放しておけばOKとの報告もあります。
例えば、学校における新型コロナウイルス感染症の感染予防対策「教室における換気」のスライド #16 を見ると、「教室後方の窓」と対角線上にある「廊下側の前方扉」をそれぞれ20センチ開けておくと、室内の空気は約500秒で入れ替わるようです。
隣の教室とは、開けてある窓と扉が互い違いになります。教室一つ分だけ離れる上に、開口面積もかなり小さく、廊下から飛び込んでくる隣の教室の物音や話し声は、よく学校で見られる「前後ともドア全開」の場合と比べて、かなり小さくできるのではないでしょうか。

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話し方・伝え方、強調の方法Excerpt: 1 わかりやすい話し方1.0 わかりやすい話し方(序) 1.1 わかりやすい話し方(その1) 1.2 わかりやすい話し方(その2) 1.3 わかりやすい話し方(その3) 1.4 わかりやすい話し方(その4) 2 強調の正しい方法2.0 強調の正しい方法 2.1 強調の正しい方法(その1) 2.2 強調の正しい方法(その4) 2.3 強調の正しい方法(その2) 2.4 強調の正しい方法(その3) 2.5 強調の正しい方法(その5)
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